少年よ夢を掴め[コメディ]
テーマ:わらしべ長者
「あ~……。 金がねぇ……」
少し早めにやってきた大学の食堂に隣接するテラス。
雨が降っているからか、みんな食堂で昼食を取っているようだ。少し肌寒い風が通り抜けるテラスには人が居なかった。
そんな中俺は、飯を寄越せと喚く腹を擦りながら、すっかり薄っぺらくなってしまった財布に目を落とす。
今朝までは確かに諭吉が数枚入っていた。今朝までは。
本来ならばその諭吉ですこし豪華な昼飯を食べる予定だったのだ。
残念ながら、その願いは叶うことは無く、遣る瀬無い気持ちだけが心を満たしていた。
「なんだ康弘、またパチンコですったのか? お前、昨日五万勝ったとか言っていなかったか?」
三限から講義があるという充が、美味そうな牛丼を貪りながら呆れた顔で話しかけてくる。
「全くだよ。ちょうど、駅前のパチ屋がイベント日でな? わんちゃん増やせるかなぁって行ったら……見事に一文無しよ……」
財布をひっくり返して出てきた小銭は十円玉が三枚とコンドームが一枚。
給料日は後一週間後。どうやって生活しろと言うんだ。
「しょっぺー財布だな。なんでコンドーム入ってんだよ。お前、彼女居ねぇだろ」
牛丼を食べ終えた充はヨレヨレのコンドームを見て、腹を抱えながら笑っていた。
「いつか、なんかのために入れてんだよ! 無いと困るだろうが!」
財布にコンドームは紳士の嗜みだ。万が一のためにとお守りがてら入れていた。
尤も、その万が一が来るのかは定かではないが……。
「お、そうだ。そのコンドームくれよ。明日、彼女とデートなんだわ。縁のないお前が持つより、使う予定がありそうな俺が、持っていたほうがコンドームも喜ぶだろ」
「うっせーわ。まぁ、良いけどよ。俺の分身だと思って大事に使えよ?」
長年連れ添った、特に思い入れもない相棒を充に投げ渡す。
「まじでキモいから辞めてくれ。後、これ。礼にこれをくれてやるよ」
充はそう云うと胸ポケットに刺さっていた安物のボールペンを転がしてくる。
「こんなもん、貰ってものなぁ……」
一応、これでも俺は大学生だ。サボってパチンコには行くが立派な大学生である。
筆記用具はそれなりの量をいつも持ち歩いている。今更、ボールペンの一本程度、邪魔にしかならない。
すると、充は思いついたように手をポンと叩く。
「お前、金が無いなら、物々交換で高価な物を引き当ててみたらどうだ?」
「なんじゃそら、わらしべ長者かよ。昔話じゃんか」
「いやいや、意外に馬鹿に出来ないぜ? 海外だとそれで億万長者になった人が居るだとか聞いたことがあるぜ。どうせ、暇だろ? そのボールペンを元手にやってみろよ」
元を辿ればコンドームなわけだが、些細なことだろう。
充の言う通り、三限の講義が終われば今日は暇だ。日課のパチンコももう出来ない。
暇つぶしには、ちょうど良いのかもしれない。
「そうだな。帰ってもやることねぇしやってみるかぁ」
こうして、俺は貰ったボールペンを物々交換していくのだった。
三限の講義も終わり、早速、物々交換してくれそうな人を探すため大学構内を練り歩く。
「交換っつてもなぁ……。知らない人にいきなりこんなの渡しても、気味悪がられるよなぁ……」
安っぽいボールペンと何か交換してなんて、いきなり言われたら不審者と間違われてしまう。
俺だったらキモすぎて、断っていた。
「となると、まずは知り合いだよな。誰が良いかな……」
今、構内に居そうで物々交換に応じてくれそうな人を俺の脳内データベースから検索を掛ける。
すると、その激狭検索範囲に一人だけ、該当する人が出てきた。
「おっ、そうだ! サっちゃんなら交換してくれそうだ」
早速俺は研究棟の四階にいそいそと足を運んだ。
