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ライオン転生  作者: 赤野用介@転生陰陽師7巻12/15発売
第2巻 炎翼虎と金狼

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53話 ライオンの選別

 俺が弟妹と顔合わせをしてから、半月が経った。

 提供したスイギュウは、既に骨と化している。


 オス2頭が1日5キログラムずつ、メス6頭が1日に4キログラムずつ食べる。

 アンポンタンも3キログラムずつ、俺達4頭が1キログラムずつを食べる。

 すると15頭で、1日47キログラムを消費することになる。


 スイギュウが700キログラム、可食部500キログラムとすれば、10日は保つが、半月は保たないわけだ。

 スイギュウを食べた俺達の群れは、ゴロゴロ寝転がり、やがて動き出した。

 理由は単純明快で、お腹が空いてきたのだ。


「ニャアッ、ミャアッ」


 まるで猫のように鳴きながら、弟妹が一列になって、元気に歩く。

 先頭に先導役のメスライオン、すぐ後ろが数頭の大人で、あとは適当だ。

 その集団に、乳児達もゾロゾロと付いていく。

 乳児達の中で足が速いのは、身体が大きな個体だ。

 一番大きくて活発なのが、スウである。


 ――俺に前脚で、ライオンパンチを連打するくらいだからな。


 スウの次に大きいメスはメロン、オスで一番大きい個体はノブになる予定で、今はどの個体に名前を当て嵌めるかを検討中である。

 ちなみにミカンだけは、もう決まっている。


『ねえ、レオン』

『なんだ』

『伯母さん達、ミカンちゃんを置いていこうとしていない?』

『気付いたか』


 伯母達は、一番身体が小さなミカンの移動速度を、気にせずに歩いていた。

 身体が大きなスウ達は余裕で付いて行けて、あとは普通から頑張って付いて行けるくらいで、ミカンは苦労している。

 俺とリオ、そしてミーナは、その後ろから見守るように歩いている。


『移動に遅れる子ライオンは、大人達から選別を受けることがあるそうだ』

『選別って?』

『メスライオン達は、移動に付いてきた子供にだけミルクを与えて、遅れた子供には立ち上がって飲ませず、あるいは直接的に前脚で払い退けることもある』

『どうして?』

『ミルクは無限じゃない。遅い子に移動速度を合せると、獲物も追えない』


 自力で付いて来られない子供を助ける余裕は、ライオンの生活には無い。

 付いて行けない子供に移動を合せると、獲物を追えなくなる。

 そんな事をしていれば、元気な個体まで餓えてしまう。

 兄弟姉妹で弱い個体、病気や大怪我、先天的な異常がある個体は、淘汰されるのが自然界の掟だ。

 そうして強い個体の遺伝子だけが残って、ライオンは環境に適応していく。


『ミカンちゃん、どうなっちゃうの?』

『ちゃんと食らい付いていけば、ミルクをくれることもある。選別だからな』

『付いて行けて、いないけれど』

『介入するか』


 俺は立ち止まったミカンの口に、右前脚で触れた。


 ――空間収納。


 俺の右前脚の指先から、収納していたミルクが取り出された。

 以前、母ライオンからもらって、念のために溜めておいたものだ。


『ミャオッ』


 ミルクの臭いを嗅ぎ取ったミカンが、ゴクゴクと飲み始めた。


『それは何?』

『以前、飢え死にしないように母ライオンからもらって溜めたミルクだ』

『そんなことをしていたの?』

『俺は慎重派だからな』


 伯母達がミルクを与えなくても、俺が与えれば解決である。

 あくまで選別なので、付いて来られる元気な個体を排除することはない。

 俺の行動は、ライオンが強い遺伝子を残す観点からは、間違っているだろう。

 俺は、独立時の頭数が欲しいという目先の欲で、動いているわけだ。

 もっとも一世代では大して変わらないので、俺は気にせず行動するが。


 俺が立ち止まってミカンにミルクを与えていると、ミーナが訴えた。


『遅れると、シマウマを食べられないよ』

『スイギュウは、まだ沢山ある。リオとミーナには、いつでも食べさせるぞ』

「ガオオッ」


 我が妹は、甘えた声を出して、俺に頭を擦り付けてきた。

 俺が優遇するのは、ミカンだけではない。

 リオとミーナには、強くなってもらいたいので、いくらでも肉を与える所存だ。

 ギーアは食欲旺盛なので、支援は不要だと判断している。


 ――勝手に歩いて行っているし。


 ギーアに関しては、俺を上回らない程度に大きくなり、下克上を起こさない程度に頑張ってほしい。

