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ライオン転生  作者: 赤野用介@転生陰陽師7巻12/15発売
第2巻 炎翼虎と金狼

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55話 救援要請

 半月ほどイボイノシシを狩り続けた後、俺達はナワバリの中心に帰ってきた。

 より正確には、イボイノシシを狩れなくなったので、渋々と帰ってきた。


『イボイノシシ、狩りすぎたね』

『そのようだな。穴の傍から、離れなくなったし』


 毎日のように襲っていれば、相手の警戒心は、上がり続ける。

 俺達がイボイノシシばかりを襲い続けた結果、相手の警戒心が上がり続けて、ついに穴の傍から離れなくなった。

 イボイノシシは小さいので、1日1頭狩れなければ、群れが食べていけない。

 狩りの成功率が落ちたので、スイギュウが生息する中心部へ帰った次第だ。


『獲物のバランスは大切だな……分かるか、スウちゃん』

「ミャウッ!」

『そうか。分かってくれるか』

『絶対に分かっていないでしょう』


 リオのツッコミを聞き流しながら、俺はコロコロと転がる子ライオンと戯れた。

 周囲には、群れのライオン達も寝転がっている。

 子ライオン8頭は、長距離を歩いた後、ミルクをもらって休憩中だ。

 元気になったミカンも、伯母達に拒否されなくなった。

 最初は、おっかなびっくり入っていったが、今は普通に混ざっている。

 時々、姉妹とのミルク獲得競争に負けて、俺のほうに鳴いて来るが。


 今は大人達が動かないので、群れ全体で休憩中だ。

 空腹になれば狩りに行くだろうが、おそらく明日以降の話だ。

 空腹ではないのに、スイギュウを倒すのは、怪我を考えると好ましくない。

 どうせ肉を保存できないし、獲物にも警戒されて、逃げられてしまう。


 ――空腹ではない時に獲物を襲わないのは、ライオンの最適解かもしれないな。


 群れで生活していると、色々な学びがあって面白いと思う。

 ほかに感心したのは、ギーアが弟妹と遊ぶ時に、大人のメスライオンが注視していて、ギーアが力加減を間違えると介入することだ。

 大人の介入は、俺がギーアと序列争いをする時には、一切見られない行動だ。

 介入を適切に判断できる点が、かなり賢い動物だと感心させられる。


『それでイボイノシシの子供、どれくらい捕まえたの?』


 リオが、俺が貯めたヘソクリの中身を質してきた。

 群れがイボイノシシ狩りを行っていた間、俺はブレンダに巣穴のイボイノシシを倒してもらい、イボイノシシの回収をしていた。

 イボイノシシの巣穴に入れるのは、身体が小さい今だけだ。

 ブレンダと契約して以降、獲物を狩れずに餓える心配は無いが、子豚は美味い。であれば、狩らない理由は無かった。


『巣穴6つで、メス6頭と子供21頭だな』


 俺は素直に、ヘソクリの中身を申告した。

 正直に話したところで、大したデメリットは無い。

 子豚は美味いが、子牛だって美味いのだ。


『レオンが狩ったのも、イボイノシシが捕まえられなくなった原因じゃない?』

『ブレンダには、群れが見つけていない巣穴を探してもらっていたぞ』

『どうやって探していたの?』

『空からイボイノシシを探してもらって、巣穴の位置を特定してもらった』

『精霊って、凄いね』

『同感』


 精霊との契約者が、人間社会で貴族に成るのも無理はない。

 文明が進んだ数千年後は分からないが、中世の現時点では、重要な能力だ。


 ――獣人と、戦争もしているし。


 そんな風に思っていると、不意にブレンダが、耳元で話し掛けてきた。


『レオン、グンターの精霊が来たわよ』

『グンターか。そういえば、もう1ヵ月以上は会っていないな』


 俺が徐ろに立ち上がると、リオも一緒に立ち上がった。


『あたしも行くね』

『そうか。まあ構わないが』


 リオはグンターに、精霊契約を手伝ってもらっている。

 だが前回リオには、群れと合流前のスウ達の守りを頼んだ。

 御礼でも言いたいのかと思った俺は、群れと合流したスウ達が大丈夫だと判断して、リオの同行に同意した。

 そして傍に居た母ライオンに、一声掛ける。


『ちょっと出かけてくる。スウを捕まえておいて』


 俺の母ライオンは、ヤレヤレといった表情を浮かべつつ、のそりと歩いてきた。

 そしてスウの傍に座り、顔を舐めて、構い始めた。


「ニャアッ」


 顔を舐められたスウが転がるのを見た俺は、リオと共に街道へと向かった。


       ◇◇◇◇◇◇


 街道に出た俺とリオは、ヒッポグリフを繋いだグンターと再会した。

 珍しくレザーアーマーを身に付けており、ヨハナを連れていない。

 グンターの表情は非常に険しくて、強張っている。

 それを見たリオが、若干引いているほどだ。