歩くこと数分、研究棟の奥の奥、曲がりくねった廊下を進んだ先にあるこぢんまりとした研究室にやってくる。
無機質な扉には兎のキャラクターがあしらわれた、可愛らしいピンクのドアプレートが掛かっており、「泉研究室」と大きく書かれていた。
俺は、その扉をノックもせずに豪快に開け放つ。
「ういっす、サっちゃん居る~?」
「うわぁ! びっくりした~! なんなんですか、佐野くん! 乙女の部屋にノックもせずに入るのはダメだと、いつも言っていますよねぇ!」
部屋に入ると素っ頓狂な声を上げ、丸っこい顔を限界まで縦に引き伸ばし、クリっとした真ん丸お目々をかっ開いている、一人の幼女……小さい女の人がパソコンのモニター越しに顔を覗かせていた。
この人は俺が所属する研究室の教授で泉幸子。年齢は三十二歳で独身。身長は百五十センチと自称しているがおそらく嘘だろう。
「乙女って言うほどの歳でも無いっすよね? そんな事よりちょっとお願いしたいことがあるんっすけど」
サっちゃんの寝言を一蹴して、早速本題に斬りかかる。
「ちょっと! 乙女に年齢の事を言うのはデリカシーが無いですよ!」
見た目と行動と実年齢がいかんせん合致しないサっちゃん教授は、プリプリと怒ってはいるものの、話を聞いてくれるのか近場のテーブルまでやってきて腰を下した。
「それで、お願いしたいことってなんですか?」
そう、この人は何かと優しいのだ。このくだらない、わらしべ長者にも真摯に相談を乗ってくれると、そう思っていた。
「いやぁ~、お願いっていうのはですね――」
俺は昼休みの充との会話からわらしべ長者をすることになった事を話す。
案の定、サっちゃんはこんなくだらない話にもキチンと付き合ってくれた。
「それで、私に物々交換を持ちかけてきたと……。別に構いませんけど……もっとこう……勉学や進路についての相談にしてもらえませんかねぇ? 私、これでも佐野くんの担当教授なんですけど……」
サっちゃんは呆れた顔をしながらも、自分のデスクまで戻り、研究用PCの近くに置いてあるバッグの中身をガサゴソと漁り始めた。
「だから、サっちゃんに頼ったんじゃないっすか! こんな優しい先生他に誰も居ないっすよ! よっ、大学のアイドルサっちゃん先生!」
「も、もう! 私を持ち上げたって何も出てきませんからね!」
サっちゃんはデスクから覗かせるタイトスカートに包まれた小ぶりなおしりをフリフリしながら喜びを表す。実にちょろい教授である。
「あ、そうだ。凪ちゃんもお話聞いていましたよねぇ? 佐野くんと交換できる物持っていたりしますかぁ?」
「ん? なんだ、新熊も居たのか」
研究室の端っこでノートパソコンに黙々と向かっている一人の女。同じ学年だが何を考えているのか良く分からず、あまり話したことは無かった。
「いえ、ありません。仮に有ったとしても、女性の前で平然とコンドームなんて言い出す野蛮な男に渡したくなんかありません」
――ヒエッ……。
パソコンから顔を上げた新熊から飛んできたその冷たい視線は今すぐにでも俺を刺し殺せそうな程の鋭いものだった。
――こういう事をするから俺は彼女が出来ねぇんだろうなぁ……。
なんとなく、新熊の言わんとしている事が分かってしまい、心のなかがしょげてしまう。少しはデリカシーに気をつけるか。
「あはは、凪ちゃんは手厳しいですねぇ。佐野くん、このハンカチとかでどうですか? もう古くなったのでそろそろ買い替えようと思っていたんですよ。もちろん今日はまだ使っていません」
そう言って俺の前に出されたのは、きっちりと四隅を整えられ、兎柄のワンポイントが入ったピンク色のハンカチ。
サっちゃんのお古と言うことで、確かに見た目だけだとボールペンとは釣り合いが取れそうな物である。
しかし――。
――来たっ! これはかなりの大物が入ったぞ……!
