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ライオン転生  作者: 赤野用介@転生陰陽師7巻12/15発売
第2巻 炎翼虎と金狼

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34/62

33話 端にある沼

「ウヴァーアッ」


 悪魔のような重低音が、沼に響き渡った。

 声を発したのは、ナイルワニに足を噛まれたセーブルアンテロープである。

 ロバよりも低く、キリンよりも雄々しい。

 まるで地獄に住まう、悪魔の雄叫びのように感じ取れた。


『この沼、ナイルワニが居るのかよ』


 セーブルアンテロープは、頭部を振り回して、必死に抵抗している。

 だが、分厚い皮に覆われたナイルワニのほうは、まったく気にしていない。

 ひたすら本能のままに、獲物を沼へと引き込もうとしていた。


「ガオッ」


 ナイルワニの姿を見たリオが、沼から少し後退った。


『どうして、あんなのがいるの?』

『この沼は、川幅の広い川と、繋がっていたよな』

『うん』

『だったら、川の先から来たんだろう』


 改めて考えれば、ナイルワニが居ることに不思議はない。

 以前、人間に見せられた地図によれば、南に山脈、北に巨大な内海があった。

 この川は、南に見える山脈から流れてきて、北の内海に接続している。

 地球のサバンナに似た環境で、俺達ライオンやシマウマ、スイギュウなど生息しているならば、その環境にナイルワニだけが生息していないはずがない。

 陸にすら上がれるワニであれば、余裕で川を移動できるだろう。


『魚とか、追ってきたのかもしれないな』


 ナイルワニは、小さい頃には、魚などを食べて育つ。

 そして大きくなれば、水辺に潜んで、陸の動物も捕まえて食べる。

 その動物が、目の前で襲われるセーブルアンテロープなどになるわけだ。

 もちろん草食動物に限らず、わりと何にでも噛み付いて、食べようとする。

 ナイルワニは、百獣の王と呼ばれるライオンであろうと、襲うことがある。


『あれ、あたし達が噛まれていたかもしれなくない?』

『確かに、下手をしたら、噛まれていたかもしれない』


 俺やリオ、ミーナら子ライオンは、目の前の光景に、どん引きである。

 実際に、水を飲んでいた沼からは、何歩か後退している。

 平然としているのは2歳年上のビスタ、そして大人のメスライオン4頭だ。

 おそらく彼女達は、ナイルワニを見慣れているのだろう。

 そんなメスライオン達は、サッカーのフィールドくらいの広さの沼をグルリと外回りしながら、対岸に向かって駆け始めた。

 それをビスタが追い、ビスタにギーアが付いて行き、アンポンタンも駆ける。


『リオ、付いて行くぞ』

『でもでも、何か居るんだけど』

『あいつら、陸にも上がれるぞ。一番安全なのが、大人達の傍だ』

「ガオォォ」


 嫌そうな鳴き声を上げたリオは、慌てて大人達の後を追った。

 俺とミーナも付いて行き、ライオンの群れが一斉に、対岸に回り込んでいく。

 すると対岸のセーブルアンテロープの群れは、ナイルワニと引っ張り合っている仲間を見捨てて、走り去った。

 セーブルアンテロープは角が鋭くて、1頭で複数のメスライオンを同時に追い散らすこともある。

 だが草食動物なので、ライオンと戦っても食料を得られるわけではない。

 そのため肉食獣が迫ってくれば、基本的には逃げていく。

 仲間が去る中、取り残されたセーブルアンテロープは、必死に抵抗していた。


 ――ガッチリと、噛まれているな。


 セーブルアンテロープの足は、ナイルワニにガッチリと噛まれている。

 強引に引き抜けば、おそらく折れるだろう。

 その状態では、引き抜くために左右に振るのも危ない。

 引き抜けるかもしれないが、足の骨折が治るのは、数ヵ月後だ。

 その間、走れなくなると、ライオンなどの捕食者から逃げられない。

 引き抜けるチャンスは、ナイルワニが噛み直すために口を開ける瞬間だけだ。


『あれは、逃げられないな』


 ナイルワニは、獲物の足を折っても構わないため、容赦なく引っ張っている。だが、なかなか沼まで引き込めないでいる。

 ナイルワニの大きさは、セーブルアンテロープの全長と同程度だ。

