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ライオン転生  作者: 赤野用介@転生陰陽師7巻12/15発売
第2巻 炎翼虎と金狼

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52話 弟妹の命名

 ミーナとポンが走り去っていった後、俺とリオは8頭のモフモフを預かった。

 メスライオンは、子供を茂みに隠して食事に行くことは、さほど珍しくない。


 食事をしなければ母乳が出ないし、それどころか自分まで餓死する。

 群れから離れて、1ヵ月以上も単独ないし少数で子育てをするメスライオンは、子供を隠して狩りに行くのが普通なのだ。

 現状の置き去りは、その延長線上にある。


『なんだか、急に大人しくなったな』


 弟妹は、食事に行く前には、俺をシマウマに見立てて遊ぶほど、元気だった。

 だが今は、茂みの中で、小さくなっている。

 俺達が姿を見せると甘える姿も見せたが、先ほどとは打って変わって静かだ。

 まるで借りてきた猫である。


『ポンが、居なくなったからじゃない』

『あー、なるほど』


 俺達よりも1歳ほど年長のポンは、生後1年半を過ぎている。

 1年半は、親ライオンが子育てを終えて、発情するようになるほどの大きさだ。

 弟妹の目線では、既にポンは大人なのかもしれない。


『さっきは大人のライオンであるポンが居たから、暢気に遊んでいたわけか』

『そうじゃないかな。ポン、結構大きいしね』

『確かにポンは、リオの倍くらいの体重がありそうだしな』


 リオとポンは、小学生と大人くらいの差がある。

 それではリオを子供、ポンを大人と見るのも、無理はない。

 実際に戦えば、ポンはメスライオン1頭の半分くらいの強さがある。

 火の中級精霊と契約しているリオは、魔法有りならポンよりも遥かに強いが。


『よし、お前達、こっちに来い』


 大人しい弟妹を集めた俺は、まとめて茂みに押し込んだ。

 そして出口を塞ぐ壁の如く、茂みの前にゴロリと転がった。

 俺が転がったのは、だらけているのではなく、生肉を食べた後だからだ。

 食べた生肉を消化するためには、寝転がらなければならない。

 すると寝転がった俺に対して、隣の乳児から、鋭いパンチが飛んできた。


「ニャアッ、ニャアッ」


 俺の身体を前脚で叩いたのは、俺が唯一名前を付けたスウであった。

 どこで乳児達を見分けるかといえば、ライオンの赤子が持つ、黒い斑点だ。

 小さなライオンは、頭や背中、足などに、黒い斑点がある。

 この斑点は、外敵から身を守るためにあるのではないかといわれている。


 ――遠くから見れば、黒い斑点を持つヒョウと見間違うかもしれないな。


 ヒョウは足が速いので、追っても無駄だ。ハイエナがヒョウを見ても、襲いに行こうと思わないので、身を守る効果は有る。

 そんな斑点は、身体が大きくなるにつれて、薄れて消えていく。

 俺達も、生後4ヵ月まではよく見えたが、生後半年で殆ど見えなくなった。


 もっともライオンは、大きくなっても見分けが付く。

 俺が見分ける方法は、顔の輪郭や、額の模様の差だ。

 人間が人間の顔を見分けられるように、ライオンもライオンを見分けられる。

 スウに関しては、黒の斑点と、これから出てくる個体差で、見分けが付く。

 今後、別の個体をスウと呼び間違える心配は無い。


『よしよし、良い子だ』

「ニャアッ」


 パンチをするのは、元気な証拠である。

 俺が自分の前脚を出すと、スウは俺の前脚をベシベシと連打した。


 ――将来は、優秀なハンターになるかもしれないな。


 兄馬鹿を発動させた俺達の傍に、リオも静かに寝転がった。

 そして茂みに、大きな子供2頭と、小さな子供8頭で作る猫団子が完成した。

 8頭の子ライオン達は、半数ほどが目を瞑って、ウトウトしている。


「ガオオッ」


 眠気に誘われた俺は、なるべく声を抑えながら、大きなあくびをした。

 そして猫らしく、身体を大きく伸ばす。


『ヤバい、寝そうだ』

『面倒を見るんじゃなかったの』


 リオも眠そうにしながら、注意喚起した。


『そうだったな。こいつら、まだ小さいからなぁ』

『そうだよ。リカオンが相手でも、簡単に殺されちゃうんだからね』

『あいつらは、群れてくるからなぁ』


 リカオンは体重20キログラム以上で、10頭くらいの群れで行動する。

 猫サイズの子ライオン8頭が、リカオンの群れに遭遇した場合、全頭がおやつにされてしまう。

 ライオンが、1歳まで生き残れる確率は4割、2歳まで生き残れる確率は2割。

 餓死したり、群れを乗っ取りに来たオスライオンに殺されたりするからだが、ほかの動物に殺されることだって普通にある。


『リカオンだけじゃないよ。猛禽類が急降下してきたら、どうするの。掴んで飛んで行かれたら、精霊魔法で撃ち落としても、落ちて死んじゃうよ』

『そういうリスクは、想定していなかったな』