予想以上の大物に俺は心の中でほくそ笑んだ。
「お、良いじゃないっすか! あざ~っす! 念の為、聞いておきますけど。これを次の交換に回して良いっすよね?」
事情を悟られる訳にはいかないので、これで満足風の作り笑顔を浮かべて確認を取る。
交換した時点で所有権は俺に移るわけだが、貰い物には変わりないので最低限のスジは通すべきだ。
「ええ、構いませんけど、変な人に渡さないでくださいよ? 知らないおじちゃんなんかに渡されても怖いですから」
「大丈夫っすよ! 知らないおじちゃんには渡さないっすよ! それじゃ、俺は行きますね。ありがとう、サっちゃん!」
――知らないおじちゃんにはな。
「次のゼミの時にでも結果を教えて下さいね」
大きく手を振るサっちゃんに見送られ、俺は次の場所へと移動した。
次にやってきたのは、大学のサークル棟。
有名無名の百以上のサークルがひしめき合っているこの建物で俺は最上階の一番端っこの部屋にやってきていた。
この、陰気な雰囲気を漂わせている不気味な大部屋の扉に手を掛けて勢いよく開け放つ。
「おう、邪魔するぜ」
少しの不健康な汗臭い匂いが漂う部屋の中では十数人のおデブ君やガリガリ君、ロン毛君なんかがせっせことオタ活に励んでいた。
「おや、佐野殿ではありませんか。我ら、幸子ファンクラブに何か御用ですかな?」
牛乳瓶の底くらいある厚めの丸メガネを掛けたオタクくんが俺に声を掛けてくる。
そう、ここはサークル棟の中でもアングラ中のアングラなサークル。『泉幸子ファンクラブ』である。
サっちゃん教授は生成AIの研究でブイブイ言わせている、業界ではかなりやり手の教授なのだが……。
講師としての顔は普段から、あんな感じの優しい教授で巷では、癒し系小動物ママ教授等と学生の間では呼ばれていた。
故に大学のアイドル的存在であり、ファンクラブが設立されていたのだ。(ちなみに、本人は知らない)
「おう、おめぇらに激レアアイテム持ってきたぞ」
俺はそう云うと、さっきサっちゃんから貰ったハンカチを彼らに見せつける。
「そのハンカチは……ま、まさかっ!?」
何人かのオタクくんが気付いたのか、驚愕した顔でそのハンカチに釘付けになる。
何も、俺はサっちゃんが優しいからという理由だけで交換を頼んだのではない。その先のこともしっかりと考えていたのだ。
普通の人から見ればただの古いハンカチ、価格としては三百円にも満たないだろう。
しかし、泉幸子という付加価値は金額では測れない何十倍もの価値を見いだせるのだ。
それを見越してサっちゃんを最初の交換相手として選んでいた。
「そうだ。オメェらが推して止まない、泉幸子教授の使用済みハンカチだ。つい五分前に貰ってきたぞ。ちなみに、サっちゃんが手を拭いた直後のサっちゃん汁がたんまり付いている使いたてホヤホヤのハンカチだぜ」
もちろん嘘である。使用済み風を装うために俺がさっきトイレで手を拭いたのだ。
ちなみに、サっちゃんとの約束も果たしている。彼らは変な人ではなくこの大学の学生だ。変なおじちゃん達では無い。
「「「うぉぉぉ!」」」
鬱蒼とした陰キャ空気を吹き飛ばすほどの雄々しい雄叫びが部屋を包み込む。
オタクというのは好きな物を集めて愛でる習性がある。そのコレクター魂にガソリンを掛けて盛大に火を放ったのだから彼らのボルテージは鰻登りだった。
「オメェら! これが欲しいかぁぁぁ!」
ハンカチを御旗のように高らかに掲げて、彼らを更に焚きつける。
「「「うおぉぉぉ! 欲しぃぃぃ!」」」
「よぉ~し! これに見合うものと物々交換だ! オメェらが出せる一番高価な物と交換してやるぜ! あ、現金は無しだからな」
彼らは我先にとバッグやロッカーを漁り始めこのハンカチと釣り合う物を探し始めた。
