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ライオン転生  作者: 赤野用介
第1巻 ライオン転生
6/62

06話 群れへの合流

「ウニャーオッ」


 生後二ヶ月が経過した俺達は、ライオンらしく鳴けるようになってきた。

 1ヵ月前にクロサイと水を獲得した俺は、母に肉を運び、ミルクを確保した。

 メスライオンの食事量は1日3から4キログラムで、哺乳期間中には増える。毎日5キログラムの肉を食べる場合、1ヵ月間で150キログラムの肉が必要だ。

 だがクロサイの体重は、800から1400キログラム。

 可食部分までは知らないが、余裕で足りた。


 ――かなり残っているけど、もう駄目だろうな。


 母ライオンが食べない時間は、空間収納に入れて保管した。

 だが母が食べたいタイミングが分からず、長めに出して、鮮度が落ちた。

 抗菌薬をイメージした抗菌魔法を使えたのだから、肉にも使うべきだった。

 前世の抗菌薬は、菌を抑制するだけではなく、殺菌効果もあった。

 それを思い付いた時は、肉が悪くなり始めており、後の祭りだった。


 最優先事項は、母ライオンの治療だった。

 そちらに魔法を使い、肉の鮮度は二の次だったのだ。


 ――関係ないことも、やったけど。


 治療と並行して行ったことが、空間収納の性能確認だった。

 周囲を探索したところ、幅と奥行きが3メートル、高さが1メートルほどの岩を見つけた。そして試したところ、見事に収納できた。

 前世では、ピラミッドの石が1立方メートルで、2.5トンだった。

 幅と奥行きが三倍ずつなので、9個分で22.5トン。

 だが石の重さは異なって、白系よりも黒系が重いと聞いたことがある。

 ピラミッドの石より黒かったので、25トンは収納できると確信した。


 そんな事をしている間に傷が癒えた母ライオンは、活動を再開した。

 俺達は母ライオンの導きで、群れへの合流を果たしたのだ。

 群れへの合流は、母ライオンが先に挨拶して、俺達を引き合わせる形だった。

 母ライオンが居ない場合、俺達は群れに合流できなかったのかもしれない。


『リオ、父ライオン達に挨拶に行くぞ』

「ウニャッ」(分かった)


 歩きもしっかりとしてきた俺は、スタスタと歩いて、父ライオンに挨拶する。


「ウニャーオッ」


 眠そうに半目を開けたオスライオンは、俺達を気にせず、目を閉じた。

 とりあえず頭を擦り付けて、俺の顔、体臭、鳴き声を覚えさせておく。


 オスライオンは、群れを乗っ取った時に、子ライオンを殺してしまう。

 それはメスライオンを発情させて、自分の子孫を残すためだ。ライオンに限らず、トラや猫、熊、シマウマなどにも見られる行動だ。

 自分の子孫を残すという、生物の目的に沿っており、合理的である。


 ――間違っても、俺を襲うなよ。


 合流が少し遅めだった俺は、念入りに、お前の子供だぞと教え込む。


「ウニャーオッ」(パパッ)