 両者が引っ張り合う間、移動したメスライオン達は、陸の三方を包囲した。

 幼獣の俺達は、ある程度の距離を取って、遠巻きに様子を眺める。

 ちなみにアンポンタンとギーアも、ちゃんと距離を取っている。


『リオもミーナも、あまり近付くなよ』

『大丈夫。頼まれても行かないから』

『ミーナも行かない』

『2頭とも、偉いぞ』


 俺はリオとミーナの顔に擦り付けて、ライオン流に2頭を褒めた。

 するとリオからは前脚でベシッと反応があり、ミーナは擦り返してきた。


 大人達もワニを警戒してか、直線的には飛び掛からず、慎重に近寄っていく。

 ナイルワニの皮は厚いので、ライオンの鋭い牙でも、中々噛み裂けない。

 対するナイルワニの咬合力は、ライオンの5倍から10倍とされる。

 しかもデスロールという、噛んで身体を回転させる技で、相手の肉を噛み裂く。

 水中で回転されると、顔が水の中に沈んで、息まで出来なくなる。

 ライオンがナイルワニと戦う場合、水中では圧倒的に不利だ。

 ライオンが戦うのが、好ましくない動物の1種が、ナイルワニであろう。


 ――狙っているのは、ナイルワニが噛んだセーブルアンテロープだけどな。


 セーブルアンテロープとナイルワニの引き合いが釣り合っているのなら、ライオンが陸から引っ張れば、引き上げられる。

 メスライオン達は、セーブルアンテロープに爪を引っ掛けた。

 そして陸側に、引っ張り始める。

 ナイルワニに仲間は居らず、獲物はズルズルと、陸側に引き摺られていく。


『スイギュウを食べれば良いのに』

『ミーナは賢いな。独立したら、ワニとは争わずに生きていこうな』

『あれ、ワニって言うの?』

『そうだぞ。水の中に隠れているから、気を付けろよ』


 ワニは、2億年前から現在の姿を保った、造形の完成度が高い捕食動物だ。

 鋭い牙は、しっかりと獲物を捕らえる。

 分厚い皮は、防御力に適している。

 体高の低さは、浅い水深で水中に隠れるのに向いており、反撃も受け難い。また泳ぐのにも、回転するのにも適している。

 恐竜時代を生き延びて、その間に身体の造形を変えなかったことから、完成度の高さは折り紙付きだ。


『水の中には、カバという生き物もいる。それも危ないから、近寄るなよ』

『カバって何?』

『ワニよりも、大きな生き物だ。牙が大きくて、噛む力も強い』


 カバは、ナイルワニにとっても厄介な動物だ。

 カバの咬合力は、ライオンの2倍から3倍ほどだ。

 ただし 牙の長さが50センチメートル以上で、ナイルワニの身体も貫ける。

 しかもカバは、ナワバリに敏感で、ナイルワニが近寄ると攻撃して排除する。

 ワニが獲物を襲うと、カバが寄ってきて、ワニを攻撃することもある。

 ナイルワニもカバは嫌がって、離れていくそうだ。

 ライオンを狩るマサイ族ですら、カバからは逃げるのだから、どれほど危険なのか察せられる。


『とりあえず沼を見渡した限り、カバは居なさそうだ。見つけたら、教える』

『うん、分かった』


 俺が話している間に、大人達が、セーブルアンテロープを引き上げた。

 付いてきたナイルワニには、ジャンプで回り込み、パンチをお見舞いする。

 意外なことに、ライオンのパンチは、ナイルワニに対して有効だった。

 メスライオンは、ナイルワニの頭の上に爪を立てて引っ掛けて、ナイルワニが噛めないように上から押さえ付けた。


 ライオンの前脚が、何度もナイルワニの頭を叩いていく。

 目の辺りを攻撃されたナイルワニは、獲物を離して、沼のほうに逃げ出した。

 バシャンと水飛沫が上がり、ナイルワニの身体が、沼の中に沈んでいった。

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― 新着の感想 ―
[一言] そいや犬の視界は白黒とされている。ライオンは何かしらの制約があるのかな
[良い点] ワニ肉も食用に適してると思うが皮が切り出せない やはり切断魔法か自由に使える人の手が欲しい
[一言] ナワバリで狩りをしていたら流れ着いたライオンの群れに猫パンチを連打された挙句獲物を奪われる…… これワニ視点だとかなり理不尽な話だ
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