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18.来るべき“未来”に向けて



 アーシェルは、レヴィンハルトの様子に首を傾げた。



「ローラン先生……?」

「あ、いや……。――君はこれから、あの家に帰るんだろう? その……大丈夫か?」

「え……?」

「君の背中に……幾つもの痣があった。親にやられたのか? 痛みは大丈夫なのか?」

「……っ!」



 アーシェルはしまった、という顔をすると、言い逃れは出来ないと悟ったのか、やがて小さく頷いた。



「痛みは……動いた時、たまに痛む程度なので大丈夫です……」

「……そうか。君が家を出るまで匿いたい所なんだが、俺は男子寮だから――」

「それなら私が匿おうか? 大歓迎だよ」

「何が大歓迎だ。お前、一人暮らしだろう? そんな危険な場所にみすみすアーシェル嬢を渡せるか」

「えー? それを言うなら君もじゃないか。レイノルズ君と二人きりにさせたら、むっつりスケベが遺憾無く発揮されそうで怖いよ」

「……お前、やはり殺――」

「あ――だ、大丈夫ですよ! 家に帰ったらすぐに部屋に籠もりますから! 顔を合わせなければ問題無いですので!」



 アーシェルが慌てて口を挟み、両手をブンブンと振る。



「……君は、両親を訴えたいか? 君がそれを望むなら、俺達は全面協力するぞ。君の正直な気持ちを聴かせて欲しい」



 レヴィンハルトの言葉に、思わずアーシェルの瞳が潤む。



「正直に……言って、いいんですか?」

「あぁ、勿論だ」

「……じゃあ――」



 アーシェルは息を吸い込むとバッと顔を上げ、盛大に言葉を放った。




「真っ逆さまに地獄に落ちて欲しいですっ!!」




「………………」


 レヴィンハルトとクロノスは思わず顔を見合わせ、「ふはっ」「ぷはっ!」と吹き出す。



「はははっ! うんうん、そうだよね。やられたら倍にしてやり返そうじゃないか」

「あぁ、そうだな。まずは『婚約解消』からだ。証拠は取れたが、君だけでは立場が圧倒的に弱く、君の親やオルティスの親に言い包められて終わってしまうだろう。婚約は通常、家同士で契約されているから、親が『婚約解消』を拒否すれば、君が何を言おうと継続せざるを得ない」

「……っ! そ、そんな……。折角証拠が取れたのに……」



 目に見えて大きく肩を落とすアーシェルに、レヴィンハルトは首を振る。



「大丈夫だ。そんな時の為に専門の『弁護士』がいる。俺も同席するが、弁護士をつけた方が確実に勝算が上がる。俺が探しておこう」

「えっ!? べ……弁護士っ!? わ、私、そんなお金は――」

「俺が出すから問題無い。金なら余る位あるからな。勿論返さなくていいぞ」

「え、えぇ……? そ、そんな……」



 戸惑うアーシェルの隣で、クロノスがジト目でレヴィンハルトを見遣る。



「うっわー。たった今、お金が無い人達を全員敵に回したね、君。あーやだやだ。金持ちには貧乏人の気持ちなんて分かんないんだから」

「人の為に使うんだから問題無いだろう?」

「あっ、そっか、そうだね。じゃあ人の為という事で、僕の生活費や娯楽費も全て出し――」

「五月蝿い黙れ口を凍らすぞ」

「やだぁ、色んな意味で冷たぁーい」

「虐待の件も含めて、二週間の内にケリをつけたい所だ。それでこの学園は退園ではなく、ウォードリッド王国の学園に転園にした方がいい。今後の為にも学園は卒業までしておいた方がいいからな」

「えっ、ええぇ……?」



 流れる川のように次々と今後の事が決定していって、アーシェルはただオロオロと困惑するしかなかった。


 けれどそれは、自分に“未来”がある事を前提に決められていって、アーシェルは涙が溢れるのを堪え切れなかった。



「……ありがとう……ございます……」



 レヴィンハルトは眉尻を下げて微笑うと、啜り泣くアーシェルの身体をそっと抱きしめる。



「あらあら? 先生が生徒にそんな事していいの? 不味くない? 早速むっつりスケベが発揮されてるよ? あーぁ、分かってたけどやっぱり我慢出来なかったかー」

「五月蝿い黙れ。泣いている生徒を放っておけるか」

「へえぇ? それは泣いていたら、他の女子生徒誰にでもするの?」



 ニヤニヤしながら訊いてくるクロノスに、レヴィンハルトはムッとした顔を向けた。



「誰がするか」

「あははっ、ですよねー? 全くもう、しょうがないなぁ。この事は皆に黙っておいてあげるよ。君の恋を応援してあげようじゃないか。けどある程度仲良くなるまでむっつりスケベは封印した方がいいよー。勿論、この子が成人になる迄は色々とガマンするんだよー。むっつりくんの君には難しいかなー?」

「五月蝿い黙れ燃やすぞ」




 二人の会話は、レヴィンハルトがさり気なくアーシェルの耳に手を当て塞いでいたお蔭で、彼女の鼓膜に入る事は無かったのだった――






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