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焦燥に駆られる手紙 [ラブロマンス]

ジャンル:ラブロマンス

備考:「無言の会話」を読んで頂けるとより話が楽しめると思います。

「なぁ!なぁ! 青司(せいじ)、あの子めっちゃ可愛くね? 今日、転校てんこうしてきた奴なんだと」


  隣の教室を覗き込みながら幼馴染おさななじみ優作ゆうさくが声を掛けてくる。


  優しくて気の利くいい奴なのだが、彼女探しに必死で可愛い子を見るとすぐに声を掛けようとする。


  それに残念ながら、お世辞せじにも顔が良いとは言えず彼女無し歴(かのじょなしれき)年齢ねんれいだった。まぁ俺も人のことは言えないが。


「そんな事してねぇで、次の授業じゅぎょう行くぞ。また体育の鬼田おにだにどやされるぞ」


「少しくらい良いじゃねぇか。それより見てみろよ、あいつ。東京のお嬢様じょうさま学校から来たらしいぜ。おくゆかしいいがたまらねぇなぁ」


  ガタガタの歯を見せながらだらしないニヤけ顔を晒していた。


  優作が女子に色目を使うのはいつもの事だが、転校生てんこうせいというのは気になった。どんな奴が来たのか気になったので俺も教室をチラッと覗き込む。


「ったく……。てか、五月に転校って珍しいな。どこに居るやつ……。っ!」


  数人の女子が群がっている席に一人の女の子が楽しそうに会話をしていた。


  スラッと伸びるりんとした背筋、陽の光に照らされてキラキラと輝くキレイな黒髪、花が咲いたかのような笑顔。そのすべてが完璧に調和ちょうわしている幻想的げんそうてきな女の子に俺は衝撃を受けた。


  ――なんだ……この違和感いわかん


  なぜだか分からないがあの娘の顔を見ていると胸がしめけられる。


  すると、ふとこちらに顔を向けた彼女と目が合った。 少し驚いた顔をしながら優しい微笑みを向けてくれた。


「今、俺に笑顔を向けてくれたぞ! ってなんだ? お前も一目惚ひとめぼれしたかぁ?」


  優作はニヤニヤと汚い歯並びを向けながら茶化ちゃかしてくる。


  一目惚れとは違う。何故か彼女の顔を見ていると寂しさが込み上げてくる。会ったことなんて無いはずなのに、声を聞かなければならないそんな気がしていた。


「……んなわけねぇだろ。さっさと体育館に行くぞ」


「お、おい! 置いていくなよ!」


  そんな違和感を振り払うように早足で体育館に向かう。結局、授業に遅れ体育館のはじを走らされる羽目はめになった。



  そんな事が有った数日後。

  俺はすっかり転校生の事なんか忘れ、帰宅の準備をしていた。


「青司。俺、今日部活だからもう行くわ! また明日な」


「おーう、またな~」


  優作はチビでブサイクなのだが意外にもサッカー部だ。それに結構、上手いらしくスタメン入りしているのだとか。人は見かけによらないものだ。


 ――そう言えば大会が近いとか言ってたっけ。会場が近いなら応援に行ってやるかー。


 そんな事を考えながら下駄箱げたばこの扉を開ける。すると一枚の手紙が入っていた。


「ん? なんだこれ」


  可愛らしい薄いピンクの手紙には藤崎愛ふじさきあいという名前が入っていた。


 ――知らない名前だな。 入れ間違えか?


  宛名あてなが無かったので心苦しいが手紙の内容を読ませてもらう事にした。ラブレターだったら見なかったことにして正しい差出人さしだしにんの所に入れておこう。


  手紙は桜柄さくらがらのシールで封をされていたので破かないようにゆっくりと剥がし丁寧に便箋びんせんを取り出す。


  几帳面きちょうめんそうなキレイな字で短い文章が書かれていた。


 ****************

  三年一組 南青司様へ

  突然のお手紙失礼いたします。

  先日、教室でお見かけした時から南君の事が気になっていました。

  以前、どこかでお会いしたことありましたでしょうか?

  転校してきたばかりでこちらの学校には男の子の知り合いは居ないはずなのですがどうしてか気になってしまったのでお手紙をしたためさせて頂きました。

  良かったらお返事をください。

  三年二組 藤崎愛

 ****************

 

 ――これ……本当に俺宛じゃねぇか!


 手紙を読んで目玉が飛び出しそうになった。 まごうことなき自分宛ての手紙だった。


 女の子からの手紙なんて貰うのは初めてで戸惑とまどってしまう。


 それに、手紙をくれたのはあの転校生だった。 あんな美少女が俺なんかに手紙を出してくれたと思うと顔がほころんでしまう。


 ――あの娘も何か思うところが有るのか……。お互い初対面なのはずなんだけどな?


  少し、違和感を覚えながらもコンビニで手紙セットを買ってウッキウキで帰宅した。


  その日から、ひそかに俺と藤崎さんの手紙のやり取りが始まった。



 それから時期は流れて九月。

 夏休み明けで授業に身の入らない俺は外をボーッと眺めていた。


 校庭では隣のクラスが体育祭の練習にせいを出している。 すると、藤崎が向日葵ひまわりのような笑顔をしてこちらに大きく手を振り出した。それに答えるように小さく手を振り返す。


 文通ぶんつうをしていて知ったのだが彼女は意外にも活発的かっぱつてきな娘だった。夏休みも文通したいと言われ住所を教え合い、夏休みの思い出と言って彼女の写った写真と一緒に手紙が送られてきた事も有った。


