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33.衝撃的な事実



 ファウダーは早速探偵に依頼し、ゴルディーの不貞の証拠を調べたが、レイノルズ侯爵家の使用人達が口を揃えて「侯爵は不貞をしていない」と言い、確実な証拠が掴めなかった。

 不貞はほぼ侯爵邸の中で行われていたからだ。

 ゴルディーが金をばら撒いて口を閉ざすよう使用人達を言い包めたのだろう。


 これは後で分かった事だが、アーシェルを育ててくれたメイドはお金を拒否したのだが、告げ口をしたらアーシェルと離れさせると脅されていたらしい。



 証拠が掴めないと親権はゴルディーのままになり、アーシェルを引き渡せて貰えない。

 王族だからといって、隣国の貴族にその権力や特権を使用する訳にもいかない。



 しかし、二人は諦めなかった。

 ファウダーはセライナと結婚をし、国王になった後も度々レイノルズ侯爵家を訪れ、侯爵にアーシェルの引き渡しを要求したが、



『娘はこの家で楽しく幸せに暮らしている。この家を出るのを嫌がっているし、自分を置いて男と出て行った母を憎んでいる。あなた達の顔も見たくないと言っている』



 と言われ、アーシェルに直接会う事も断固として断られ、無理矢理連れて行くわけにもいかず、毎回悔しい思いで侯爵家を後にしていたのだった――




❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀




「……君がセルジュと会った日も、君の引き渡しを要求しに訪れていたんだ。いつものように同じ台詞を言われ、早々に追い払われてしまったがな」

「そう……だったんですか……」



(……そうだ……。あの日は父に、「夕方まで絶対に帰ってくるな。家に姿を見せるな」と理由も分からず追い出されて……。今思えば、そんな事が何度もあった……。父は……私をお金の“道具”として、高位の貴族と政略結婚をさせたかったんですね……。その為に私は……あの家に残らされて――)



「……アーシェル嬢は、決して幸せではありませんでした。寧ろ不幸のドン底でした。幼い頃からずっと家族から虐待され、使用人達からも暴言を浴び、家に居場所はありませんでした。政略の婚姻の相手は、別の女子と堂々と浮気をしていましたし」

「れっ、レヴィンさん!? それは……っ」

「はっ!?」

「えっ!?」



 レヴィンハルトの暴露にアーシェルは焦り、ファウダーとセライナは同時に驚きの声を発した。


 みるみる二人の顔が憤怒に染まっていく。



「あんっのクソ馬面野郎っ! 嘘ばっかり言いやがって!! 何が『娘は幸せに暮らしている』だぁ!? もう我慢出来ん、今すぐブッ殺しに行ってやるっ!!」

「えっ!? こ、国王様、そ……そんな乱暴な言葉を――って、本当に部屋から出て行かないで下さいっ!? その手に持つ剣を今すぐ鞘に仕舞って下さいっ! ――れっ、レヴィンさん、早く国王様を止めて下さいっ!」

「俺はあんな男、殺されても全く構わないがな。――陛下、あの塵屑男の為に殺人者にならないで下さい」

「チッ、クソが……。暗殺者を雇うか……。最も無惨な死に方を指定して――」

「こ、国王様っ!?」

「アーシェルっ、ごめん、ごめんね……っ! そんな辛い思いをずっとさせてしまって……! 私と同じ苦しい思いまでして……! やっぱり強引にでも貴女を連れて行けば良かったわ! あの男を殺してでも……! アーシェル、こんな愚かで最低な母を、気が済むまで思いっ切り殴って引っ叩いて蹴って踏んで罵って頂戴っ!!」

「えっ!? お母様まで殺人者にならないで下さいっ!? し、仕方なかったと思います、それは! 親権が父にあったなら、無理矢理私を連れて行くと誘拐になって大事(おおごと)になってしまいますし……! だから泣かないで下さい! ね、お母様っ!?」



 顔を真っ赤にさせ腰に差す鞘から剣を抜き、般若の形相で部屋から出て行こうとするファウダーを止め、大号泣しながら自分に抱きついてくるセライナを宥め、アーシェルは大忙しだった。


 けれど、自分の為にこんなに本気で怒って心配してくれる二人に、アーシェルは心がじわりと温かくなり、嬉しさも込み上げて泣きそうになってしまった。



「レイノルズ侯爵と、愛人だった侯爵夫人は諸々の罪で捕まり、牢に入れられました。侯爵家の存続は絶望的、奴らは平民となり、返済の為死ぬまで労働でしょう。使用人達も全員解雇されました。侯爵家の娘を苛めていたという噂が広まり、そんな者達を雇いたいなんて貴族の家は無いでしょうし、アーシェル嬢の虐待の加担として罰金の支払いもあり、全員路頭に迷うでしょうね」

「そうか。何もかも自業自得だな。後日、冷やかしがてら侯爵をぶん殴りに行く事にしよう」



 真面目な顔でそう言ってのけるファウダーに、アーシェルは思わずクスリと笑ってしまう。


 話が一段落ついた所で、アーシェルは気になっていた事をセライナに訊いた。



「あの、お母様。セル――セルジュ殿下は、お母様と国王様の子供……ですか?」



 セライナはアーシェルの問いに一瞬言葉を詰まらせた後、顔を伏せ頷いた。



「……えぇ、私達の息子よ。あの子から『お嫁さんにしたい子がいる』って聞いていたけれど、まさか貴女だったなんて……」

「……じゃあ、セルは……私の“弟”、なんですね……?」

「……えぇ、そうよ。父親は違うけれど、二人共私が産んだ大切な子よ」



 ――自分と同じ、七色に光る瞳を持つ男の子。

 初めて会ったのに、他人とは思えなくて、すぐに打ち解け合って。



 会いたいと切に願ったセルジュが自分の弟と知って、不思議な事にアーシェルにショックは無かった。

 「あぁ……そうなのか」と、自分の中ですんなりと受け止められた。



 寧ろ、セルジュと血が繋がっていた事に――他人では無かった事に、心から喜びを感じていて。



(セル……。貴方のお嫁さんにはなれなかったけれど、貴方は私の大切で可愛い“弟”ですよ――)



「お母様、セルは今何処に……? 外出中ですか?」



 アーシェルの問い掛けに、セライナとファウダーは顔を見合わせ、同時に辛そうに表情を曇らせる。



「お母様……?」

「……アーシェル、その――」

「アーシェル、落ち着いて聞いて欲しい」



 言葉を濁すセライナに代わるようにファウダーの低く紡がれた声に、アーシェルの心が一気に不安の底へと落ちていく。


 彼の続きの言葉が聞きたくなかった。



 しかし、無情にも彼の口が開かれてしまう。




「セルジュは……もう、この世にはいない。息子は、半年前に……命を落としたんだ」






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