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ライオン転生  作者: 赤野用介@転生陰陽師7巻12/15発売
第1巻 ライオン転生

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30話 神代の力

月間ハイファン4位、異世界転生3位、ありがとうございます!

 大隊長を失った獣人大隊が、敗走した翌日。

 上半身が岩の下敷きになった獣人が、惨殺者バーンハードだと確認された。

 俺は直接見ていないので、どれくらい潰れたのかは分からない。

 だが上半身が潰れていても、判別は出来たようだった。


 ――押し花だって、元々が何の花だったのか、分かるよな。


 我ながら、酷い把握の仕方であった。

 もっとも、俺がやった不意打ちについては、卑怯だとは思っていない。

 相手が効率的な狩りをするように、俺も効率的な狩りをしただけだ。

 戦争に出てきた以上、殺される覚悟は有って然るべきである。


 俺が落とした岩は、ロープで繋ぎ、沢山の人馬で引っ張って退かした。

 ピラミッドの石の10倍も重い岩を運ばせた件は、悪いと思わなくもない。

 25トンは、オスのアフリカゾウ4頭分だ。

 そんなものに空中から降ってこられれば、人間の8倍強い獣人であろうとも、耐えられないわけだ。


『閣下、あの攻撃は、何ですかっ!』

『先祖代々、領地の危機に使えと受け継がれてきた宝だ』


 領都に駐留する国軍と諸侯軍からは、問い合わせが殺到した。

 そして辺境伯は、シラを切った。


 ――シラを切られれば、正解に辿り着くことは不可能だな。


 最前線の上空を飛んだヒッポグリフに乗っていたのは、グンターだけだ。

 グンターは、身元が確かな男爵令息で、不思議な力は持たないと知られる。

 ヒッポグリフには小さな荷袋を繋いでいたが、俺の体重は26キログラムで、人間の8歳児相当。

 ヨハナでも入るのは無理で、誰かを連れていたとも思われない。

 つまり謎の力は、転生者の出現ではなく、宝物を使用したと信じられた。


『これからも、あの力で獣人軍を蹴散らせるのですか!』

『力を消耗したので、もう使えるのか分からない』


 バーンハード大隊長を潰した岩は、二度と力を発揮することはないだろう。

 なぜなら俺が、岩を回収できないからだ。

 お祭り騒ぎをする領民の中に割って入り、目の前で岩を回収など、出来ない。

 そんなことをすれば、俺がやったと宣言するようなものだ。

 グンターからは、一度勧誘された。


『お前、空兵に成らないか?』


 ヒッポグリフで上空から岩を落としていけば、地上の軍に対して無双できる。

 だが毎日荷袋に入るだけの生活など、まっぴら御免である。

 しかも報酬に金貨をもらったところで、ライオンの俺は使えない。

 代理で買い物をしてもらっても、町で売っている肉は、直接狩ったスイギュウよりも鮮度が落ちている。

 ライオンの身では、空兵になったところで、何一つ良いことが無い。


『母が待っている。妹も生まれる。帰りたい』

『お父さん、7日以内に返す約束!』


 俺に加勢してくれたヨハナは、やはり良い子だ。

 きっと父親のグンターではなく、母親に似たのだろう。

 それらの経緯があり、俺は荷袋に入って、空から帰路に就いた。

 午前にカッセル男爵領へ宝石と金貨を運び、午後に群れのナワバリへ飛んでもらっている。


『グンター、2回分の借りは、完済したよな』

「レオンのおかげで、辺境伯に2回分の貸しを作れた。ヨハナの立場も良くなる」

『それは良かった』


 貴族の政略結婚は、自家の安全と繁栄を求めての行為だ。

 グンターは、孤立下での物資大量輸送と、侵攻軍の指揮官撃破をもたらした。

 他所に嫁入りした娘達の貴族家よりも、遥かに大きな成果を挙げたのだから、ヨハナが辺境伯夫妻から不利に見られることはなくなるだろう。

 ヨハナが得をした結果に、俺は満足した。


『ちなみに大隊長を倒すだけで安全になるのは、どうしてだ』

「獣人帝国は、1個大隊400人。40人を率いる隊長が、10人居る」

『ふむ』

「隊長達は同格で、ほかの隊長には従わない。だから次の大隊長が決まるまで、大隊は機能しない」

『異なるライオンの群れが、10個あるようなものか』

「言い得て妙だな。獣人の連中は、半分くらい獣のようなものだ」

『それは後釜争いで、大変そうだ』


 強さで上下関係を決めるのは、とても分かり易い。

 だが戦いの強さは、その日の体調でも変動する。

 相手との強弱を明確化するためには、何度も戦って確かめなければならない。

 圧倒的な強者が居なければ、結論を出すまでには、相当な時間が掛かる。


 ――ギーアも、俺に挑み続けるし。


 ライオンはオス同士で争うし、スイギュウだってオス同士でツノをぶつけ合う。

 弱い奴に、メスを譲る理由は無い。

