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ライオン転生  作者: 赤野用介@転生陰陽師7巻12/15発売
第2巻 炎翼虎と金狼

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38話 精霊の基礎知識

 仕入れに行くはずだった商隊が、男爵領に戻っていく。

 空荷と言わないまでも荷の軽い馬車の車輪は、カラカラと軽快に回っていった。


『グンター、反転して大丈夫だったのか』

「構わん。お前と会うのが、最優先の目的だった」


 グンターは交易商人だが、男爵の弟でもある。

 さらに娘のヨハナは、母方の祖父が辺境伯にあたる。

 両家の支援で用意された商隊は、両貴族の意に沿って荷物を運んでいる。

 そのため利益よりも、両家の意に沿った行動が求められる。

 意に沿った行動とは、俺に会うことであるらしい。


 ――辺境伯領に、荷馬車60台分の物資を運んだからな。


 辺境伯に見せた力を持つ俺との繋がりは、優先順位が高いのだろう。

 物資の運搬は、ほかの配下でも代替可能だ。

 だが俺との繋がりは、ほかの配下では代替が出来ない。


 今回のグンター達は、ヨハナに火の精霊との契約をさせるついでに俺にも契約の機会を作り、その貸しで俺を働かせることが目的である。

 リオが予定外に増えたが、ヒッポグリフの左右に荷袋を吊せば連れて行ける。そしてグンターから俺への貸しは、2つになる。


 ――俺のほうも、借りを作るだけの利は有る。


 群れで1頭が精霊魔法を使えるよりも、2頭が使えたほうが強い。

 ほかのオス、ハイエナ、ナイルワニなど、群れの脅威は沢山あるのだ。

 取引内容に納得した俺は、空に近い荷馬車の片隅に転がった。


「ねえ、レオンとリオは、又従兄妹なの?」


 俺の隣にはヨハナが居て、俺のライオンボディをモフっている。

 そして家猫に対するように、モフりながら話し掛けきた。

 ヨハナを挟んだ反対側にはリオが居て、やはりヨハナにモフられていた。


『俺の母とリオの母が、おそらく従姉妹だ。俺達は、又従兄妹になると思う』

「ハッキリとは、分からないんだ?」

『ライオンは、群れの子供は一緒に育てる。一緒に育てられた母達は、自分でも分かっていない』


 俺の母ライオンに、リオの母との血縁関係を尋ねても、首を傾げるだろう。

 中世の人間が知らないライオンの生態に、ヨハナは「へえぇ」と感心した。


「レオンとリオは、どっちが先に生まれたの?」

『生憎と分からない。ヨハナは、自分が赤ちゃんの時のことを覚えているか?』

「あんまり覚えていないかも」

『俺達ライオンも覚えていないし、母も気にしないから、分からない』

「そうなんだ」


 ちなみにライオンは、生まれて1週間くらいは目が見えない。

 いくら転生者の俺でも、目が見えなくては、生まれた順番など判別できない。

 下手をすると、ミーナが俺の姉という可能性すらある。


『身体の大きい俺が、兄ということにしている』

「どうして?」

『姉より、妹のほうが可愛い』

「レオン、それは言ったら駄目だよ?」

『どうしてだ』

「一人っ子じゃない女の人は、半分がお姉ちゃんだから。半分の人を敵に回すよ」

「ガオォ」


 ヨハナに指摘された俺は、うめくように呻り声を上げた。

 上から目線で呼び捨てられるのと、上目遣いで「お兄ちゃん」と呼ばれるのと、どちらが良いかは自明の理に思える。

 異世界転生してまで、世間の圧力に屈したくはない。


 ――だが、姉を敵に回すと危険だ。


 ポンの前脚でバシバシと叩かれる姿を想像した俺は、誤魔化すことにした。


『俺には、ギーアという弟が居る』

「レオンには、弟も居るんだね」

『そうだ。ギーアは、2歳年上の姉ビスタに懐いている。だからギーアに譲る。俺は、姉を取り合って弟と喧嘩はしない』

「そういう理由があるんだね」


 俺は、あたかも「自分が弟に譲ってあげました」という体を装った。

 そして、お姉ちゃん振りたいヨハナにもフォローを入れる。


『俺が人間だったら、ヨハナは結婚対象だ。ヨハナは、可愛い』

「前に、そんな事を言っていたね」

『言った。戦争は、困るが』


 俺が宣っていたところ、リオがトコトコと歩いてきて、俺をベシッと叩いた。

 もしかして「将来の嫁と言ったくせに」と、ツッコミでも入れたのだろうか。

 それならせめて、嫁にするという話に同意してから怒ってほしい。


「あーあ、レオン怒られた」

『姉より妹が好きだと言った俺が、ヨハナは年上でも可愛いとフォローした』


 二度目のライオンパンチを放ったリオは、ヨハナを挟んだ反対側に戻った。

 俺は仕方がなく、話を変えた。


『グンター、精霊について話を聞きたい』


 今回のグンターの商隊は、荷馬車6台で移動している。

 グンターの下で働く全員が、男爵家ないし辺境伯家に手配された者であろう。

