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楽しい記憶 [サイコホラー]

ジャンル:サイコホラー

ポツポツと冷たい雨が降る春先(はるさき)の夜。


目の前からポンチョ姿の警察官(けいさつかん)自転車(じてんしゃ)のライトを私に当てて怪訝けげんな顔をしながら近づいてくる。


「あの、お兄さん? 傘も差さずにこんな所で何をしているんですか?」


警察官は私の姿を見るなり自転車から降りて、荷台にだいからバインダーを取り出す。


いわゆる、職務質問しょくむしつもんだろう。 左肩のペンライトを器用に当てながらボールペンでメモを取ろうとしている。


ご苦労な事だ。丁度良い、今日はこの人が私の趣味(しゅみ)相手になって(もら)おう。


「いや、ただのコンビニ帰りっすよ。傘が(ぬす)まれちゃってね」


そう言って、作り笑いをしながら左手に持つビニール袋を見せる。


中はノート一冊とおにぎり、缶コーヒーだ。 おにぎりと缶コーヒーは本当にコンビニで買ってきた。 最も雨に打たれたいから傘は最初から差していないのだが。


「それは災難さいなんですね。ところでお兄さんお名前は?」


本当に災難とは思っていなさそうな興味の無い表情をしながら名前を訪ねてくる。


名前なんかメモっても意味ないだろ。 とは思いつつも嘘を言っても仕方がないので正直に名乗った。


「それにしてもお兄さん、半袖はんそでなんて寒くないんですか?」


「いやぁ、寒いっすよ。 でもそんな大雨って程でも無いからちょっとしたシャワーみたいで気持ち良いっすよ?」


「そ、そうですか。風邪、引かないでくださいね」


どうやら理解してくれなかったようだ。 警察官の引いた顔が私の心にさる。


冷たい雨が肌に当たるのは心地よいんだが……せない。


いけない、このままだと趣味がつまらないままで終わってしまう。


そう思い、今度は私の方から話題をる。


「お巡りさんはこの時間に巡回じゅんかいっすか? 普段、この道を通るけどお巡りさんとすれ違ったのは初めてな気がする」


「ああ、ここ最近ね、この近辺で行方不明者ゆくえふめいしゃが続出しているんですよね。 それも大半が高齢者。 だから、巡回範囲を広げて回数も多くしているんです」


「へぇ……。高齢者ならボケてどっか行ったんじゃないっすかね?」


昔から高齢者の行方不明はその手の迷子が多いだろう。 先週、趣味に付き合ってくれたじいちゃんもボケボケで会話が成り立たなかった。


警察官もそう思っているのか苦笑いしながら首を縦に振っている。


良かった、表情が戻った。不審者を見るような顔では映えないから嬉しい。


その時、肩に掛けたレシーバーから無線が飛んできた。うまく聞き取れなかったがどうやら何か有ったようだ。


「おっと連絡だ……。 まぁそういう事だからお兄さんも気をつけて帰ってくださいね」


「はーいっす」


警察官はそう話を切り上げると手に持っていたバインダーを自転車の荷台に詰め込む。


どうやら今日はこれで私の趣味は終わりらしい。 最後の仕上げをしようか。


ビニール袋をガサゴソと漁り、一冊のノートを取り出す。


「あ、お巡りさん最後にちょっと良いっすか?」


急いでいるのか困った顔をしながら私の方を振り向く。


仕上げなのだから、いい表情をしていて欲しい。


「どうしまし――」


言葉を遮るように警察官の目のめのまえでノートを開く。


警察官と自転車がまるで排水溝はいすいこうに水が流れていくようにノートへ吸い込まれていく。


そのページを見ると今日さっきまでのやり取りの内容と警察官の困った顔をした似顔絵にがおえがノートに書き記されていた。


「少し不格好だけど、今日の日記はこれで良いか。 昨日のばあちゃんよりかはマシだな」


昨日のばあちゃんはひどかった。途中とちゅう口論こうろんになり鬱陶うっとうしかったので、急いで日記を広げて日記に残してしまった。


それに比べたら今日は幾分もマシだ。ましてや若い人なんて久しぶりだった。


内容に満足したので今日のハイライトを書き込んだ日記を閉じる。


「後、何人でこの日記が埋まるかな~。楽しみだ」


いろんな人と話した記憶でいっぱいになる日を想像しながら私は冷たい雨が降る薄暗うすぐらい路地に歩みを進めて帰路についた。



主人公のサイコパス加減は表現出来ていますかね?

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