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20.決戦の刻



「……貴女は、彼女があの男との『初夜』で授かった子です。彼女は、貴女を本当に可愛がっていました。それはもう、目に入れても痛くない位に。僕に貴女を見せては、『私の子、すごく可愛いでしょう?』と嬉しそうに笑って……」

「母……が、私を……?」

「はい。あの男と愛人は相変わらずでしたけれど、貴女が彼女の中で唯一の“救い”になっていたんです」

「……お母様……」



 アーシェルの目尻にじわりと涙が浮かぶ。



「しかしある日、彼女は忽然と姿を消しました。まだ一歳の貴女を残して。彼女が、あんなに可愛がっていた貴女を黙って置いて出て行く筈がありません。きっと何か深い事情があったのです。あの男が言った事は決して信用しないで下さい。あの男は、彼女がいなくなってすぐに愛人と再婚したのですから。まるで『いなくなって清々した』と言わんばかりに」

「………!!」



(「お前を捨てて男と一緒に出て行った」と聞かされて、お母様の事を恨んでいたけれど……。元凶は父と義母だったんですね……。お母様もすごく苦しんでいた……。――私、お母様に会いたい。会って、どうして私を置いて行ってしまったのか……本当の事を聞きたい……)



「あの……ディオールさん。母は……何処に行ったのかは――」

「……分かりません。あの男に何度聞いても、『家族を捨てて男と出て行った』のふざけた一言で追い返されましたから……。けど、彼女は何処か遠くの地で幸せに暮らしている……。辛く苦しかった分、きっと幸せに……。僕は、そう信じています……」

「ディオールさん……」



 アーシェルは目に涙を溜めながら、ディオールに感謝の言葉を伝えた。



「ずっと母の味方になってくれて……ありがとうございます。いつも話を聞いてくれたディオールさんの存在は、母にとって大きかったと思います」

「アーシェルさん……。そう言って下さって、心が軽くなった気分です。本当にありがとうございます」



 瞳を潤ませながら礼を言ったディオールの左手の薬指には、結婚指輪が嵌められていた。



「ディオールさんは、今幸せですか?」

「……はい、お蔭様で。二人の子供も元気にすくすく育っています」

「ふふっ、それは良かったです」

「子供達を授かって、セライナの気持ちがよく分かりました。本当に、目に入れても痛くない位に可愛いんです。僕は子供達を愛しています。セライナもアーシェルさんの事を愛していたと断言出来ます。ですから、どうか彼女を恨まないでやって下さい」

「ディオールさん……」



 そう言い頭を下げるディオールに、アーシェルはコクリと頷く。

 ディオールはそれを見てアーシェルに優しく微笑むと、表情をキッと引き締めた。



「僕もセライナも幸せなら、アーシェルさんもうんと幸せにならなくては駄目ですよ。全力を持って『婚約解消』を実現させますから、どうか安心して下さい」

「はい、ありがとうございます!」

「……ラントさん、もう一つ頼みたい事があります。勿論追加料金は払います。頼めますか?」



 レヴィンハルトの問い掛けに、ディオールは大きく頷いた。



「はい、アーシェルさんの為なら! 何でも仰って下さい!」

「この子は、その男と義母……愛人だった女に幼い頃から虐待を受けていました。今もそれが継続されています。それの罪も裁きたいと考えています」

「……はああぁっ!? 何ですってぇっ!?」



 ディオールは大きく叫ぶと、額に幾つもの青筋を浮かばせ、般若のような顔になった。

 アーシェルはそれを見て、思わず「ひぇっ」と声を出してしまう。



「あのクソ男と愛人のクソ女……っ! セライナだけでなく、娘のこの子も苦しませるなんて……絶対に許さんっ!! ――えぇ、勿論引き受けますともっ! クソ男とクソ愛人を地獄の底へと突き落としてやりますよ! あの頃は何も出来なくて涙を呑んだけれど、今の僕になら出来るんですから!」



 グッと拳を握り締め声高々と宣言したディオールに、アーシェルとレヴィンハルトは顔を見合わせ、ふふっと笑う。



「……頼もしい味方が出来たな」

「はい! 本当に」






 ――そして、その一週間後。



 レイノルズ侯爵邸の応接間にて、今まさに決戦の刻が始まろうとしていたのであった――






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