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ライオン転生  作者: 赤野用介@転生陰陽師7巻12/15発売
第2巻 炎翼虎と金狼

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49話 スウちゃん

 低木が並ぶ茂みの中、俺は沢山のモフモフに、絡まれていた。


「ニャアッ、ニャアッ」


 俺を頻りに攻撃するのは、8頭もの子ライオンである。

 弟妹が誕生してから、推定1ヵ月と1週間。

 精霊契約の借りを返しに行った俺は、弟妹の群れへの合流に間に合わず、1頭だけ遅れて顔合わせをすることになった。

 すると弟妹は、新参者に挨拶してやろうと思ったらしい。

 自分達が群れに合流した時のように、頭を擦り付けて新参者を歓迎し、ペシペシと身体に触れて構ってきたのである。


 ――俺は、お前らの兄なんだが。


 まるで弟妹を受け入れる兄姉の態度である。

 これはおそらく、自分達が群れに合流した時にされたことの模倣だ。

 子供は、大人や兄姉の行動を模倣する。群れに新参が来た時は、こうするのだと教わったことを、俺で試しているのだろう。

 心優しい兄の俺は、腹を見せて寝転がり、モフモフどもの好きにさせてやった。

 俺達を端から見ると、ライオンに群がられるシマウマの如しだ。

 弟妹は狩りごっこに興じて、俺にのし掛かり、上から押さえ付けてくる。


『レオン、懐かれて良かったわね』

『素直に肯定し難いのは、どうしてだろうな』


 リオにからかわれた俺は、渋々と答えた。

 それと同時に尻尾を振って、2頭のモフモフをあやしてやる。

 するとモフモフ共は尻尾を追いかけて、コテンと地面に転がった。


『元気があって、何よりだ』

『まだ走れないけどね』


 生後1ヵ月のライオンは、体重が4キログラム前後で、家猫に匹敵する重さだ。

 だが猫と比べると、頭が大きくて、腹部も膨れている。

 それは弟妹が大きくなるためだが、現時点では身体に対して頭が大きいために、重心が悪くて、走るフォームが安定していなかった。

 ろくに走れない弟妹は、主に茂みに隠れている。

 そして母ライオン達が狩りを終えて帰ってきた時に、母乳を与えられて、過ごしていた。


 ――子猫8匹に、群がられるようなものか。


 弟妹は、体格的には成猫だが、行動は無邪気な子猫だ。

 物事に対して好奇心旺盛で、動くものには興味津々で飛び付く。

 さしずめ現在の俺は、生ける猫じゃらしである。

 ちなみに子ライオンは、本当に猫のように鳴く。

 身体が猫並であれば、声帯から発せられる音も、猫に近くなるのかもしれない。

 そんな猫共に組み伏せられた俺は、小さな前脚で、ペシペシと叩かれていた。


『弟妹共よ、良いことを教えてやろう』

『良いことって何?』


 弟妹の軍勢に押し潰されながら、俺は地面から声を上げた。

 すると、まだ聞き返せない弟妹の代わりに、リオが尋ねてくる。


『モフって良いのは、自分がモフられる覚悟のある奴だけだ、ということだ』


 俺は前脚を使って、目の前に居た弟妹の1頭を捕まえて引き寄せた。


「ニャアッ」


 弟ないし妹は鳴いたが、こちらは平均よりも大きくて、生後9ヵ月レベルの体格まで育ったライオンである。

 生後9ヵ月のライオンは、体重が58キログラム前後。

 体重で考えれば、高校1年生の男子くらいになっている。

 8頭に絡まれても平気な所以であり、捕まえた猫1匹を引き寄せる程度など、造作もないのだ。

 素早く1頭を捕まえた俺は、その頭を口元に引き寄せて、叫んだ。


『必殺、猫吸い!』

「ニァアッ」


 俺は引き寄せたモフモフに、優しく顔をうずめて、大きく息を吸った。

 すると息苦しさと同時に、モフモフの柔らかさが伝わってきた。

 まるで、柔らかくて暖かいタオルである。

 俺に捕まった1頭は、身体を捩って逃げようとするが、兄に勝てるはずもない。

 俺が頭を左右に振ると、ニャオニャオと鳴いた。

 だが、あまりやり過ぎてもいけない。

 兄の力を示して満足した俺は、捕まえていた1頭を解放してやった。


「ニャアアッ」


 ピョンと跳んで逃げた弟ないし妹は、俺の顔をガブッと噛もうとしてきた。

 それを避けた俺は、代わりに顔を擦り付ける。

 すると簡単に誤魔化された相手は、本能的に顔を擦り付け返してきた。

