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ライオン転生  作者: 赤野用介@転生陰陽師7巻12/15発売
第2巻 炎翼虎と金狼

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33/62

32話 ナワバリの端にて

 俺達の群れは、下流のほうへと移動していった。

 山が多い日本では、土地の高低差が大きくて、川の流れも早かった。

 だが俺達が住んでいる地域は、広くて平らな地形なので、川の流れは遅い。

 そんな緩やかな川の流れに合わせて、俺達もトコトコと、ゆっくり歩いて行く。


『川の底、見えなくなったね』

『そうだな。砂とか泥が、混ざったかな』


 川幅は、ずっと10メートルほどで変わらない。

 だが泥が混ざったのか、濁って底が見えなくなった。

 上流も澄んでいたとは言いがたいが、それでも川底は見えていた。

 川には、底が露出した中洲もあるので、水深は浅いはずだ。

 それにも拘らず底が見えないので、水質は急速に悪くなっている。


『味、変わるかな』

『別に問題ないだろう』


 俺達は、泥水でも問題なく飲める。

 俺は水質よりも、移動理由となった弟妹のほうが気になった。


『弟と妹、何頭生まれるかなぁ』

『あたし達は、8頭だったよ』


 リオが言ったとおり、俺達は2頭のメスライオンから、8頭が生まれた。

 日本の動物園では1頭から5頭が生まれており、平均は3頭くらいだとされる。

 それに比べれば、若干多いと言えるだろう。

 もっとも日本の動物園は、野生下のライオンと同一の環境ではない。

 俺が所属する群れのメスライオンが何頭を生むのかについて、動物園の数字は参考程度にしかならないだろう。


『8頭生まれるのは、多いのかな?』

『どうだろうね』


 近代以降、銃を使った人間によるオスライオンの狩猟で、ライオンの生態が狂った可能性も排除できない。

 アフリカゾウは、人間の狩猟から逃れるために、牙のない個体が増加した。

 ライオンよりも寿命の長いアフリカゾウであっても、短期間で変化するので、ライオンの生態が変化しないとは言い切れない。

 海外では、1頭のメスが、同時に8頭の子ライオンを生んだ記録もある。

 確か、ジンバブエの首都ハラレにあるライオン・チーター公園だ。


『俺達と同じ8頭くらいは、生まれると良いな』


 子供が沢山生まれるのは、それだけ死ぬからである。

 マンボウは、1回に3億個の卵を生むが、大人になるのは2匹と言われる。

 それほどの卵を生むくらいなら、あの縦に平べったい身体を進化させたほうが早い気もするが、数を生めば生き残れる戦法なのだろう。

 そのような考えに基づけば、動物園よりも生存率の低い野生下では、ライオンは子供の数は多くなる気がする。

 母体の食料事情が良好であれば、動物園のライオンよりも多く生みそうだ。


 ――ハーレムに行っていたのは、クロサイを食べた後だったからな。


 当時の群れは栄養が充分だったので、沢山の子を妊娠したのではないだろうか。


『どうして多いほうが良いの?』

『それは弟が生まれたら、一緒に連れて行きたいからだ。オスが4頭増えれば、俺とギーアを合せて6頭になる』

『どうして多いと良いの?』

『それだけ居たら、他所のオスが絶対に襲って来ないだろう』


 オスライオンの独立は、2歳から3歳ほどだ。

 弟妹とは半年差だが、その程度なら、一緒に連れて行けるかもしれない。

 2006年、南アフリカで6頭のオスライオンで構成されるマポゴ連合という集団が、周囲のオスライオンを次々と殺し、8つの群れを支配した。

 6頭のうち1頭は、動物保護区を出たところで地元住民に撃たれている。

 だがマポゴ連合のリーダーであるマクルは、2012年に15歳になるまで、ライオンの群れを1つ以上、維持し続けた。

 そんな彼ら6頭は、スイギュウを狩るのも上手かった。

 オスの数が多ければ、それだけ有利になる。


『獲物を狩るの、大変そう』


 弟達を連れて行きたいと話したところ、リオがうんざりした表情を浮かべた。

 ライオンの群れでは、狩りはメスが行う事が多い。

 オスの頭数が増えれば、養うメスの負担が増えることになる。

