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あかね色  作者: みー太
2/2

夕焼け

続きです。


「えっと・・・」


彼女が言った。



だが、彼女も、そこで言葉が尽きた。

そりゃそうだ。初めて会った人間に告白されたのだから。

どう対応すればいいか、わからないだろう。



何やってんだろ、俺。



いきなり、「好きです」はないよな。

もう少し、普通に会話してからでもよかったじゃないか。

話して、少しずつ仲良くなって、友達になって、それから言うことだろ。

彼女の目の前に立つと、頭が真っ白になり、間に挟むべき段階をすっ飛ばしてしまったようだ。



どうしよう・・・



今の俺、明らかに意味わからない人だよな。

この場から、逃げたい。背を向けて、走り去って行きたい。

でも、足が震えて動かなかった。走り出せなかった。



お互いに沈黙したままの状態になった。


時間にすれば、ほんの何秒かのことであった。

だが、草太にすれば、永遠に思える沈黙であった。



もう、空が赤みを帯び始めていた。夕方だ。

冬に近づくにつれて、日が短くなっていく。



「キミは・・・」

彼女が口を開いた。



「どっかで会ったことあったっけ?」

戸惑いの色が、声にまで出ている。



「ひ、ひえ!」

草太は、裏返った声で答えた。

恥ずかしくて、顔を真っ赤にしながら、咳払いをした。少し落ち着いた声になった。


「いえ、ちゃんと会ったのは・・・今日が初めて・・・です。」


「だよね?好きって言ってくれるのは、うれしいけど、えっと・・・何君だっけ?」


「村瀬です!村瀬・・・草太です!」


「村瀬君ね。村瀬君のこと私全然知らないし・・・その・・・」


彼女が口ごもった。


後に続く言葉は、たやすく予想できた。



「ごめんね。」



やっぱり。


当然といえば、当然のことだ。


だが、草太は、腹の底にズンとした衝撃を感じた。

予想していたが、ダメだった。高ぶっていた気持ちが、一気に萎えてしまった。


急に、肌寒く感じた。



「すごくうれしいんだけど、その・・・村瀬君の・・・気持ちには応えられないかな・・・と思うんだ。」


「はい・・・」

すっかり意気消沈した声になってしまった。


「だから・・・うん・・・とね・・・・。」

彼女は、なんて言えばいいか困ってしまっている。



「もう、大丈夫・・・です。わかりました!」

草太は、無理に明るい声を作った。


「急に、変なこと言ってごめんなさい!忘れてくれて大丈夫です!」

草太は、彼女と目を合わせずに、言った。

ニコッと笑って見せた。


そして、視線を地面に落とした。

表情を見られたくなかった。

草太の、無理やり作った笑顔は、痛々しいほど歪んでいた。



「そう・・・じゃあ・・・私・・・もう行くね?」

彼女は、練習後だから、陸上のユニフォームにパーカーを羽織っただけの姿だ。体が冷えてきたのだろう。


かける言葉が見つからずに、彼女は草太の横を通り過ぎていった。

足音が、遠くなった。




目から自然と、涙がこぼれていた。


草太は、自分がした、全ての行動に後悔した。




遠くから、見ていればよかったんだ。

それを、いきなり焦って話しかけるから、こんなことになるんだ。

もう、どうしようもないじゃないか。



その場から、動く気にもなれずに、しばらく突っ立っていた。



しばらくすると、涙も止まった。




帰ろう・・・・




草太は、さすがに肌寒さに耐えられなくなり、帰ろうと思った。

頭を垂れたまま、力なく校門へ歩き始めた。


その時、前方から声がした。


「・・・くーーん!」



ハッと頭を上げ、前方を見ると・・・・



制服に着替えた彼女が走ってきた。



「村瀬くーん!」



手を振りながら、草太のほうへ向かっているのだ。


荒い息をしながら草太の前で止まった。


「はぁはぁ・・・さすがに制服じゃ走りにくいわ。ふぅ。間に合ってよかった。」


草太は何が起きてるかわからなかった。


「あ、あの先輩・・・なんで・・・」


「これ!」

驚いている草太に、彼女はマフラーを差し出した。


「え?え?」

もう、わけがわからずに動揺している草太。


「ほら、貸してあげる!寒くなってきたのにそんな薄着じゃ風邪引くよ?」

彼女は、ニコっと笑いながら言った。


「先輩・・・あの・・・」


「口答えしないで、ほら、巻いた巻いた!」


「あ、はい!」

さっぱり、状況が理解できない草太は、言われるままに借りたマフラーを巻いた。



「先輩、あの、どうして・・・俺に・・・」


「寒そうだったからって、言ったじゃん。」


「いえ、でも・・・」


彼女は、草太に背を向けて歩き出した。

「それにさ・・・告白にはまだ応えられないけど、友達としてなら応えられるよ?」


顔だけ、草太に向け、ニッと笑って言った。


「先輩・・・・・ありがとうございます!!!」

さっきまでの、落ち込んだ気持ちは吹っ飛んでいた。



「ほーら、何時まで突っ立ってんの?早く帰らないと夜になっちゃうよ?」


彼女は、そう言うとまた歩き出した。



「あ、はい!」


草太は、彼女のあとを歩き出した。



「あ、そうだ!」

また、彼女は立ち止まった。


「私の名前は、川中あかね!友達として、一応自己紹介。よろしくね?以上!」


そう元気に言うと、あかねは再び歩き出した。


「お、お、俺は村瀬草太です!」


「知ってるよ!ほら、いちいち立ち止まらないで歩きながら話そう?」


「は、はい!」



草太は、あかねに追いつくために走り出した。


いきなりは無理だが、2人の距離は、少しずつ縮まっていく。




草太はふと、空を見上げた。

見上げた空は、真っ赤に染まっていた。




昼と夜の狭間で、ほんの一瞬だけ見える夕焼け。



一瞬の出来事であるのに、とても美しかった。



茜色に染まった空は、新しく出会った2人を、優しく照らしていた。

これで、この話は終わりです。

読んでくださった方、ありがとうございます!!

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