「ガウウッ」


 俺がしつこく教え込むと、父ライオンはおざなりに吠え返した。

 挨拶を終えた俺は、次いで少し離れた場所で寝ているオスにも、挨拶に行く。

 そちらは俺の父ライオンではなく、リオの実父だ。


 通常、オスライオンは1頭から3頭で、メスライオンの群れに君臨する。

 君臨後に交尾して生まれた子供達は、実子でなくとも殺さない。

 過去には殺すライオンも居たかもしれないが、その場合は仲間のオスと戦いになり、自分の子も殺される。子供を攻撃されるメスライオンも抵抗する。

 仲間の子供を殺すオスが、子孫を残せずに自然淘汰されていった結果、仲間の子供を殺さないライオンが残ったのだろう。


「ウニャーオッ」


 もう一頭に俺が挨拶すると、彼は薄目で俺を見て、フッと目を閉じた。

 俺は構わずに頭を擦り付けて、顔、臭い、鳴き声を覚えさせる。お前の群れで仲間のオスから生まれた子供だと、リオの父に主張したのだ。

 次いでリオが頭をぶつけると、リオの父は大きな舌で、背中をベロンと舐めた。

 リオの父は、リオが自分の子供だと、きちんと認識しているようである。


「ウナオッ!」


 リオが前脚でベシッと父ライオンを叩くが、父ライオンはどこ吹く風である。


 この群れには、18頭のライオンが居る。

 オスライオン2頭、メスライオン6頭。

 2歳の子ライオンが、オス2頭とメス1頭。

 1歳の子ライオンが、メス3頭。

 0歳の子ライオンが、オス2頭とメス2頭。


 オスライオン2頭とメスライオン6頭には、血縁関係が無い。

 つまり2歳の兄姉を妊娠する前が、オスが群れを乗っ取った時期だ。

 2歳のオス2頭は、そろそろ群れを追い出されて、メス1頭は残るだろう。

 なぜならリオの母が帰っておらず、群れは1頭のメスを失った。ライオンにはナワバリがあり、ナワバリを維持するために頭数が必要なのだ。


 ――2歳の姉は、オスライオン2頭のうち片方が、父ではないし。


 姉が群れに残っても、ちゃんと繁殖できる。

 孫世代はオスライオン2頭と血縁関係があるが、メスライオンの性成熟は3歳なので、自分の孫が性成熟する頃は6年が経っている。

 6年も経てば、オスライオンは老いており、乗っ取りで交代している。

 そのため孫が交配する相手は、自動的に血縁関係が無いオスになる。

 ライオンの習性は、長い年月で、最適化されたシステムになっている。


 ちなみにライオンは、一定の割合でメスも放浪する。

 それはオスが交代しない場合や、群れの数が増えすぎた場合に起きる。

 群れの数が増えすぎた場合は、狩りの効率が悪くなってしまうためだ。


 ――シマウマを狩る時、ライオン12頭なんて必要ないからな。


 狩りと子育てに効率的な数が、群れの理想数だ。

 俺が居る群れには、大人のメスライオンが6頭いる。

 そこにリオ達の世代まで6頭が加わると、大人のメスが12頭になる。

 リオの母が1頭減ったので、群れは1頭の補充を必要としている。

 だがメス6頭が育ち、上の世代も引退しなければ、余剰のメスが出ていく。


 ――メスの放浪は、オスよりも大変らしいな。


 ライオンは、異性には寛容で、同性には厳しい。

 異性に寛容なのは、群れに属していなくとも受け入れて、交尾するからだ。

 そして同性が来た場合は、基本的に排除しようとする。


 オスの場合、老いた数頭の同性に勝てば、群れを乗っ取るチャンスがある。

 メスの場合、群れる多数の同性に勝てず、排除すれば群れに入る意味がない。

 放浪メスが受け入れられることは少なく、前世で知ったのは2種類だけだ。


・群れを持つオスの子供を生み、オスに守ってもらいながら合流した。

・カラハリ砂漠で獲物が減少した乾季、群れでメスの出入りが行われた。


 もっとも人間には、ライオンの見分けが付かない。

 放浪メスが群れに受け入れられた場合、元から群れの一員だったのか、放浪メスかを判別できず、確認事例として確定できないだけかもしれない。

 だが放浪メスは、自力で群れを制圧できない分、オスより苦労する。


『リオの場合は、群れに残れるほうが楽だけどな』

「ウミャッ?」

『ライオンは、オスだけじゃなくて、メスも追放されることがある。リオやミーナが追い出されそうになったら、ギーアと一緒に連れて行くつもりだ』


 ミーナは、生き残った俺の妹で、ギーアはリオの弟だ。

 ドイツ語では、ミーナが愛で、ギーアが強欲の意味を持つ。

 子ライオンを育てるなら愛で良いし、オスライオンなら強欲だろう。

 そのような安直な理由で、俺が勝手に名付けた。


 幸いなことに、俺とリオは両親が異なる。

 父ライオンが別個体で、母ライオンも従姉妹。

 俺とリオは6親等で、近親交配を避けるライオン的にも問題ない。

 リオが群れを追い出されても、なんとかなるのではないだろうか。


『リオの弟ギーアと、俺の妹ミーナを連れて行っても、群れで番の争いにならない。俺はミーナが対象外で、リオはギーアが対象外。独立計画は、完璧だ』


 リオからの返事はない。

 もしかすると、言い方が打算的すぎたのかもしれない。

 そのように反省した俺は、前世の知識を思い出して、手続きをやり直した。


『へい彼女、お茶しない?』


 リオの猫パンチが、俺の身体をベシッと叩いた。

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[良い点] 本当に自然界に入ったと錯覚する生々しさや臨場感ですがさらに人間と関わる事になりますます楽しみですね。
[良い点] まだまだ子猫の姿でナンパするでないwww [一言] そういえば、それこそディスカバリーチャンネルかなんかで追放された兄弟ライオン三匹の追跡番組見たなぁ……ライオンも鶏もオスは大変だなぁ。
[良い点] ドイツ語推しがいい こっちの人間にもあの硬い語感を披露する日は来るのか
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