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ライオン転生  作者: 赤野用介@転生陰陽師7巻12/15発売
第2巻 炎翼虎と金狼

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48話 港町ビンゲン

 マルデブルク王国は、国土の大半を海と大河に囲まれた半島国家だ。

 交易に占める海上輸送の割合は高く、海に面した多くの町には、キャラベル船が停泊できる港が作られている。

 辺境伯領の西にある港町ビンゲンも、王国に多くある港町の1つだ。

 そんな港町の沖合に異常が観測されたのは、まだ薄暗い早朝だった。


「やはり精霊の複合魔法は、強力ですね」


 そう告げた辺境伯夫人の周囲は、二隻の帆船ごと、濃い霧に包まれていた。

 海上の霧は、暖かく湿った空気が、冷たい海面に触れて生じる。そして火と風と水精霊の力があれば、暖かく湿った空気を、冷たい海面に触れさせられる。

 異常発生した霧に姿を隠した船は、ゆっくりと港町ビンゲンに迫っていった。

 霧の高さは、船を覆い隠すほどに高い。

 それは騎馬兵が、土煙を上げながら迫る様を想起させた。


「お父さん。ビンゲンの獣人達は、味方の船だと思わないの?」

「マルデブルク王国と、獣人が支配した元クラクフ王国の船は、少し形が違う」

「そうなんだ」


 グンターの説明を聞いたヨハナは、乗っている船を見渡しながら感心した。

 だから俺達は、獣人の船が入港予定だった港に、船影を隠して迫っている。

 今回の行動は、昨日の海戦の仕上げのようなものだ。

 敵船団が入港予定の港には、物資を受け取る獣人の2個大隊が待っている。

 そこに船で近付いて、安全な海上から、精霊で一方的に攻撃するのが目的だ。


 ――俺とリオの精霊契約で、2回分だからな。


 昨日の海上戦は、俺の精霊契約を手伝ってもらった分の返済だ。

 そして今日の戦いは、リオの精霊契約を手伝ってもらった返済になる

 海戦は楽で、借りに釣り合っていたのか微妙な気がしなくもない。

 だから今後の手伝いで、多少の調整するのも吝かではないと思っている。

 さしあたっては、リオを手伝ってもらった分の返済である。


「この辺りで良いでしょう。陸では追ってくる獣人も、海上は走れませんからね」


 船団を停船させた辺境伯夫人は、口角を釣り上げて笑みを浮かべた。

 嫁いだ辺境伯領が獣人帝国に襲われて、よほど鬱憤が溜まっていたらしい。


「お祖母様、上級精霊は、また力を貸してくれますの?」

「昨日、説明したでしょう。このブローチには、上級精霊の力が籠められています。わたくしが辺境伯家に入った時、先代の辺境伯夫人から継承したのです」


 辺境伯夫人は、クラーラに黄色い宝石が嵌め込まれたブローチを見せた。


「辺境伯家が危ない時に使いなさいと、言われたのです。まだ少しだけ力が残っている気がしますから、試してみます。ダメだったら、仕方がありません」


 謎の上級精霊の力は、そのように説明された。

 次回以降も協力する場合、まだ少し力が残っていたとか、意外に力が残っていたとか、適当な理由が付けられる。

 ちなみに先代の辺境伯夫人は、故人である。


「始めますよ。獣人を蹴散らして、物資を焼きなさい。遠慮は不要です」


 最後の一言は、港町ビンゲンが、辺境伯領の一部だからだろう。

 だが今は、獣人の2個大隊の拠点にされている。

 放置すれば辺境伯領を落とされ、マルデブルク王国に侵攻される。

 獣人に支配された人間が残って従っているとしても、焼くのが正しい。


 こうならないように努めるのが為政者だろうと言われても、相手は人間ではなく獣人だ。

 山から熊が降りて来た時、熊と外交していないと責められても困る。

 熊に捕まり、山小屋で餌を与えている人間が居た場合、熊を追い出すために山小屋を焼いても仕方が無いというのが、辺境伯夫人の言い分だ。

 熊と動物保護団体は怒るかもしれないが、俺的には、辺境伯夫人を支持したい。


『召喚・中級火精霊』

『召喚・中級風精霊』


 契約者の求めに応じて、3体の火精霊と、5体の風精霊が姿を現した。

 風精霊を出したのは、ヨハナの祖母、祖母の甥、甥の息子、侯爵家の子供2人。

 ヨハナが活躍して、立会人の仕事を終えた準男爵と息子が、参戦したのだ。


「水精霊は、船の護衛と退却のために、残しておきなさい。それでは行きなさい」


 辺境伯夫人が告げると、各々が契約している精霊に対して指示を出した。

 すると精霊達はハヤブサに姿を変じて、港に向かって飛翔を始める。

 そんな8羽のすぐ傍に、9羽目のイヌワシが混ざった。


「現れましたわ!」

「まだ力は残っていたようですね」


 いけしゃあしゃあと宣う辺境伯夫人に、流石は貴族と、俺は苦笑した。

 バサバサと羽ばたいたイヌワシは、ハヤブサ達と並んで飛んでいく。

 精霊達が向かった港町では、灯台に火が灯った。

 カンカンと警鐘が鳴り響き、占拠された港の家々から、獣人が飛び出してくる。


 ――早い。もう見つかった。


 最初に飛び出した獣人達は、夜番でもしていた当直の戦士達だろうか。

 飛び出した段階で武装しており、叫びながら、続々と集結していく。

 獣人達の対応力を観察した辺境伯夫人が、冷静に評した。