 サバンナの猛禽類といえば、エジプトの国鳥であるソウゲンワシが思い浮かぶ。

 大きな個体は、体重が猫よりも重い。

 下手をすると弟妹は、捕まって運ばれるかもしれない。


『ブレンダ、俺とリオ、それに弟妹8頭を襲いそうな敵が来たら、倒してくれ』


 俺は念のために、契約した上級精霊のブレンダに、護衛を依頼した。

 ブレンダは判断力があるし、3倍の報酬に見合う働きもしてくれそうだが、念のためである。


『低木の枝に、ハヤブサとツバメを留まらせておくわ』

『よろしく頼む』


 俺の身体に溜まっていた魔力が少し抜けて、赤い光が空へと飛んでいった。

 不思議そうに見上げるスウの横に転がりながら、俺は本格的な眠気に襲われた。


『外敵対策したから、これで良いよな』

『ダメだけど、ダメな中ではマシなほう』

『どうしてダメなんだ?』

『ちゃんと見ていないと、迷子になったり、怪我をしたりするかも』

『子育てって、大変だな』


 同時に4頭も育てるメスライオンは、凄い生き物なのかもしれない。

 何しろ育てているのはサバンナで、家も畑も無いのだ。

 溜息を吐きつつ、俺は眠らないように頭を働かせた。


『それなら眠らないように、こいつらの名前でも考えよう』

『スウちゃんのほかは、どうするの』

『覚え易くて、呼ぶのも楽だと良い』


 弟妹は、スウを除いて、残り7頭もいる。

 7頭の名前を同時に覚えるのは、俺の眠い頭では難しい。

 何かに関連付けないと、忘れてしまいかねない。


『オスは、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康から取って、ノブ、ヒデ、ヤスとか』


 俺の案を聞いたリオは、思いっきり引いた表情を浮かべた。

 確かに前世の人間だった頃、俺の名前がノブだったとして、親から「織田信長から名付けた」と言われれば、俺も同じ反応をしたかもしれない。


 だが飼っている家猫に子猫が生まれて、その命名なら、どうだろうか。

 ペットの命名は、人間とは大きく異なる。

 ムギ、モカ、マロン、モモなど食べ物系が、命名ランキングの上位を占める。

 端的に、白いからシロ、黒いからクロ、小さいからチビとされることもある。

 人名で名付ける分だけ、非常食より良い気がする。


『暫定で、そうしよう。ほかの案があれば、それでも良いけどな』

『だからあたしは、この子たちのお母さんじゃないって』


 リオは、改めて弟妹の名付け親になることを拒んだ。

 両親が居るのに、姉が名付けるのはおかしいという考えは、分からなくもない。

 だが親が名付けないから仕方がないというのが、俺の考えだ。


『だったら、俺が勝手に付けた、あだ名だとでも思ってくれ』

『それなら、良いけど』

『よし、弟達の名前はノブ、ヒデ、ヤスだ。成長が早いほうから、割り振ろう』


 まるでヤクザの子分みたいな名前だが、他所のナワバリのオスと抗争するので、大きく間違ってはいないかと思い直した。

 ノブは、俺のナワバリ拡大や、新たなナワバリ獲得で、役立ってくれそうだ。

 ヒデは、俺に付いてくる判断が出来れば、要領が良い気がしなくもない。

 ヤスは、俺に付いてくれば長生きして、最終的に得をするような予感がする。

 乱世のサバンナを生き抜くオスライオンとして、これから大いに期待したい。


『次は、スウちゃんを除く4頭の妹達だが』

『可愛い名前が良い』

『……大きい順に、メロン、モモ、リンゴ、ミカンでどうだろう』


 可愛い名前が思い付かなかった俺は、前世のランキング上位に倣った。

 それだけではなく、挙げた果物は自分が覚え易いように、別の意味も持たせた。

 俺が挙げたのは、前世でバストサイズのネタにされていた果物だ。

 それぞれは、F、D、C、Aカップの片胸と、同じ重さだったりする。

 メロンはFカップ、モモはDカップ、リンゴはCカップ、ミカンはAカップの片胸と同じ重さだそうだ。


 名前を忘れても、バストサイズの果物で思い出せる。

 梨がE、柿がBに入るが、名前として微妙だったので省いた。


『さっきのあだ名より、良いかもね』


 リオは微笑んで、4つの名前を純粋に肯定した。

 それを見た俺は、命名理由を墓まで持っていくと、固く心に誓ったのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] ノブ、ヒデ、ヤス。確かに子分感強い名前。弟たちには由来負けしないように育って欲しいですね。 妹達の命名理由がリオにバレたら精霊で攻撃されるかもw
[良い点] 家族交流の姿がいい子供の無邪気な姿と育児で悩む姿が素敵だなァと思いつつついでにライオンの知らない生態まで知れて面白くて毎回タメになる話をありがとうございます 楽しく読んで雑学まで増える作品…
[良い点] ライオンになるとライオンの乳の違いが分かるようになるのか
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