31.衝撃的な再会
「いや、息子の願いだからな。お前が不在の間は魔術士団長が頑張ってくれていたよ。お前がいなくてかなり大変そうだったけどな。――もしかして、お前の隣にいる子が?」
「はい、そうです。セルジュ殿下が会いたいと願っていた子です」
ファウダーの視線が自分に向けられ、アーシェルはビクリとしながらもカーテシーをした。
「い、偉大なるウォードリッド国王陛下に御挨拶申し上げます……」
「いい、いい。そんなに固くなるな。顔を上げてくれ」
アーシェルはそろそろと顔をファウダーに向けると、彼は大きく青緑色の目を見開かせた。
「……お嬢さん……。名前は……何と?」
「あ……大変失礼致しました。私、アーシェル・レイノルズと申します……」
「……っ!!」
ファウダーが鋭く息を呑み、ガバッと玉座から立ち上がったかと思うと、ツカツカと早歩きでアーシェルのもとに来た。
そして、ファウダーは驚く彼女の頬にそっと手を添える。
「……そんな……そんな偶然が……。君が……息子の最愛の……。そして“彼女”の――」
震える唇でそう呟くと、ファウダーはアーシェルの碧色の瞳を泣きそうな顔で見つめた。
自然とアーシェルもファウダーの顔を見る事になったが、間近にある彼の目の下には隈があり、頬も少し痩けていて。
そんな彼の様子に、アーシェルは戸惑いを隠せない。
「……あ、あの……?」
「アーシェル嬢。今すぐ俺の妻に――この国の王妃に会って欲しい。いいか?」
「え? あ……は、はい……」
断る理由も無いので、アーシェルは困惑しながらもコクリと頷く。
「ありがとう。妻は自分の部屋にいる。……今はまだ少ししか公務が出来なくてな……。早速行こうか」
ファウダーは自然にアーシェルの手を握ると、彼女を連れて王の間を出た。
「――陛下、その子の手を離して下さい。俺が連れて行きますので」
後ろから付いてきていたレヴィンハルトに不機嫌が含まれた声を掛けられ、ファウダーは軽く目を瞠って彼の方に振り向いた。
その少しの間に、眉根を寄せたレヴィンハルトがアーシェルの手を取りファウダーから離れさせる。
「……お前が俺に対してそんな反抗的な態度を取ったのは初めてだな? ――あぁ、そうか。俺とこの子が手を繋いでいるのに嫉妬したのか。案外心が狭いな。それとも独占欲が強いのか。堅物なお前の意外な一面だ」
クックッと可笑しそうに笑うファウダーに、レヴィンハルトは眉間に皺を寄せたが何も言わなかった。
アーシェルはキョトンとして二人を交互に見る。
「安心しろ、俺は妻一筋だからな。それに、この子は――あぁ、着いたぞ」
ファウダーは、目の前にある部屋の扉に立つと、アーシェルの方を振り向く。
セルジュに似た端麗な顔はとても真剣味を帯びていて、アーシェルは思わずドキリとしてしまった。
「妻は、君にすごく会いたがっていた。ずっと……ずっとな。そして、君に謝りたいと切に願っていた。……俺も……な」
「え? ……ど、どうして……?」
「それは妻に会えば分かる」
ファウダーはセルジュと同じ青緑色の瞳を微かに潤ませながら言うと、扉をノックした。
「……はい、どうぞ」
女性の柔らかな声が返ってきて、ファウダーは扉をカチャリと開いた。
「セライナ、俺だ。君が会いたがっていた子を連れてきた」
(え? “セライナ”……?)
聞き覚えがある名前に、アーシェルはドクリと胸を高鳴らせて、部屋の中にいる王妃を見た。
彼女は俯きソファに座っていた。瞼を閉じて唇を噛み締め、まるで泣くのを堪えているようだった。
徐ろに王妃は顔を上げ、ファウダーの後ろにいるアーシェルを見て――バッと立ち上がり両手を口に当て、潤んだ碧色の瞳をはち切れんばかりに見開かせた。
アーシェルも王妃の顔から目が逸らせず、身体の震えが止まらない。
同じ、髪と瞳の色。
父に全く似ていないアーシェルの顔は、目の前の王妃の顔つきと似ていて。
「……アーシェル……? アーシェル……なのね……? ――あぁ……っ!」
王妃の両目からドッと涙が溢れ出す。
そして彼女は、流れる涙はそのままにアーシェルのもとへ一直線に駆け寄ると、その身体をギュッと両腕で包み込んだ。
「あぁ、あぁ……っ。会いたかった……貴女に会いたくて会いたくて堪らなかったわ……! 私の可愛い……愛しい娘、アーシェル……っ!」