 弱い奴に、群れの行動を指図される謂われは無い。

 それと同様に、大隊の隊長達は、力を明確化しないと従わないのだろう。

 そのため大隊は、ライオンの群れ10個のように、連携不能に陥ったわけだ。


『それは良かった。場所を調べる石は、このまま預けておく。たまに新しい肉を切りに来てくれ』

「レオン、ほかに取り引きしたいことは無いか。お前の力は、役に立つ」


 毎日荷袋に入るのは、嫌である。

 だが釣り合う対価と引き替えに、1回協力するくらいは、吝かではない。

 例えば、ライオン向けの小屋を建築してもらい、空間収納で持ち歩いて、俺が群れを獲得するまでの安全な住処にする。

 あるいは俺がナワバリにした土地周辺のハイエナを、ハイエナの毛皮を買い取るなどの理由で、大量に狩ってもらう。

 ほかにも人間の協力が得られるのであれば、都合の良いことが色々と出来るかもしれない。


『今は無いが、いつか何かを頼むかもしれない。関係は継続しよう』

「分かった。お前が人間なら、王国が取り立てて、誰か娘でも宛がっただろうな」


 グンターは、実に人間らしいことを宣った。

 ほかの転生者に対する扱いが気になったので、俺は無関係ながらに尋ねた。


『平民でも取り立てられるのか』

「それは取り立てるだろう。他国に取られたくないからな」


 凄まじく納得できる理由だった。


「精霊2体と契約していれば士爵、さもなくば騎士爵。目覚ましい功績を打ち立てれば、男爵ないし準男爵に叙爵されて、影響の無い適当な領地を与えられる」

『あまり、夢が無い話だな』


 目覚ましい功績とは、どの程度だろうか。

 俺は、国軍と諸侯軍でも倒せなかった獣人帝国の大隊長を倒した。

 それで騎士爵……つまり騎士だと言われれば、ちょっと割に合わない。


「それは、あくまで普通の場合だ。神代の力を持つ者は、異なる」

『どう異なる?』

「力次第だが、極端に魔力が高い者であれば、上級貴族が婿入りさせるか、王族が姫を宛がって、次代も高魔力であれば血を取り込む」

「レオンが人間の男の子だったら、わたしと結婚したかもね」

『それは、実に夢のある話だ』


 辺境伯達の中級精霊を見る限り、高魔力者の力は有用だ。

 辺境伯夫妻は、安全な城から1歩も出ずに、人間の8倍強い獣人を倒した。

 獣人が、ハイエナと同等の強さとすれば、中級精霊はライオン並の力だ。

 人間はEの範囲だと聞いたが、上級貴族の魔力はCくらいあるのかもしれない。


 ――身体能力と魔力は、別物だったか。


 貴族の魔力が飛び抜けて高いのは、転生者の子孫だからかもしれない。

 強い者に従うのは、獣と獣人に限らない。

 領民は素直に従うので、統治もやり易いだろう。

 すると血を取り込みたいのも納得だ。


「ふーん、そっか」


 機嫌の良さそうなヨハナの声が、荷袋に届いた。

 俺が荷袋から顔が出ていれば、ヨハナに頭を撫でられていたかもしれない。


「よし着いたぞ」


 ヒッポグリフが地上に降り立った後、俺は荷袋から解放された。

 降ろしてもらったのは元の場所で、ここなら群れの居場所が分かる。

 ナワバリには、4日振りの帰宅となる。

 男爵領への移動、男爵領での収納、辺境伯領での戦闘、辺境伯領からの移動で、それぞれ1日ずつを費やした。

 スイギュウを狩ったばかりの群れは、まだ動いていないだろう。


『ヨハナ、元気でな』

「うん。レオンも元気でね」


 別れを告げたところ、ヨハナが俺の背中を撫でてきた。

 俺はペタッと地面に伏せて、好きなように撫でさせてやる。


「おい、俺には元気でとか、言わないのか」

『グンター、ヨハナのために元気で居ろよ』

「おう、言われなくても、元気でやる」

『それなら言わせるな。たまに肉を切りに来てくれ』


 そう伝えて、俺は二人と別れた。

 ライオンの前脚を振って見送った後、トコトコと群れに戻る。

 そしてライオンの作法に則り、まずは鳴いて、仲間が帰ってきたと伝えた。


「ガォオッ」


 すると群れのライオン達が一斉に顔を向けて、俺の姿と鳴き声を確認した後に、何をやっていたのだという表情を浮かべた。

 俺に気付いたリオが、スタスタと駆けてくる。


「ガオォ」


 一鳴きして俺の傍に来たリオは、スンスンと匂いを嗅ぐ。

 そして何かが気に食わなかったのか、ペシッと叩いてきた。


『……へい彼女、お茶しない?』


 俺は、グンターに切らせた肉を差し出して、リオのご機嫌を取ったのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 移動ライオン小屋生活がとても読みたいですが、メイン路線ではなさそうか
[一言] 鋭いリオ、そして機嫌を取るレオンw
[良い点] 面白かった〜 毎日が楽しみです。
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