 そうすれば独立後、群れに居る年上のお姉さんは、すべてギーア君のものだ。


『ねえ、どこに行くのかな』


 俺がミカンにミルクを与えながら、本能寺の変を防ぐ方法に悩んでいたところ、隣に座ったリオが尋ねた。


『さあ、スイギュウではない様子だけど』

『方向が違うよね』

『ああ。スイギュウは、もっと近くに居る。だけど危ないから、避けたのかもな』


 俺達の兄弟姉妹8頭のうち、半数の命を奪ったのがスイギュウだ。

 小さな弟妹は、スイギュウに追われると逃げ切れなくて危険だ。

 この状況で、弟妹を連れてのスイギュウを狩りは、あまり良い選択肢ではない。


『それなら、シマウマを探すのかな』

『シマウマは、雨期に入ってから見ていないぞ』

『どうして居なくなったのかな』

『雨が降ると、餌になる草が、どこにでも生えるからな。わざわざライオンのナワバリを移動する必要なんて、無いだろう』


 俺がシマウマだったら、目の前に草が生えている時に、わざわざサバンナの横断旅行はしない。


『どこかに固まっているのかな』

『そうだろうな。その地域に住んでいるライオンの群れは、大喜びのはずだ』


 きっと群れ全体で、毎晩シマウマパーティである。

 ちなみに最近は、ヌーやトムソンガゼルの姿も見ていない。

 その三種類は、混群といって、一緒に行動して天敵に襲われるリスクを減らすことがある。

 そのため同時に見かけなくなることは、さほど不思議な話ではない。


 数が多い動物なので、三種が同時に現れなくなると、狩りの獲物が激減する。

 逆に、三種が留まる地域では、ライオンが毎晩パーティ三昧だ。


『それなら、インパラを捕まえに行くのかな?』

『インパラか。ナイルワニに襲われて、もう沼は、懲りたと思いたいけどな』


 弟妹が生まれた頃、俺達が訪れていた沼地で狩ったのが、インパラだ。

 沼地に行けば、おそらく会えるだろう。

 ほかにもセーブルアンテロープが生息していたので、沼地の水を飲む動物は、いくらか見つかるはずだ。


 だが水飲み場の沼には、ナイルワニも生息している。

 俺達は、水を飲まないわけにはいかないので、沼の水に口を付ける。

 すると大きなナイルワニが飛び出してきて、ガブリと噛んでくるかもしれない。さしあたり俺達の群れからは、1頭のメスライオンが犠牲になった。

 俺達が使える火の精霊魔法は、水中までは効かないような気がする。

 あまりに危険なので、ぜひ止めて欲しい。


『だったら、イボイノシシとか?』

『それは有り得るな。それほど大きくないけど、危険は少ないし』


 イボイノシシは、俺達の群れのナワバリに生息している動物だ。

 2歳年上のエムイーが独立した切っ掛けの動物で、巣穴の場所は分かっている。

 草食を中心とする雑食性だが、家族単位で暮らし、巨大な群れは作らない。

 乾季には、水分の多い地下茎や球根も食べて、ヌーのような大移動は不要だ。

 おそらく以前見た近辺で、程々の数が暮らしているだろう。


『前は、お父さん達に大半を食べられちゃったね』

『そういえば、わりと容赦なく奪われたな。よほど空腹だったんだろう』


 エムイーが追放された後、大人のメスライオン達は、巣穴からイボイノシシを引き摺り出した。

 すると父達が奪って、食べてしまったのである。

 諦めたメスライオン達は再び穴を掘って、追加で1頭を捕まえた。

 だが皆で食べた結果、俺達が口にできた肉は、少量だった。


『美味しかったけど、少なかったよなぁ』

『また食べたいね』

『そうだな。イボイノシシ狩りだと良いな』


 イボイノシシは、様々な肉食動物にも狙われるほど美味しい。

 だが巣穴に逃げ込むので、ライオンが狩るのは難しい。

 肩高が70センチメートル前後で、メスライオンの肩高110センチメートル前後よりも小さく、巣穴に逃げ込まれると追えないのだ。


『今の俺達なら、追えるよな。魔法で倒して、保管するか?』

『それは良いね』


 前世の豚肉でも思い出したのか、リオは珍しく、弾んだ声で肯定した。

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― 新着の感想 ―
[一言] 自然界の弱肉強食には逆らっているが、レオンからしたら自分の将来の群れの方が大事だよなぁ。
[良い点] 千尋の谷に突き落とすより現実的なハブり方 しかし自然下では脱落する個体も養育できる環境を用意すれば群を強化できるかもしれないのはまさに人間のやり方ですね
[一言] みかんちゃん達にしてる行動を見てライオン版光源氏とか思ってしまいました。
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