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22.愚かな男



「お、お前は――」



 ゴルディーはディオールの顔を思い出したらしく、大きく目を開かせる。

 ディオールはそんな彼を冷たい眼差しで一瞥し、オルティス公爵一家に視線を戻した。



「貴方方の会話を廊下で聞かせて頂きました。『証拠』が無いと、アーシェルさんの言い分に聞く耳を持たないようですね」

「あ……当たり前じゃないか。アーシェル君の話だけで判断するのは――」

「アーシェルさんは『生徒達に話を聞けばすぐに分かる』と仰いましたよ? 貴方こそ、生徒達の話を聞かず御子息の言い訳一つで終わらせようとするなんて、早合点過ぎませんか?」

「ぐっ……」



 ディオールの正論に、オルティス公爵は言葉を詰まらせ奥歯を噛み締める。



「まぁ、今すぐに生徒達の話は聞けませんからね。手っ取り早く『証拠』を提出致しましょうか」

「は……?」



 ディオールは持っていたブリーフケースから、数枚の紙を取り出しテーブルの上に置いた。



「これは約二週間前のヘイワード学園内、放課後の委員教室にて、エイリック・オルティス公爵子息とジェニー・パリッシュ令嬢を『写真機』で写したものです」

「「………っ!」」



 その数枚の紙には、エイリックとジェニーが抱き合い、口付けをしている姿が写し出されていた。



「は……? な……」

「え……何……? 何なのこれは……」



 オルティス公爵と公爵夫人が戸惑い愕然とする横で、エイリックが真っ青になりガタガタと震えている。



「『写真機』は、隣の大陸のとある子爵令嬢が開発したものです。特別なレンズと魔力を使って、物体の像を記録する事が出来、それに現像処理をして可視化する事も出来ます。魔法は使えないが、膨大な魔力を持ち、魔法を使った器具や新しい魔法の研究をしている子爵令嬢――。積極的に外交もされているオルティス公爵閣下なら、その令嬢が誰か、すぐにお分かりでしょう? そして、彼女が作った物なら、その性能と品質は“確か”だという事も」

「………!!」



 レヴィンハルトの説明を聞き、オルティス公爵は自分の膝の上に置いた拳を強く握り締め、唇を震わせながらテーブルの上に置かれた紙を見つめる。



「……えぇ。その“彼女”が作った物ならば、疑う余地がありません。となると、これは間違いなく息子のようです……。――エイリック、お前……どういう事だ? これも『慰めていた』とでも言い訳するつもりか!?」

「う……あぁ……。――ちっ、違う――違います! こ……これは、パリッシュ嬢に脅されたんです! く、口付けをしないと、アーシェルを苛めるというから、僕は仕方なく……。アーシェルの為に……本当に仕方なかったんです! 思い出したくもない、こんなものっ!!」



 そう叫び、エイリックは自分のキスが写されている紙を手に取るとビリビリと細かく破り、乱暴に投げ捨てた。



(……また……そんな言い逃れを……)



 アーシェルは、破り捨てた紙を荒い息を吐きながら睨みつけているエイリックに、思わず溜め息が漏れてしまった。




 ――自分が好きになった人は、こんなにも情けなくて愚かな人だったのか――






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