 そして疲れたのか、俺に顔を擦り付けながら、目の前にコテンと寝転がった。


『チョロすぎる件について』

『赤ちゃんだからね』


 俺達の様子を眺めていたリオが、呆れた声で評した。


『俺に吸われたお前を、スウと名付けよう』

『止めてあげなさい』


 リオは良識人っぽく制止したが、アンポンタンの時は反対していない。

 当時はスイギュウに挑む無謀な兄姉に、思うところがあったのかもしれない。

 そんなリオに対して、俺は命名の正当性を訴える。


『ギーアやミーナの話をする時、個体名が無いと不便だろう』

『そうね。それで?』

『名前は必要だけど、すでに8頭居て、これからも増えるかもしれない。凝った名前を考えると、いつまでも悩んで、キリが無い』

『それは、そうだけど、ほかにあるでしょう』

『ちなみにこの子は、オスとメス、どっちだ?』

『メスだよ』

『だったらスウちゃんで、可愛くないか』


 俺の主張に対して、リオは呆れた溜息を吐いてみせた。

 どうやら言葉の響き以前に、命名理由が気に食わないままであるらしい。

 仮にオスの場合に英語でワン、ツー、スリーと続けていき、メスの場合にアインス、ツヴァイ、ドライと続けていけば、名前は尽きないだろう。

 だが数字で名付けるのは、あまりに無情ではなかろうか。


 和名で太郎、次郎、三郎と名付ければ馴染みがあるが、本質的には変わらない。

 それにメスの場合はどうすれば良いのか。

 松竹梅で松子、竹子、梅子。雪月花で雪子、月子、花子で、ネタが尽きる。


『ちなみにリオには、名前の案は有るのか?』

『無いよ。だって、あたしはお母さんじゃないでしょう』

『それはそうだけど、母ライオンには、命名の文化なんて無いぞ』


 母ライオン達は、俺達に名前など付けない。

 そのため俺達が名付けない限り、子ライオン達の個体名は無いままだ。


『だから、俺が名付ける。お前の名前は、スウだぞ。スウ、スウ』

「ニャア」

『あー、名付けちゃった』


 俺が妹に言い聞かせると、妹は満足そうに鳴き返した。

 おそらく妹は、よく分かっていない。

 だが妹の反応を見ていたリオは、不承不承に、妹への命名を受け入れた。

 俺は寝転がったスウと戯れながら、リオに尋ねた。


『それで大人達、アン、タン、ギーアは、コイツらを置いて狩りに行ったと』

『うん。付いていけないしね』


 茂みにいるのは、乳児8頭のほかに、俺、リオ、ミーナ、子守役のポンだ。

 俺達よりも1歳年上のポンは、既にハイエナ2頭分くらいの力に成長している。

 リカオン十数頭とも同程度の力で、子守としては悪くない戦力だ。

 ポンのような子守を残して狩りに行くライオン達の例は、他所にもある。

 もっともポンは、昼下がりの木陰で、気持ちよさそうに寝ている最中だが。


 ――まあ、リオが居れば大丈夫だけどな。


 リオは、中級精霊と契約している。

 上級貴族達が顕現させる中級精霊は、オスライオン1頭に匹敵する力を振う。

 加えてリオは、契約金ならぬ契約魔力が3倍で、精霊側のやる気が高い。

 俺が契約しているブレンダも、通常はイヌワシになるだけのところを、ハヤブサ8羽に分かれて活動してくれている。

 リオの精霊は、オスライオン1頭に勝る護衛になるだろう。

 そして俺も居るので、ポンは夢の中だ。


『ギーアは、狩りの役に立たないだろう。食い意地が張って、行ったのか?』

『そうだね。合流してから、ちょっと狩れていなくて、お腹が空いたかも』

『リオは、スウ達を守っていたんだな。今、肉を出す』


 リオは念のために、弟妹に付いていたらしい。

 俺が立ち上がろうとすると、リオが前脚で俺を押さえ付けた。


『血の臭いで獣が来るから、窪地を掘って、そこで出して』

『了解』


 かくして俺は、リオが守っていた群れに、再合流したのであった。

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[良い点] モフモフ天国! [一言] >『血の臭いで獣が来るから、窪地を掘って、そこで出して』 >『了解』 間違ってはいないんだが、既に尻に敷かれそうなレオン…。
[良い点] 周りの動物を獣扱い 転生者であること隠さなくなってきたのかな
[良い点] スウちゃん達が実に可愛いですね。 モフモフ天国バンザイですね。
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