普段は物静かなオタクくん達だが、一度火を放てばその行動力は凄まじいものだった。
泉幸子というネームバリューは恐ろしいものである。
「よ、よし! このラジホットのゲーミングマウスはどうだ! 期間限定で生産数が千個しか無いものだ!」
一人の小太りオタクくんがギラギラした箱を持って俺のところへと持ってくる。
このマウスは俺も知っている。公式オンラインショップをサーバダウンさせる程に人が集まったという激レアマウスだ。
その後も転売に転売を重ね今や二十万円程する物だ。
――ふむ、初手二十万か……。まだ、行けそうだな……。
「他にこのマウス以上の物を出せるやつは居るか!? 居ないなら、この幸子ハンカチはこの男の手に渡るぞぉ! 推しのアイテムが他の男の手に渡ってお前らは黙って居られるのか!?」
彼らの所有欲を擽る言葉を添えて、更に焚きつける。ちょっとしたオークションオーナーのような気分で楽しい。
「そ、それなら……。こ、これはどうだ! マジカルメイドの第十五話でのみ出てきたプリティティルルの変身衣装を着たビューティパルラのフィギュアだっ! ネットオークションでの価値は四十五万くらいあるぞ。これは、手放したく無かったんだがな……。背に腹は代えられない……!」
――なるほど、マジメのフィギュアか。良いもん持ってんじゃねぇか。流石、アングラサークル。
マジカルメイドは今から二十年くらい前のアニメだが、未だに根強いファンを拵えている美少女アニメだ。
確かにあの伝説と呼ばれている十五話で出てきた、相方の衣装を着たビューティパルラは可愛かった。そのフィギュアが出ていたとは知らなかった。
「いやいや! 待てっ。これなんかどうだ! これはな――」
その後もオタクくん達は大人気アイドルのチェキやグラドルのサイン、古いホモビ等など……続々と高額アイテムをどこぞの青狸のようにポンポンと取り出してくる。
俺はみるみる上がっていく価値に味を占め、更に彼らを焚き付けてサっちゃんハンカチの付加価値を上昇させまくっていた。
そして、その中でも今日一番の高額アイテムがついに出てくる――!
「くっ……。それならば、これでどうだ! 世界的に大人気なカードゲームの三十年前の世界大会の優勝景品だ! 鑑定書付きだから本物だ。正確な相場は分からないが五百万は下らないだろう……。僕はこれで幸子様のハンカチを手に入れるんだ!!!」
眼鏡を掛けた爽やかそうなオタクくんが白い手袋をつけてプラスチックのケースに入ったカードを見せびらかしてくる。
そのカードのデザインはカードゲームとは思えない程に綺麗な一輪の花の絵だった。ちょっとした絵画のようにも見える。
――なんで、そんな物が大学のサークル部屋にあるんだよ……。と言うか、こいつら金持ちだな……。
ただの大学生が何故そんなうん百万もする超高額品を持っているのかは分からないが、これを手にしたらしばらくはバイトをせずにパチンコで遊んで暮らせそうだ。
他のオタクくん達も流石にこれ以上の物は無いのか下を向いて項垂れていた。
「よし、決まりだな。そのカードと交換だ」
いかにも高額そうなカードを丁重に貰い、サっちゃんのハンカチを眼鏡君に手渡す。
俺からしてみればどちらも安っぽいものではあるが、見る人が見れば価値が大きく変わる。
――物々交換ってすげぇんだな。
「うっしゃぁぁぁぁ! 幸子様のハンカチだぁ! あぁぁぁ、幸子様の豊かな匂いがっっっっっ!」
眼鏡君はよっぽど嬉しいのか、ハンカチを鼻に当てて匂いを嗅いで悶絶していた。
手を拭いたのは俺だが、サっちゃんの物だったのは変わりないので見なかったことにしておく。
「ほんじゃ、俺は帰るわ。また、サっちゃんの物が手に入ったらここに来るわぁ」
こうして、俺は白熱したアングラなオークション会場を後にした。
