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追放された先で……(前編) [ファンタジー/GL]

テーマ:冒険

イライラした気持ちを晴らすように小高い丘をズカズカと駆け上る。


澄み渡った空の下、心地よい風が青々と生い茂る草原に向かって私は大きく息を吸い込んだ。


「ハゲジジイのバカヤロー! なぁにが魔王討伐だー! ただの口減らしだろー!」


返ってくるのは風に揺られサヤサヤと喋る草木の喧騒と空を翔ぶ小鳥の呑気な囀りだけ。 それでいい、返答なんか求めていない。ただ、行き場のない憤りを消化したかっただけだ。


「……。よし、行こう」


そもそも何故、私が魔王なんかを討伐しにいかなければならないのか。事の発端は数時間に遡る。


朝方、ツルツル頭の村長に呼び出され、何事だとノコノコと出向いたらお使い感覚でこう言われた。


『アシュリー、お主暇じゃろ? 隣国の魔王を討伐して作物を盗んで来るんじゃ。それまで、帰ることは許さんぞ』


そのまま、木剣と小さいバッグを渡され村から追い出されてしまった。


正直、舐め腐ってんのかとしか言いようがない。 普段から適当言っては無理難題を押し付けてくる村長だったが今回に関しては度が過ぎていた。


しかし、この突拍子も無い行動も元を辿ればここ最近の農作物の不作が原因なんだと思う。


食料が無くなるから、食い扶持を減らす為に女で未婚で弟子の私が最初に村から追い出されたのだろう。


それにしたって他にもやり方は色々有っただろ。 そもそも、私は戦ったことは無い。 両親が死んでから祖父の家で細々と布を織って暮らしていたのだ。


「あー、思い出したらまたイライラしてきたわ……」


ハゲジジィの戯言にバカ正直に付き合うつもり更々無いが追い出された手前、行く宛もない。


仕方がないので隣町まで行くことにする。行き場のないイライラを抱え込みながら未だ騒がしい草原に足を向けた。




日がすっかり落ちた頃に隣町に到着した。 歩き疲れたのでさっさと宿を見つけて休みたいところだ。 そう思い、バックの中の小銭入れを確認する。


「……え? 金貨三枚?」


精々、一ヶ月生活出来るか出来ないかくらいの金額に唖然とする。ハゲ村長の血も涙もない対応にイライラを通り越して乾いた笑いがこみ上げる。


――あのハゲジジィ覚えていろよ……。


途方に暮れても仕方がないので街で一番の激安宿に止まることにした。素泊まり銀貨四枚で夕食朝食無し。ちなみに銀貨百枚で金貨一枚である。


宿を取った後、腹ペコの私は夜の街へ躍り出た。 ちょうど夕食時なので、飲食店はいくつかやっていた。手持ちが心許ないのでここでも激安の飲食店に入ることにする。




「もう少し良いお店にすれば良かったわ……」


夕食を終えなんとも言えない微妙な表情をしながら文句を垂れる。 水で薄めまくったお粥にほぼ味の無いボソボソとした肉、パッサパサのサラダ……。囚人飯なのかなと勘違いするくらいには質素で悲しくなる。


「もー! 今日は散々だよ。さっさと宿に帰って寝よ……」


遣り切れない気持ちを抑えてトボトボと宿に帰る。


そんな時、不意にタックルされたかのような衝撃が背中を襲う。


「うわっ! な、何っ!?」


「キャッ!」


後ろを振り向くと豪華なドレスを着た私と同じくらいの歳の金髪の女の子が尻もちを付いていた。 貴族の令嬢なのか赤を基調とした派手なドレスはダンスパーティ帰りと思えるくらい様になっている。


「だ、大丈夫?」


ぶつかった女の子に手を差し伸べると涙目を浮かべながら手を握り返してそそくさと私の後ろに隠れてしまった。


「た、助けてくださいっ!」


「えっ? ど、どういう――」


予想外のセリフに眉を潜めていると、私の声を遮るように野太い声が響く。 前からスキンヘッドの大柄のおじさんが三人やって来た。 いかにも悪いことをしていそうな人たちが下卑た顔をしながら口を開く。