「お前、藤崎さんと仲良かったのか?」


  後ろの席にいる優作がヒソヒソと小声で話しかけてくる。


「ああ、手紙で会話してる」


「今どき手紙? メールじゃねぇのか」


「あの娘、携帯持ってねぇんだと。 だから手紙で文通してる」


  あまり、文章を書くのが得意じゃないから最初の方は手紙を書くということ自体にかなり苦労した。字も汚いし。


  しかし、藤崎はそれでも喜んでくれたようで今でも変わらず手紙を出してくれる。


  優作の顔を見ると徐々にうらめしそうに顔をゆがめ始める。


  「お前は俺を裏切るのか! 彼女いない歴=年齢コンビで十七年やってきただろ!」


  「別に彼女じゃねぇよ。ただの友達だよ。それにまだ直接会話したこともねぇよ」


  そう、文通はしているが俺と藤崎は別にそういう関係では無い。 彼女のあまりに純真じゅんしんな手紙の内容にそういう事を持ち込むのが申し訳なくなってしまう。 それに気持ちを伝えて今の楽しい関係を壊してしまうのも嫌だった。


  しかし、一回くらいは直接会って声を聞いてみたい。 何故か分からないがたまに、彼女の声を聞きかなければならないと焦燥感しょうそうかんが湧き上がる。


  「なんだその余裕ぶった言い方……。くそっ……俺だって女の子と文通してぇよ!」


  優作がにくたらしいと言った顔でにらんでくる。そんな時、前から怒声どせいが飛んできた。


  「おい、南と柳! うるさいぞ! 喋りたいならこの問題の答えを言ってみろ!」


  全く授業を聞いていなかったのでどこの何の問題をやっているのかさっぱりだ。


「あー……。さーせん、わかんないっす」


「俺もわかんないっす」


「バカモノ! 立って授業を聞いていろ!」


  渋々と立ち上がってため息を付きながら外の様子を見る。すると、藤崎もはっちゃけたのがバレたのか体育の鬼田に怒られていた。



 月日は流れて三月。


 誰も居ない静かな階段を一人、急ぎ足で登る。


  卒業式が終わったら屋上に来て欲しいと愛から言われていた。


 昨日の手紙には普段通りの几帳面でキレイな文章がつづられていて、ついでのようにその一言が書かれていた。


  しかし、その一言は微妙びみょうに字が歪んでいて妙に力のもった筆圧ひつあつ。普段から彼女の字を見慣れている俺でしか気付けないだろう。そんな小さい違和感だったが、並々ならない感情が伝わってくる。


  ――俺も腹をくくるか……。


  手の震えを抑えながら屋上の扉をゆっくりと開く。


  澄み渡った青い空。 三月の少し肌寒はだざむい風が屋上に吹き抜ける。


  そこに、黒くてキレイな髪をなびかせながらひとりの女の子が優美ゆうびたたずんでいた。


「はじめまして、青司君」


  鈴の音のように透き通る声が俺の耳を通り抜ける。その声を聞いて今まで感じていた焦燥感があっさりと霧散むさんする。 そんな安心する声色だった。


「手紙ではさんざん会話していたけどな」


  初めて彼女の声を聞いて安心したことを気取られないように少し茶化した返答をしてしまった。


「そうだね。手紙、ありがとうね。こんなに付き合ってくれると思ってなかった」


「いや、まぁ、俺も楽しかったと言うか……。なんというか……」


  初めて彼女の顔をこんな間近で直視する。キレイに整った顔はまるで桜のように微笑んでいた。


  小っ恥ずかしくてついつい目をらしてしまう。


  「私も楽しかった」


  実質、初対面で何を話していいか分からず、ぎこちなく会話が終わってしまう。


  しばらくの沈黙、屋上に吹くさわがしい風の音がその場を支配しはいする。


  俺はこんな会話をしに来たわけではない。ここまで来たら後には引けない。ここは俺から打ち出すべきだろう。そう思い、気を引き締めて恐る恐る口を開く。


  「あのさ」


  「あ、あの!」


  タイミング悪く、愛も喋りだしてしまった。


  ――やっちまった……。俺だっせぇ……。


  「……えっと」


  この状況をどう収集つけようか悩んでいると。何がおかしいのか愛は「ふふふ」と笑いながら口を開く。


  「ねぇ? もう一緒に言おうよ」


  ニタリと悪戯っいたずらっこのような笑顔をしながら上目遣うわめずかいで見つめてくる。


  「わ、わかった」


  その答えに愛は満面の笑みを浮かべる。直接会うとこんなにもたくさんの表情をするならもっと早く会いたかったと後悔こうかいしてしまいそうだ。


  「それじゃあ、せいので言お!」


  手紙でも活発な娘だって言うのは見て取れいたのだが……。しかし、まさかこの一瞬で会話の主導権しゅどうけんを取られてしまうとは思っても居なかった。男として少し情けない。


  「お、おう!」


  「せーの!」


  そう言うと、愛は大きい声でも出すのかと言うくらい息を吸い込む。


  いつからだっただろうか、この想いを抱いたのは。 夏休み辺りだろうか? それとも手紙を初めて貰った時から?


  いや、きっとそれよりも……ずっと前から愛に対してこの気持ちをいだいていたのかもしれない。


  この想いをやっと伝えられる。 すごく、長く留まっていたこの想いを。そう思い俺も大きく息を吸い込んだ。


  「私は青司君の事が大好き!」


  「俺は愛が好きだ!」


  彼女は満足そうに微笑みながらゆっくりと身を寄せてくる。


  柔らかな日差しのぬくもりと共に三月の強い風にあおられた桜の香りが俺の鼻腔びこうをくすぐった。


ラブロマンスって難しいっすね。

残念ながら航空障害灯は出てきません。

青司と愛の頭にパトランプでも付けてやろうかと思いましたが断念しました。

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