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ライオン転生  作者: 赤野用介@転生陰陽師7巻12/15発売
第2巻 炎翼虎と金狼

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54話 早期のお肉デビュー

 赤道直下を除く野生下のイボイノシシには、繁殖期がある。

 それは乾季の始め頃で、5ヵ月から半年ほどの妊娠期間を経て、雨季の始め頃に出産する。

 雨季の始め頃に出産するのは、子育ての時期には向かない乾季を避けるためだ。

 草食を主体とする雑食性のイボイノシシは、草や葉、果実や木の実、カヤの根なども食べる。

 雨季に出産すれば、哺乳期の食料確保に困らないわけだ。


『子連れが多いね』

『そうだな。小さいのを連れている』


 目的地に到着した俺達は、早々に親子連れのイボイノシシを発見した。

 雨季の始まりから、およそ1ヵ月と1週間。

 イボイノシシは、誕生時の体重が400から900グラムほど。

 生後1週間は巣穴から出ないが、2週間から3週間で、固形物も食べ始める。

 授乳期間は4ヵ月から半年で、性成熟までは1年半だ。


 ――固形物も食べるということは、巣穴の外を出歩くということだな。


 生後1ヵ月ほど経っている現在、イボイノシシは子連れで徘徊している。

 既に小柄な猫ほどの大きさに成長しており、走れるようにもなっている。

 シマウマは肉食動物から逃げるために、生まれて1日で走れるようになる。

 同じサバンナに暮らすイボイノシシが走るのは、それほど不思議ではない。

 もちろん身体が小さい分だけ、足が短いので、走る速度も遅くなるが。


『あれ、どうやって捕まえるのかな』


 ミーナが涎を垂らしながら、イボイノシシの子供を眺めた。

 新鮮な天然の豚肉、約3キログラム。

 1頭の親に対して、4頭ほどが連なっている。


『追いかけて捕まえるだろう。子供の足は遅いし、イボイノシシが反撃したって、俺達ライオンには勝てない』


 メスライオンは、メスのイボイノシシよりも身体が大きくて重い。

 メスライオン1頭で、イボイノシシを狩れる。

 そのため抵抗されても、スイギュウを相手にする時のような危険は無いのだ。

 つまりライオンがイボイノシシを追いかければ、巣穴まで逃げ切れない幼獣か、反撃しようとした成獣を捕まえられる。


『イボイノシシの牙は、危なくないの?』

『気を付ければ、大丈夫じゃないか』


 人間の反応速度は0.25秒だが、猫は0.02秒だ。

 哺乳類の中でも反応速度が速いライオンの場合、イボイノシシと1対1で戦えば、牙を向けた突進は避けられる。

 ライオンの知能は保育園児並なので、時々ポカをしてしまうこともあるが。


『始まったな』


 茂みに身を隠しながら、メスライオン達がイボイノシシに接近を始めた。

 音を立てず、忍び足で次第に近付いていく。

 ライオンとイボイノシシでは、ライオンのほうが足は速い。

 なるべく近付いて、巣穴に逃げ込まれる前に追い付ければ、ライオンの勝ちだ。

 ジリジリとにじり寄ったメスライオンは、そこから一気に駆け出した。


 ――速い。


 俺が驚いたのは、イボイノシシの反応速度だ。

 ライオンが駆け始めると、イボイノシシは音による聴覚反応で、ライオンを視界に収める間もなく走り始めた。

 走行速度ではライオンのほうが速いが、ライオンよりも小柄なイボイノシシは、スタートダッシュが速かった。

 即座には捕まえられずに、追いかけっこの状態になる。


 距離が近かったのだろう。

 イボイノシシは直線で逃げることを諦めて、左右ジグザグに走り、追うメスライオンにフェイントを仕掛けた。

 その動きに見事な反射神経で対応したライオンの前脚の爪が、しっかりとイボイノシシの身体に引っ掛かった。


『捕まえた』


 一緒に転がるイボイノシシとメスライオン、立ち上る土煙。

 その瞬間、ほかのメスライオン達も周囲から襲い掛かって、成獣のイボイノシシを捕らえた。

 その間に幼獣のイボイノシシ達は、母親を置いて逃げていく。

 野生動物の本能で、咄嗟に逃げていったのだろう。

 既に色々な物を食べられる時期なので、哺乳が無くても生きていける。


 ライオン的には、一体の獲物を捕まえたので、ほかの獲物は無視である。

 二兎追う者は一兎を得ずで、確実に一頭を捕まえるのが俺達の狩りだ。


『やった!』