「あれは、居ますね」

「お祖母様、一体何が居ますの」

「2体の大隊長です。紅眼のダグラスと、金狼の娘イリーナ」

「金狼というのは、王国を攻めている獣人帝国の第四軍団長ですわよね」

「そのとおりです。ここで殺したいですね」


 最後の一言は、ボソリと呟かれた。

 その間も飛翔を続けた精霊達が、集結した獣人達の中心に突っ込んでいった。

 そしてバアンッと、強い衝撃音が響いた。


「戦闘、開始しました」


 赤い炎が、激しく吹き上がった。

 大慌ての獣人達が、武器を振るってイヌワシとハヤブサを撃墜しようとする。

 それらの攻撃を縫うように飛び回りながら、精霊達は獣人達と争った。


「同士討ちになるでしょうから、矢は射れませんね」


 獣人達は、間近に迫った精霊達に向かって剣を振う。

 だが実体を持たず、魔素で顕現する精霊に対して、どれだけ効果があるのか。

 その場で火を打ち払っても、契約者が魔力を使って再召喚すれば、復活する。

 もっとも人類は、最低限の魔力で精霊と契約している。

 そのためハヤブサを一度打ち払えば、しばらく出てこないかもしれないが。


 獣人側は、抜本的な解決策を求めたのだろう。

 港にある小舟を使って、沖に人員を出し始めた。

 精霊を召喚している人間を殺そうというのは、真っ当な判断だ。


「カール、ブルーナ、水精霊で阻止なさい」

「「はい、お祖母様」」


 水精霊を待機させていた孫2人が、小舟を水流で押して、港に押し返した。

 乗り込んだ獣人達は、櫂を使って、必死に漕ぐ。

 水流と、櫂で船を漕ぐ力が釣り合ったところで、水精霊が小舟の向きを変えた。

 獣人達が必死に漕いでも、小舟の方向が真逆なら、反対方向に進んでしまう。

 獣人達が一生懸命に小舟の進路を戻そうとすると、水精霊が反転を手伝って、勢い余った小舟がグルリと回転した。


 ――あれって、遊ばれていないか。


 精霊達は、最低限の労働をしている。

 だが自分達が遊ぶ時は、力を入れるのかもしれない。

 遊ばれた獣人達は櫂で水を叩いたが、それを水精霊に水で掴まれて、引っ張って取り上げられた。

 櫂を失った小舟は、海を流されていく。

 獣人達は、小舟の上で呆然と立ち尽くしていた。


 程々に獣人達を焼き、適度に切り裂いたハヤブサ達は、撤収を始める。

 ブレンダだけは、暴れ回るアフリカゾウの如く、獣人達を蹴散らしていた。


「そろそろ魔力切れですね。引き上げますよ」

「了解しました。船団、撤退します」


 自身の中級精霊が反転したのを見た辺境伯夫人は、撤退の指示を出した。

 ブレンダは残っているが、時間の問題だと判断したのかもしれない。

 それに応じた乗組員が、帆を動かして進路を変えていく。


「お祖母様、獣人達は残っていますけれど」

「味方の船団を撃沈されて、海上から精霊で攻撃されたのです。獣人の大隊は、港町ビンゲンから撤退するしかありません。封鎖を解く目的は、達成しました」

「どうして、そうなりますの」

「今後は、海から一方的に削られますよ。別に居たければ、2個大隊が削られて消滅するまで居座ってくれても、一向に構いませんが」

「そういうことですのね」


 辺境伯夫人とクラーラは笑い合った。


「大戦果でしたわね」

「ええ、敵の高速輸送船団を潰せたし、ヨハナは敵の中級精霊を1体落として、後方の獣人大隊に打撃を与えられたわ」


 そう評した辺境伯夫人は、一瞬だけ残念そうな表情を浮かべた。


 ――ヨハナとクラーラの差かな。


 ヨハナは充分な活躍をしたが、積極的に前に出たりはしなかった。

 辺境伯家を継ぐのなら、領地運営での自己主張や、他家との折衝も必要だ。

 その点では、クラーラのほうが素質を見せている。

 もっとも俺から見れば、侯爵家令嬢クラーラと、下級貴族の娘ヨハナとでは、身分差が有り過ぎて、ヨハナが控えめにならざるを得なかったように思える。

 優しいヨハナは、父親の立場も慮っているのだ。

 ヨハナが侯爵家令嬢だったら、堂々としていたかもしれない。


 ――とりあえず帰るか。


 凱旋するグンター達は、宴から抜け出して、俺を家に帰してくれるだろうか。

 このままだと弟妹が群れに合流する時、俺だけ居ない事態になりかねない。

 そんな事を悩みながら、俺は元気に暴れるブレンダに、撤収を伝えた。

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1巻情報 2巻情報 3巻情報 4巻情報 5巻情報 6巻情報

前作も、よろしくお願いします!
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― 新着の感想 ―
[良い点] 作戦成功 しかし、戦況が良いのを継続するにはライオンの力が必要なのを人はどうすべきか
[一言] >海戦は楽で、借りに釣り合っていたのか微妙な気がしなくもない。 まぁ、グンター側も連れていくのは楽だからお互い様っぽいですけれど。 精霊達は遊びは確りか。となると、協力的なブレンダ以外の精…
[良い点] すべての作品は並行世界説です? もしくは、スターシステム導入による負担軽減でしょうか。ワクワクしてきました!
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