 俺はリオも連れて行きたいが、その場合はリオの負担が大きくなってしまう。


『俺は不思議な力を使えるから、それを使って、リオの負担を減らすぞ』

『あの力、あたしも練習したけれど、ダメだったね』

『うーむ、発音かな。よく分からない』


 付いてくる件について、誤魔化された気がしたが、俺はリオの話に乗った。

 転生時、俺は土魔法と光魔法、併せて祝福の言語翻訳を獲得している。

 ほかにも身体能力C+、空間収納、延命息災を得た。

 俺は天使に「楽に天寿を全うできる割り振りを教えて下さい」と言い、天使からの回答が、それらの取得だった。

 得た力でスイギュウやハイエナを倒して、今のところ楽に暮らしている。

 俺が魔法を使えるのは、そんな経緯がある。


『妹達も連れて行けたら、楽かもね』


 リオから、仲間のメスライオンを増やせと主張された。

 血縁関係のないメスライオンの合流は、オスライオンの合流よりも困難だ。

 合流の例もあるが、最初から妹を連れて行くほうが、リオにとって楽となる。


『連れて行けるだけ、連れて行こう。ミーナも、一緒に来るよな』

『うん』


 黙って俺達の後ろを付いてきたミーナが、問い掛けに即答した。

 ミーナは、俺とリオがギーアから庇い、切り分けた肉も与えている。

 乳児期から守って、餌付けもしているわけだ。

 依存状態は、最大級である。


『ミーナは確保した。ほかに要求はないか』

『別に、あたしが付いていくとは言っていないけど』


 リオには、ミーナと同じように餌付けをしているはずだ。

 なぜ反応が異なるのか、俺には理解できない。

 誰か、ツンツンしている猫をデレさせる方法を教えて欲しい。


 そんな風に思いながら進んでいった俺達は、やがて沼に辿り着いた。

 川が2本に分かれており、1本が窪地に流れ込んで、沼になっている


「ガォオッ」


 沼に辿り着いた大人のメスライオン達が、ゾロゾロと沼の畔に歩いて行った。

 そして猫のように舌を使って、沼の水をペロペロと飲み始める。

 姉達が付き従い、俺達も一緒に沼に寄っていった。


『ここで休憩かな。それとも目的地かな』

『どうだろうね』


 俺達のナワバリは、無限に有るわけではない。

 水があれば、草食動物が来る。

 今も沼の対岸には、ウシ科のセーブルアンテロープの姿があった。


 セーブルアンテロープは、反った長い角を生やす、身体の黒い草食動物だ。

 まるで山羊の頭を持った、黒い身体の悪魔バフォメットだ。

 そんな悪魔を連想させる姿をしたセーブルアンテロープは、数頭から数十頭ほどの群れを作り、水場の近くを好んで暮らしている。


 草食動物が多い土地は、ほかのライオンとのナワバリ争いが激しくなる。

 ナワバリが広いと、維持する争いが頻回に起きて、負担が大きくなる。

 群れの腹を満たす程度の土地を確保しておくほうが、むしろ効率が良い。

 それを踏まえると、この辺りが、ナワバリの最北端のように思われた。


『とりあえず水でも飲むか』

『そうだね。歩き疲れたし、水を飲みたいかな』

『ミーナも行くぞ』

「ナァオッ」


 俺達は、メスライオン達の間に割って入り、沼の水を飲み始めた。

 沼の大きさを目算したところ、セーブルアンテロープで南北に30頭、東西に50頭が、一列で並べるほどに思われる。

 セーブルアンテロープは、体長2メートルほどだ。

 そのため沼は、縦60メートル、横100メートルほどの広さになる。

 サッカーのフィールドが縦68メートル、横105メートルなので、ちょうどそのくらいだ。


 そんな沼の畔には、青々とした植物が生えている。

 川の増水で、沼の水量が変化するのかもしれない。

 そんな草を目当てに、沼には草食動物が屯していた。

 そして肉食動物も、棲んでいるようだ。

 沼からナイルワニが飛び出して、セーブルアンテロープの足をガブリと噛んだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 平和なだけの水場なんてあるわけ無いわね……
[良い点] 今日からこの川はナイル川
[一言] メスと子作りできないかもしれないけど、 人間に飼われて遊び倒すのも楽しそうよな
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