 獲物の捕獲を確認したミーナが、隠れていた茂みから駆け出していく。

 俺とリオも弟妹を連れて、トコトコと現地に向かった。

 子豚ならぬ子イノシシも食べたかったが、あまりに獲物が小さいと、俺の割り当てがほとんど残らないかもしれない。

 味以前の問題で、食べる量として、成獣を捕まえるほうが良いかもしれない。


 俺は、精霊魔法を巣穴に飛ばす狩りも可能だ。

 だが群れの狩りの邪魔になるので、現在は自重している。

 群れが充分に獲物を狩り、お腹が一杯になって木の下でゴロゴロと寝転んだ後であれば、遠慮は不要という認識だ。


『ねえ、スウちゃん達って、もうお肉を食べられるのかな』


 併走するリオが、弟妹の小さな身体を見ながら、疑問を口にした。

 俺達が、初めて肉を食べたのは、生後2ヵ月半だった。

 そしてスウ達は、現時点で生後1ヵ月と3週間くらいである。


『あたし達の時は、もっと遅かったけど』

『まあ、大丈夫じゃないか』


 動物園には、初めて肉を食べさせる動画を公開するところもある。

 俺が前世で見た動画では、生後2ヵ月や3ヵ月で与えていた。

 生後2ヵ月の子ライオンは食べ難そうにしていて、3ヵ月の子ライオンは大喜びで貪っており、時期としては2ヵ月半くらいが適切に思えた。

 だが生後2ヵ月でも、肉に齧り付くことは、出来ていた。


『少し早い気もするけど、本人が食べたいなら、別に良いんじゃないか』

『お腹、壊さないかな』

『まだ舌で嘗め取るくらいしか出来ないだろうから、大して食べられないだろう』


 俺達が食べるのは、飼育員が小さく切った肉ではなく、イボイノシシの成獣だ。

 幼い弟妹では、皮膚を食い破れないだろうし、肉も噛み千切れない。

 メスライオンが噛み裂いた肉をペロペロと嘗めるくらいが、関の山だろう。

 切れ端は口にするかもしれないが、そのくらいなら消化できそうな気がする。


『さあ、お肉だぞ』


 イボイノシシの元に駆け寄った俺は、弟妹を嗾けた。

 6頭のメスライオン、アンポンタン、ギーアとミーナに群がられたイボイノシシは、既に息絶えて肉と化していた。

 ライオン達は、引っ張り合いをしながら、肉を裂いて食べている。

 四方から引っ張り合えば、マグロのように身体を開いて、身を出せるわけだ。

 追い付いた弟妹は、1頭を除き、獲物に群がる大人達の身体に登って、肉へと向かっていった。

 残ったのは案の定、一番小さなミカンである。


『まあ、ミカンにはまだ早いよなぁ』

「ミャオッ」


 俺は立ち止まり、ミカンにミルクを与える事にした。

 パッパと右前脚を払い、妹の口元に近付けた。


 ――空間収納。


 ミカンも慣れたらしく、ゴクゴクとミルクを飲み始めた。

 ちなみに俺達が肉を食べに行くことは、状況的に断念している。


『入り込む隙間が、まったく無い件について』

『イボイノシシ、小さいからね』

『確かに。イボイノシシを囲むのなら、詰めても8頭くらいが限界だな』


 イボイノシシの腹部を食べるために囲むのであれば、6頭くらいが限界だ。

 8頭とは、食べ難い頭部までグルリと囲んだ場合である。

 俺達の群れは、獲物を引っ張り合って、身体を引き伸ばしている。

 噛み裂かれた後ろ脚が外れており、それが離れた場所に運ばれて、辛うじて全頭が食らい付ける状況になっていた。


 そんな中に群がっていったスウ達は、食べる真似を始めた。

 イボイノシシの身体に触れ、臭いを嗅ぎ、舌で舐める。

 それは食べるというよりも、肉に対する、ふれあい体験に近い行動だった。


『まだ早かったみたいね』

『そのようだな』


 動物園が行っているライオンの飼育は、適切であったらしい。

 つまり2ヵ月になる前の子ライオンには、肉は早いということだ。

 それでも体験することには、意義があるだろう。

 そんな風に思いながら、俺は隣のリオに、さり気なくスイギュウの肉を渡した。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ミカンはレオンに凄い懐きそうw [一言] ライオンキング観てたら、プンバァが美味しそうに見えた…。
[良い点] イボイノシシ親子は本能的で鳴き声も上げなかったので自動翻訳断末魔を聞かずに済んだか
[良い点] この作品の影響でイボイノシシを見る目がすっかり変わりました。 今ではイノシシを見るような目で見てしまっています。 それにしても美味しそう。
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