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ライオン転生  作者: 赤野用介@転生陰陽師7巻12/15発売
第2巻 炎翼虎と金狼

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42/62

41話 契約交渉

 翌日の早朝。

 薄暗い中、テントから這い出した俺達は、それから数分ほど歩いた。

 目的地は、魔法陣が刻まれた祭壇がある場所だ。


「魔法陣が刻まれた祭壇を設けたのは、神界から来た者だ。だが時代は、古くてよく分からない。それでも原形を保って、大昔から在り続けているそうだ」

『ふむふむ』


 この山に祭壇を設けたのは、先史時代の転生者であるらしい。

 文字が成立し、文献が残る時代は、史料が有るので『有史時代』と呼ばれる。

 それ以前は、史料が作られたより先の時代なので、『先史時代』と呼ばれる。

 もしかすると祭壇が設けられたのは、先史時代かもしれない。


 ――日本の小説投稿サイトを読んでいた人間なら、日本語は使えただろうが。


 転生者は日本語を使えるので、転生者が居れば先史時代ではない気もする。

 だが本人が死んで、日本語が途絶えれば、記録を繋げられなくなる。


 地球では最終氷期が始まった7万年前、人類が2000人まで減少したそうだ。

 そのような時代は、生き残ることに必死で、日本語教育どころではない。

 文字を覚えるよりも、矢を作って動物を狩るべきだ。

 俺が「生まれた時代を紀元元年とする」と書いても、氷河期に日本語教育が途切れれば、記録も途切れて、何年前が紀元元年なのか分からなくなる。


 地球であれば、まともな文明を築けるのは、氷河期が終わった1万年前以降だ。

 同じ気候が複製されているならば、こちらの有史も、1万年前より新しくなる。

 祭壇の歴史を伝える国や村が滅びて、伝承が途切れただけかもしれないが。


『かなり古いんだな』

「おう。だが古代魔法で作った石の祭壇だから、しっかりしている」

『そうか』

「レオンも、作れるんじゃないか」

『作れるかもしれないが、ここまで来るのが大変だ』


 太古でも、登山にはヒッポグリフを利用できたのだろうか。

 騎乗用の鞍や、あぶみが無かった時代に騎乗するのは、危ないようにも思える。

 すると当時は、ヒッポグリフではなく、登山で来たのかもしれない。

 おそらく子孫のためとはいえ、大変な苦労である。

 やがて前方に、目的の祭壇が見えてきた。


 ――地球と同様の形だな。


 祭壇は、多数の立石を丸く並べたサークル状の祭祀遺跡であった。


「円状の祭壇は、渦巻き状になっていて、属性の魔素が流れ込んでいくそうだ。中央の祭壇には、契約を補助する力が蓄えられていく」

『すると契約する時には、蓄えていた魔素を消費するのか』

「消費するが、充分に蓄えられているので問題ない。人が使う魔素は、大した量ではない。一応お手本代わりとして、先にヨハナが契約させてもらう」

『構わないぞ。俺達は、ヨハナの契約のついでで来た』


 辺境伯の孫娘であるヨハナは、中級精霊との契約が必要な立場だ。

 それに対して俺達は、契約が出来なくても、立場は不利にならない。


「ヨハナ、お前なら出来る。行ってこい」

「うん」


 ヨハナは流石に緊張しているらしく、硬い返事で祭壇に進んでいった。

 精霊との契約は、生前に力を借りる代わりに、死後に契約分の魔力を支払う。

 悪魔との契約のようにも思えるが、死後に魔力があっても、使い道など無い。

 俺達のように転生できても、記憶を持ち越せなければ、それは自分ではない。

 遠慮無く力を借りて、幸せに生きるが吉だ。


 中心に祭壇がある立石のストーンサークル。

 その前に立ったヨハナは、祈るように手を握り合せながら唱えた。


『召喚、火精霊』


 ヨハナの身体が赤く輝き、それと共鳴するように祭壇も輝いた。

 すると祭壇の上空に、複数の赤い光が漂い始める。

 ロウソクの灯火くらいの大きさで、薄暗い中をキラキラと輝いていた。


「まだ小さい。もっと魔力が必要だ」


 グンターの言葉に応じて、ヨハナの身体から発せられる光が強まる。

 すると上空で、ろうそく並の輝きの中に、松明くらいの輝きが混ざった。


「中級精霊が来た。契約しろ!」

『契約、火精霊』


 グンターの指示を受けたヨハナが契約と唱えると、上空を漂う輝きの中から一番大きな輝きが、祭壇までゆっくりと降りて来た。

 祭壇の上に降り立った赤い光は、赤髪で4枚の羽を持つ精霊へと、姿を変える。

 世界に顕現した精霊は、ヨハナの元に飛んでいき、溶けるように消えていった。


「よし、よくやった!」


 憔悴した表情を浮かべるヨハナの元に、グンターが駆け寄っていった。

 取り残された俺に、リオが尋ねる。


『レオン、分かった?』

『契約希望者が、契約に差し出せる魔力を示す。すると契約に応じても良い精霊が集まって、その中で一番強い精霊が、契約してくれる。そんな気がした』

『そうなんだ?』

『グンターが、中級精霊っぽい光を見た瞬間に応じたから、そうなんじゃないか』


 推察しているのは、グンター達も精霊のことに詳しく無さそうだからだ。

 そう思ったのは、前に中級精霊達の会話を聞いたからだ。