「さ~てと、このカードをどうしようかなぁ~」
大学を出て、駅まで向かう帰り道。
雨はすっかりと上がり、雲が夕日に照らされて燃え盛るようにオレンジ色に染まっていた。
力強い夕日で透かすように戦利品を遠目で眺める。
「このまま、売っぱらって五百万を手にするのも良いし、この希少性を利用すれば更に価値を上げることも出来るな……」
ここまでくれば、欲しがりそうな人はかなり居るだろう。安定択を取るか、さらなる高みを目指すか。
しかし、答えは自ずと決まっていた。
俺はギャンブラー。
ギャンブラーは高みを目指し夢を掴むものだ。安定を取っていたらパチンコなんてやらない。
常に荒波に揉まれ、その希薄な頂点を目指すべく、日々戦っているのだ。
「ふっ……。いっちょ、億万長者目指してやりますか!」
俺は決意を新たに煌々と燃え盛る夕日に今の相棒を掲げて誓った。
後ろからトラックが近づいてきていることにも気づかず、ただ勝ち誇った笑みを浮かべていた。
時は既に遅かった。俺が気づいた頃にはトラックは俺の横を通り過ぎようとしていた。
ざっぱ~ん!
「……」
そう、今は晴れているとは言え、昼間は雨が降っていたのだ。
水溜りの一つや二つ、有ってもおかしくは無い。
トラックがその水溜りを撥ねれば盛大に水飛沫を上げるのも道理なこと。
「……お、俺の相棒が……」
これでこそ、ギャンブラー。ツキが回ってきたと思ったら、途端にそのツキにも見放される。
俺と相棒は見るも無惨にびしょ濡れになってしまった。
いくらプラスチックのケースに入っているとは言え、カードを入れるのだから隙間が有るのは当然だ。
相棒は水を被り、刻一刻と染み渡ってはインクが滲み始めていた。
これでは、五百万の価値もゼロである。
「チクショーーーー!」
「はっ!? こ、ここは!? あ、相棒は!? 五百万は!?!?」
目が覚めると見慣れた天上が目に入る。ぐっしょりと汗で濡れたTシャツが気持ち悪い。
狭いワンルームに体がジリジリと痛む煎餅布団。乱雑に脱ぎ捨てられた洋服。紛れもなく俺の部屋だ。
時計を見ると、午前七時を少し過ぎた所。
「ゆ、夢……だったのか?」
激レアカードを手に入れて、水に浸してしまう、なんとも遣る瀬無い夢。
安堵と失意が同時に襲ってくる、今まで感じたことのない稀有な感情が心の中を支配する。
その時、ふとあることを思い出す。
「あっ、俺の五万は?」
夢の中の俺は午前中にパチンコで負けていた。
俺は慌てて財布を引っ張り出し、布団の上でひっくり返す。
すると、諭吉が五枚ひらひらと花びらのように舞い落ち、十円玉三枚が隕石のように落下してくる。
五百万に比べれば大したことは無い。
だが、失ったと思っていた物が戻ってきたのはなんとも嬉しいものだ。
「ほっ……。これも夢だったのか……良かった……。あれ? コンドームが無い?」
確かに財布に入れていたはずだ。使う予定は無いが、念の為にと忍び込ませていたのだ。
しかし、いつの間にか無くなっていた。
それに――。
「夢の中で、誰かにあげていたような……? 誰だったかな……」
パチンコでスッたこと、サっちゃんと交換したこと、新熊に睨まれたこと、オタクくん達とオークションしたことは覚えている。
しかし、何故そんな事をしたのか、肝心のその切っ掛けだけが靄が掛かったかのように思い出せない。
いくら考えても思い出せないので、俺は脳内検索を辞めた。寝起きは頭が回らないのだ。
多少の気持ち悪さを残しつつも、俺は一限のサっちゃんの講義に出るため、通学の準備を始めたのだった。
コメディってなんだかんだ初めて書いたような気がします。
大体いつも、少し気味の悪い話かGLか……。
単純なコメディは苦手なんですよねぇ。