 指揮者のグンターは、御者台に座らず、荷台で俺達と向かい合っている。

 最初に俺のことを『神界から落ちてきた神獣とか、そういう類いのライオンだろう』と見なしたグンターは、俺の知識量を問うた。


「そもそもレオンは、精霊について、どこまで知っているんだ」

『ほとんど知らない。召喚された2枚羽が下級精霊、4枚羽が中級精霊。火精霊と風精霊は存在する。精霊を使って力を行使することが、精霊魔法と呼ばれる。それくらいだ』


 それらはグンターとの会話や、辺境夫妻伯の精霊を見て、得た知識だ。

 ほとんど知らないと理解したグンターは、ヨハナに教師役を振った。


「ヨハナ、精霊のことをレオンに教えてあげてくれ」

「うん、良いよ」


 人に教えると、自分の理解も深まる。

 グンターは、娘の教育目的で、俺に教えるように指示したのかもしれない。

 教師としては若干不安だが、子供のヨハナが知っている話が、庶民の標準的な知識だろう。

 俺はヨハナに教わるべく、隣の推定10歳児を見上げた。


「精霊は、精霊界っていう世界に住んでいるの」

『ふむ』


 俺はライオンの尻尾をパタパタと振りながら、ヨハナの話に相槌を打った。


「フワフワ浮かんでいて、力が溜まったら、2枚羽の下級精霊に成るの。成長すると、4枚羽の中級精霊、6枚羽の上級精霊、8枚羽の精霊王に成っていくの」

『精霊は、成長するんだな』

「そうだよ。精霊の成長には、契約者が死んだ時に譲られる魔力が必要なの。だから力を貸してくれて、契約者が死んだら、契約分の魔力をもらうの」

『魂の一部をもらう感じか』


 俺が連想したのは、悪魔との契約だ。

 人は悪魔と契約して、生前に力を借り、死後に魂を渡す。

 辺境伯夫妻が、獣人を撃退していた力の対価は、死後の魔力というわけだ。


「顕現して力を振う時も、契約者の魔力を使うよ。でも、体力みたいに回復する分。死んだ時に渡すのは、魔力そのもの。それで精霊は、成長するの」

『なるほど、なんとなく理解できる』


 俺が気になったのは、貸す力と、差し出す力が、不釣り合いなことだ。

 悪魔や精霊が貸す力に対して、人が差し出す魂や魔力は、小さいように思える。

 つまり契約者は、自分の小さな魔力で、精霊の大きな力を貸し出されている。


 ――まあ取引は、需要と供給で成立するけど。


 精霊が成長のために、人間界でしか得られない力が必要なら、理解は及ぶ。

 精霊Aが10の力を貸すと言い、精霊Bが5の力を貸すと言えば、人間側は精霊Aを選ぶ。

 それで精霊Bが「12の力を貸す」と言い、対抗して精霊Aが「15の力」と釣り上げれば、大きな力を貸して貰える契約になるかもしれない。


 ――辺境伯夫妻が顕現させた精霊達も、見合わないとか言っていたな。


 夫妻の中級精霊達は、ヨハナの説明を裏付けるような会話をしていた。


『倒してだって。どうしようか』

『契約した魔力がギリギリで、見合わないよ。2倍なら、頑張っても良いけど』

『それじゃあ、適当に追い払えば良いかな』

『そうだね。そうしよう』


 精霊界隈での労働は、契約分に限るらしい。

 日本のようなサービス残業は無くて、結構な話である。

 精霊との契約について理解できた俺は、安心して契約が出来そうに思えた。

 死後に契約分の魔力を持って行かれても、だからどうしたという話である。


「レオンなら分かるだろうから、補足する」

『何だ』

「精霊は、本体が精霊界に存在する。契約者とは魔力で繋がっており、契約者の魔力を基に顕現して、魔素を用いて力を振うと伝えられる」

『それで?』

「精霊は、倒されても復活する。中級精霊、下級精霊、未契約で、絶対に越えられない力の差が存在する。だから契約は、貴族の条件になっている」

『それでヨハナは、辺境伯の孫娘として、中級精霊との契約が必要なのか』

「うん。そうじゃないと、お爺様とお祖母様が困るし、お父さんも大変だから」


 辺境伯は、公爵家出身の正妻との間に、4人の子供がいる。

 そのうち3人が娘で嫁ぎ、残った嫡男は戦死した。

 側室は男爵家出身で、政治力の差や、おそらく正妻と側室の魔力差もあって、辺境伯家を継ぐのは正妻側の孫になる。


 ヨハナが継承資格を持てば、辺境伯家に後継者の選択肢が生まれる。

 辺境伯は、ほかの貴族から無茶を言われた時に、要求を突っぱねられる。

 ヨハナは、父と祖父母のために、精霊との契約を頑張ろうとしているわけだ。


『人間は大変だな』


 回答を模索した俺は、そのように総括した。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 死後の魔力を対価に契約するってことは、高位精霊を1属性と、中位属性を2属性が同じくらいってことなのかな?
[良い点] 世界設定があるというなら精霊に転生するというウルトラC達成者もいたのかな
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