 ――ライオン側が怯えるのは、どうなんだろうなぁ。


 スイギュウやイボイノシシなど、ライオンは様々な動物の子供を襲う。

 その際、親が自分の身を省みずに行動して、手痛い反撃を受けることもある。

 それはサバンナの動物だけに限らず、人間という動物にも共通する行動だ。

 現在のグンターが、動物として狂暴な状態になっていることは、見て取れる。

 だがライオンが怯えるのは、はたして如何なものだろうか。

 さしあたって俺は、自分から話題を振って話を進めることにした。


『いつになく真剣そうだが、何か問題があったのか』

「ああ、問題が発生した。力を借りたい」

『悪い予感はするが、俺とグンターの仲だ。水や風の精霊との契約を手伝ってもらうとか、清算方法はある。とりあえず、言ってみてくれ』

「そうか、助かる」


 グンターは、腰元に下げていた革袋を手繰り寄せると、口元に運んだ。

 そして水を飲み、むせて吐く。


 ――これは酷い。


 リオ以上にグンターが、正常ならざる状態だった。

 だが誰かが極端に混乱していると、それを見ている側は冷静になる。

 まさに現在の俺がその立場で、冷静にグンターが落ち着くのを眺めた。

 そんな俺の様子を見て、グンターは落ち着きを取り戻していった。

 ようやく話が出来る状態になったグンターが、説明を始めた。


「港町ビンゲンに居る獣人の2個大隊を、精霊で攻撃したのを覚えているか」

『もちろん覚えている。海戦の後だ。リオを手伝ってもらった借りの返済だった』


 この場に居合わせるリオへの説明も兼ねて、俺は認識を語った。


「その攻撃で、獣人達は、港町ビンゲンから撤退した」

『ふむ』


 獣人帝国は辺境伯領を落とすために、後方の港町ビンゲンを押さえて、輸送を妨害していた。

 敵が撤退したのは、単純に考えれば、良い話だ。

 だが、グンターの状態を見るに、そうではないらしい。

 俺は相槌を打ち、態度で続きを促した。


「その2個大隊が、辺境伯の領都エアランゲンを急襲した。大隊長2人が、人化の宝玉を使って、一時的に人間に化けて、侵入したんだ」

『人化の宝玉、そんなものがあるのか』

「レオンの古代魔法と同じ、神代の力だ」


 つまり転生者が、転生時に得た祝福の類いを用いて、作成したのだろう。

 転生時、天使は『もっとポイントがあれば、より大きな大祝福などもあったわよ』と言っていた。

 大祝福『など』であれば、その上に超祝福のようなものがあったかもしれない。

 そして大祝福や超祝福に、錬金術の力などが存在し、一時的に人に化けられるアイテムを作成出来たのかもしれない。


『人化の宝玉は、人ではない者が、人に化けられるのか』

「そうだ。使ったのは大隊長2人だけで、数は少ないはずだが」

『そんな物が存在するとは、驚いた』


 人化の宝玉というアイテムの存在には驚いたが、理解不可能ではなかった。

 ようするに、アバターの一時変更だ。

 未来の技術なら、人間を電子化して、別の身体に入れることも出来るだろう。

 前世の地球は、そこまで技術が進んでいなかった。

 だが先進文明の宇宙人が、恒星間移動をして地球に来ていたならば、技術的に可能に思える。

 空間収納の力を与えられる高度文明なら、アバター変更くらい余裕そうだ。


「それで門を開けられ、第二城壁内へ入り込まれた。第二城壁は、既に落とされただろう。ヨハナ達は、辺境伯夫妻と第二城壁の内側にある城で籠城中だ」


 グンターの話が、俺を現実に引き戻した。

 中級精霊と契約して、お披露目も済ませたヨハナは、辺境伯家の継承候補者だ。

 領地を継ぐ可能性に備えて、教育で辺境伯夫妻と一緒に居ても不思議は無い。

 ヨハナの状況は、自己選択の結果で、運が悪かったとは言えないかもしれない。


「獣人の本隊が来ると、終わりだ。その前に大隊を潰したい。力を貸してくれ」

『俺としては、それなりに縁があるヨハナと、精霊魔法を撃ち込んで敵対した獣人の大隊であれば、心情的にヨハナ寄りの立場で良い。報酬は……』

『その宝玉』


 同行したリオが、話に割って入った。

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― 新着の感想 ―
[一言] 人化というが そもそもこの世界の獣人がどれだけ人間から離れてるかよくわからない 頭がケモノなんですかね?
[一言] 人化の宝玉。遂に人化するんかな。まぁ、このままライオンのままだと話の展開的に広がらない気がするし、続けるのに必要そうでは有るから悪くはないかなぁ(効果は一時的っぽいから常時人化にはならないだ…
[気になる点] 表面を人へ化けさせたとしても寿命がライオンのそれだと逆に絶望感がわきそう [一言] 人へなれる可能性にとうとう馬脚を現したなこの雌ライオン!
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