「何だ嬢ちゃん? その子を庇おうってか?」


「怪我をしたくないならそいつを渡しな!」


「というか、こいつも上物じゃん。二人纏めてとっ捕まえようぜ」


男たちは「グヘヘ」気持ちの悪い声を上げながら私達を囲うようにサッと動き出す。


――まったく……。本当に今日はツイてないわね……。


今日は厄日なのかもしれない。自分の不運にため息を付きながら腰に刺していた木剣を引き抜き構える。


剣を握るのは久しぶりだ。両親が死んでからめっきり握ることは無かった。それに模擬戦以外で対人戦をするのも初めてだ。ちゃんと動けるか心配だけどまあ手加減する必要も無いだろう。


私の後ろで震えている女の子に優しく話しかける。


「危ないから身を屈めてこの場から動かないで」


「わ、わかりましたわ」


女の子が指示通りに身を屈めたことを確認して、目の前の男に狙いを定めるように剣を向ける。


「あん? 俺達とやろうってか? 王子様気取りかい?」


女と思って舐めているのかゲラゲラ笑いながら腹を抱えている。 相手が誰であろうと油断するべからず。それが師匠の教えだ。そんな事も分からないような輩に負ける気はしない。


「今日はずっとイライラしているの。私の憂さ晴らしに付き合ってね。骨の一本や二本は覚悟して頂戴」


そう言い残し目の前の男に駆ける。そのまま木剣の腹で男の顔を思い切りぶん殴る。 当たりどころが良かったのか、男はそのまま膝を崩して気絶してしまった。


後ろを振り向くと男二人は何が起きたのか理解出来ていないのか口をあんぐりと開けて固まっていた。


――まぁ、あんだけ舐めていたらそりゃ驚くわよね。 だからといって手加減はしないけど。


そのまま、近場にいる男に駆け寄り剣を振り下ろす。しかし、簡単には剣を当てさせてはくれない。懐からナイフを取り出し私の剣を紙一重で受け止められてしまった。


「お、女のくせに剣筋が重いっ」


こんな野蛮なことをしているだけ有って、それなりに戦い慣れているのだろう。


――少し目算を誤ったわね……。私も油断していたのかしら?


「キャァァッ!」


そんな事を考えながら、ナイフに遮られている木剣に力を込める。 すると後ろから甲高い悲鳴が聞こえて来た。


剣に力を込めつつも慌てて後ろを振り向くと、もう一人の男が女の子を後ろから抱え込み首筋に剣を向けていた。


「おい、女! あんま調子に乗んじゃねぇぞ! この女がどうなっても良いのか!」


流石、柄の悪い男たちだ。これは予想していなかった。私のいた村でこんな事をする人なんて居なかったからこんな醜い事をしてくるなんて思わなかった。


――流石にマズイわね……。


バツの悪い状況に辺りを見渡す。 周りに使えそうな物はおろか人も居ない。目の前にいる男は勝ち筋を見出したのか冷や汗を掻きながらも、ニヤリと笑いながら足を広げ精一杯踏ん張っていた。