『契約した魔力がギリギリで、見合わないよ。2倍なら、頑張っても良いけど』

『それじゃあ、適当に追い払えば良いかな』


 中級精霊達は、辺境伯夫妻の前で、そのように話していた。

 そして辺境伯夫妻は、精霊達の会話をまったく理解できていなかった。

 グンター達は、精霊達とは意思疎通が出来ない。契約の魔力を最小に絞って、働きも必要最低限にしてしまっている。

 グンターの国では、精霊との契約に関する伝承が、不備なのだろう。

 そんなグンター達から聞いても、得られる情報は万全とは思えない。


『次は、俺とリオ、どっちにする?』

『レオン、試してみて』

『分かった。やってみよう』


 俺はグンターがヨハナを連れて下がるまで、少し待った。

 その後、祭壇があるストーンサークルに進み出る。

 そして身体に染み込んだ火属性の魔素を感じながら、祭壇に向かって念じる。

 すると俺の身体が輝いて、祭壇が共鳴するように輝きを発した。

 そこで俺は、祭壇の上空に向かって呼び掛けてみる。


『火精霊、契約の交渉をしたいから、召喚に応じてくれ』


 ロウソクの灯ほどの光が沢山現れて、魔力を籠めると松明ほどの光も現れる。

 そして籠める魔力を上げる度に、松明ほどの光が占める割合が上がっていった。

 松明ほどの輝きが大多数を占めたところで、俺は輝きに向かって話し掛けた。


『交渉しよう。俺の支払いは、人間達の2倍。半分を先払いするから、先に上級精霊に昇級してくれ。そして上級精霊の力を貸してほしい。残る半分は、後払い。1回の契約で、2倍の支払いだ。どうだ』


 赤い輝きが、困惑して周囲と見合うような動きを見せた。

 そして赤い輝きの1つが近寄ってきて、俺に点滅してみせた。

 すると俺が持つ祝福の言語翻訳が、精霊の意思を伝えてくれる。


『中級精霊との契約が魔力1とすれば、上級精霊との契約は8。上級精霊を2で使うのは安いね』


 どうやら2倍では、精霊が不満らしい。

 俺は支払額を引き上げる。


『それなら3で契約して、2を先払いするのはどうだ。2回契約しないと昇級できない中級精霊が、1回の契約で昇級できる。明らかに、お得だ』

『それは確かに、こちらにもメリットはあるね』

『そうだろう』


 3倍という提示を受けて、火の中級精霊は、拒否的ではない反応を示した。


『4で契約して、3の先払いなら、構わないわよ。貴方は半分の魔力で契約出来るし、私もちゃんと協力してあげる。上級精霊が協力的なら、凄く良いでしょ』

『そうだな。ちなみに俺の総魔力は、いくつだ?』

『20くらいかな』


 20から3を先払いすれば、俺の魔力は85パーセントに落ちる。

 土魔法や光魔法の威力が、8割5分に落ちるわけだ。

 引き替えに得られるのは、中級でもオスライオン並の強さを持つ精霊の上級版。

 しかも、4倍もらえたと認識する上級精霊は、ちゃんと協力してくれる。

 これは買いだと確信した俺は、条件を出した精霊と契約することにした。


『契約しよう』

『良いわよ。契約は、成立したわ』

『よろしく頼む。君は最初に話を聞いてくれて、見積もりも出してくれた。ほかに良い条件があったとしても、君と契約しないと信義に反するからな』

『それは良い考えね。契約には、信頼関係が大切よ』


 満足そうに輝いた赤い光が、祭壇に降りて来た。

 そして俺の身体から、1割5分の魔力が抜け出して、祭壇に流れ込む。

 俺の魔力を受け取った松明ほどの輝きは、光の強さを増して、焚き火ほどの大きさに拡大した。

 そして炎の中から、透き通ったルビーのように真っ赤な両眼が浮かび上がる。

 彼女は、獲物を観察するネコ科動物のような、狩猟者の相貌をしていた。


「ヨハナ、下がるぞっ!」


 様子を見守っていたグンターが、ヨハナを抱き抱えて、慌てて離れていく。

 そして炎からは、透き通るように白い肌が浮かんで、人の姿を形成していく。

 精霊の格を示す羽は、上級とされる6枚だ。

 耳の上は若干尖っており、薄桜色の長髪は、炎が揺らめくように靡いている。

 髪よりも濃い色合いのワンピースは、胸元や裾が白いフリルで、細かに縁取られている。

 彼女の長髪やワンピースの裾が踊る度に、火の魔素が周囲を揺らいでいく。


『ちょっと、試すね』


 そう告げた上級精霊は、魔素で火属性のイヌワシを生み出した。

 現れたイヌワシが羽ばたく度に、燃え盛る火羽を散らしていく。


『問題は無さそうね。それじゃあ、よろしくね』


 満足した上級精霊が、俺のほうに飛んできた。

 そして向かってくる最中に、姿が薄らぎ、溶けるように消えていった。

本日8月10日は『世界ライオンの日』です(*`・ω・)ゞ

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ドゥムジと契約する前の炎翼虎なんですかね
[良い点] 8相当の上級精霊を、前払いで先に中級精霊から上級精霊にするって方法で、4の魔力で更に協力的な契約を出来たのは流石(中級精霊が1。上級精霊が8。となると精霊王はMAXの20でも契約出来ないだ…
[良い点] 損して得取れ 言葉が通じるって強いな この交渉方をグンターたちに教えるかどうか 人間の言葉は精霊たちに一方通行で伝わるんでしょうかね
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