17.容疑者
「……あぁ、これは……超最悪な【呪い】を掛けられてしまったようだね……」
「…………」
クロノスの呟きに、レヴィンハルトは拳を強く握り、ギリッと奥歯を噛み締める。
「ジュダリア先生……?」
「……レイノルズ君、もう服を着てもいいよ。ありがとう。私達はまた向こうを向いてるから、着終わったら呼んでおくれ」
「は……はい」
アーシェルは手早く制服を着ると、クロノスとレヴィンハルトに声を掛ける。
「……さて、レイノルズ君。君の身体の事だから、正直に言うよ。――“覚悟”はいいかい?」
「…………はい」
向き合ったクロノスに真剣な表情でそう言われ、アーシェルは一瞬躊躇したけれど、唇を引き締め小さく頷いた。
「君は、呪術士に【呪い】を掛けられてしまったんだ。“死の宣告”という呪術をね。証拠に、君の心臓部分の背中に余命の数字が記されていた。『54』……と」
「“死の宣告”……『54』……。――私の寿命は、あと五十四日……という事ですか……?」
「うん、そう。しかも最悪な事に、この【呪い】は非常に質の悪いものでね。解呪法が未だ見つかっていないんだ。呪術士でも、使える者が限られている最上級の呪術なんだよ。とんでもなく悪質な呪術だから、この大陸では使用禁止になっている。使った者は、どんな理由であれ必ず死罪になる、超大罪ものだ」
「そ……そんな【呪い】が……私に……?」
サーッと青褪めるアーシェルの頭を、レヴィンハルトは慰めるように優しく撫でた。
「……レヴィンハルト。この【呪い】に気付いたって事は、掛けた相手が誰だか推測出来たのかい?」
「あぁ。編入生のジェニー・パリッシュの可能性が高い」
その返答に、クロノスが大きく目を剥く。
「はぁっ!? あの編入生が!? まだ未成年だし、彼女が呪術士だとは到底見えないけど……? 魔力も無いか、あっても低そうだし……」
「呪術に年齢と魔力はあまり関係ない。素質があるかどうかだ。――クロノス、教えてくれ。俺は興味無かったから調べなかったが、ジェニー・パリッシュの祖国は何処だ?」
「ん? 確か、隣国のウォードリッド王国だったと思うよ」
「…………。そうか」
その瞬間、レヴィンハルトから強大な魔力が膨れ上がり、クロノスは無意識に身体が大きく震え上がった。
それは、湧き上がる怒りから来る魔力の膨張だった。
「れ……レヴィンハルト、落ち着いておくれ。そのままだと魔力が暴走して、君の魔力の威力だと学園全部が吹っ飛んでしまうよ」
「…………。――あぁ……。すまない」
レヴィンハルトは深く息を何度も吐き、自身を鎮める。
「……呪術を使ったのはジェニー・パリッシュで間違いないと思うが、具体的な『証拠』が無い。だから、今の時点ではあの女をどうする事も出来ない」
「……うん、そうだね。何とかして彼女が呪術士である事を証明して、“死の宣告”を使用した事を明らかにしないと捕まえられないよ」
「……先生……?」
レヴィンハルトは、不安気に自分を見上げているアーシェルに、安心させるように微笑みを見せた。
「大丈夫だ、まだ時間はある。それまでに必ず解呪法を見つける。だから心配するな」
「……は、い……」
アーシェルの頭を撫でると、レヴィンハルトは口を開いたが、言い淀むようにまた唇を閉ざした。