――あれをやるしか無さそうね…‥。あまりやりたくないけど。


女の子を人質に取っている男が何をしでかすか分からない。あまり、時間を掛けたくも無いので、思いついた事を実行に移す。


私は目の前の男に振り下ろしていた木剣の力を一気に抜く。


踏ん張っていた男はその反動で身体のバランスを崩し足元が疎かになった。そこに、すかさず右足を後ろに引いて……そのまま男の股下を思い切り蹴り上げる。


男の人はこれが効くらしい。私にはよくわからないけど。


「アグッッ!」


悶絶して倒れていく男を余所にその蹴り上げた足を使って振り子のように振り回し後ろを向いて、女の子を人質に取っている男の顔めがけて木剣を投げる。


「ギャフッ!」


見事に男の鼻筋に剣が当たり女の子から手を離してうずくまってしまった。


二人とも意識までは奪っていないのですぐに起き上がるだろう。急いで女の子の所まで駆け寄る。


「行くわよっ!」


「は、はいっ!」


木剣を拾い上げ、女の子の手を握って薄暗い街の路地を駆け出した。




男たちに居場所を悟られたくなかったので路地を右に左にと遠回りしてから、私の泊まっている宿に帰ってきた。


見知らぬ女の子を連れてきてしまったので、きっちり追加料金を取られてしまった……。 お金持ちそうだから後で返してもらおう。


「ふぅ……。疲れたぁ……」


一日歩き回った上に久しぶりに剣を振ったので身体が限界だ。私は少し埃っぽいカチカチのベッドに倒れ込んだ。


初めて対人戦をした割には上出来に思える。ただ、色々反省点も有った。ハゲジジィが見ていたらきっと怒られていただろう。 まぁ最も、もう会うことは無いけど。


「で、それで貴女は誰? どうして追われていたの? あ、私はアシュリー。平民よ」


適当に自己紹介をしながらベッド上でゴロンと転がり部屋の隅に備え付けられているソファーにチョコンと座っている女の子に目を向けた。


「ご挨拶が遅れました。先程は助けて頂きありがとうございます。 わたくしはイリス・エスト・ガードナーと申します。」


私に声を掛けられてスッと立ち上がるとスカートの裾を優雅に持ち上げお辞儀をする。その姿はまさにお嬢様然とした立ち居振る舞いだった。 いや、それ以上に貫禄のある覇気さえ纏っている雰囲気だ。


「えっと……。追われていた理由なのですが……」


何か言いにくい事が有るのか、お嬢様然とした立ち居振る舞いが崩れ、キョドキョドと視線を泳がせている。


――まぁ、良いところのお嬢様っぽいし話せない事とかいっぱいあるわよね。


ただでさえ今の私は村から追い出されその日暮らしに近い生活をしているのだ。これ以上面倒くさい事に巻き込まれたくはない。


「あー、話したくないなら良いわよ」


「いえ、話したく無いというわけではありません。 そうですわね、簡単に言うならば家出かしら?」


「い、家出? 何処から?」


「えっと、魔族領の王都からですわね……」


「はぁ!? 家出と言うより旅行じゃん!」


その言葉に驚いて飛び上がってしまった。魔族領の王都はこの街から近いとは言え馬車で一週間は掛かる。こんな力も無さそうな良いところのお嬢様が家出で来る距離ではない。


私の反応に気まずい笑顔をしながらイリスは頬を書いている。大人しそうに見えて意外にじゃじゃ馬なのかもしれない。


「ですが、私はもう帰ろうと思います」


――まぁ、家出の理由はどうあれ、あんな怖い目に遭ったら帰りたくなるわよね。


「うん、それが良いよ」


「ええ……。そこで……」


イリスはそこで言葉を区切る。 妙に重々しい表情をしながら私の顔を見つめてくる。


どこか、あのハゲジジィを彷彿とさせる雰囲気を纏っていて嫌な予感がするのは気の所為だろうか。


背中にゾクゾクと冷たいものが走る中、彼女はゆっくりと口を開く。


「アシュリー様! わたくしの騎士として王都まで護衛をお願いできませんでしょうか!」


「き、騎士!? いやいや、何で私が!」


突拍子もない発言に耳を疑う。 しかし、イリスは冗談で言っている様子は無く無を潤ませながら懇願するように体の前で手を組んでいる。


「アシュリー様は相当お強い方とお見受けいたしました。 帰れた暁には褒美ももちろんお出しします!」


褒美という言葉に身体がぴくんと動いてしまった。 彼女は身なりからしてどう考えても高位の貴族だろう。 それなりに良い報酬が貰えるかもしれない。


今の手持ちで一ヶ月もしないで底を尽きるだろうし手当たり次第に職を見つけても困窮待ったなしだ。


それならば、この娘を送り届けてお金を貰ったほうが良いだろう。 あわよくばいい仕事も斡旋してもらえるかもしれない。


リスクは高いが野垂れ死に目の前の私には千載一遇のチャンスだった。


「はぁ……。分かったわ、報酬は期待して良いのよね?」


「ええ! もちろん! ふふっ……」


イリスは嬉しそうに笑顔を浮かべる。 先程までの覇気は消え失せ年相応の少女と言った様子だ。


うーん、私と同じくらいの歳に見えるのに何故、こんなにも可愛らしい笑顔が作れるのか分からない。




「さて、もう寝ましょう? 私はもうクタクタよ」


そう言って、私はベッドから立ち上がってイリスが座っているソファーの方に移動する。


「あら、寝ると言うのにベッドから移動するんですの?」


「ベッドは貴女が使いなさい。 私はソファーで良いわ」


そう、この部屋はそもそも一人用だ。 ベッドは一つしか無かった。


良いところのお嬢様をソファーや床で寝かせる訳にはいかない。 それに一時的にとは言え私はイリスの騎士(?) になってしまった。言わば主従関係みたいなものだ。 こういうのは主人を優先するべきなのであろう。


「ふふ、アシュリー様はお優しいのですね。まるで王子様のようですわ」


「様は辞めて頂戴。そんな高尚な人間では無いわ。呼び捨てで良いわよ」


楽しそうに微笑んでいるイリスを余所にドスッとソファーに座る。 ソファーも弾力性は無くベッドと同じくらい硬かった。


――激安宿は駄目ね……。 もう少し良い所にすれば良かったわ。


そんな事を考えていると、イリスは突然私の手を掴んでベッドの方にまで引っ張られてしまった。


「えっ。な、なに?」


「えーいっ!」


ベッドの前まで来ると私はそのままベッドに押し倒されてしまった。


「キャッ。 な、何するのよ!」


「別にベッドが一つだからって二人で寝てはいけないなんて道理は有りませんわ。アシュリーのほうが疲れているのですから一緒に寝ましょう?」


そう言いながら楽しそうに微笑んでいるイリスが私の上に跨る。金髪からは魔族特有の細くて長い耳が見え隠れする。その耳には翼の意匠が付いた金色のイヤリングがキラキラと光っていた。


「あんっ……。いきなり耳を触らないでくださいまし……。くすぐったいですわ」


見慣れない長い耳が気になってついつい触ってしまった。 色っぽい声を出しながら頬を赤く染めているイリスに少しドキッとしてしまう。


「あっ、ごめん。イリスは本当に魔族なのね」


「そうですわ。これでも純血ですわよ」


「超エリート魔族じゃん」


今の御時世、異種族間の結婚は珍しくは無い。なので、人族と魔族、魔族と獣族と言った混血の人が多い。


そんな世の中でイリスは先祖代々魔族のみの血を引き継いでいる。血族を重んじる高位の貴族でしかそんなことはしないはずだ。


「そうですわね。 ですが、わたくしの代で途切れてしまうかもしれませんけど……」


「どういうこと……?」


意味ありげにニタリと微笑む。これまた、魔族特有の鋭い八重歯が口からキラリと覗いていた。


「何でも有りませんわ! さっ、明日から出発ですからもう寝ましょう!」


「え、ええ……そうね。」


私とイリスは同じベッドでその日の夜を過ごした。 ベッドも枕も硬すぎて中々寝付けなかったが、イリスが抱きしめて来て女の子らしいふにふにした触感を楽しんでいたら気づいたら寝落ちしていた。


女同士とは言え初対面の人にここまで出来るイリスは少し警戒心が低いのでは無いかと心配になる。

~謝罪~

楽しくなってしまい、めちゃくちゃ長くなってしまいました。

後編あります。


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