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ライオン転生  作者: 赤野用介
第1巻 ライオン転生
3/62

03話 魔法の英才教育

 ペロペロと、リオが俺の身体を舐めてくる。

 ストレスが限界突破しているらしく、穴から顔だけを出す俺の腰をガシッと掴んで離さない。

 まるで獲物を捕らえて押さえ付けるメスライオンである。


『すまん、周囲を観察しているんだが』

「ミャゥッ」


 野生化して鳴いたリオは、猫舌ならぬライオン舌で、攻撃を再開した。

 ザラザラとした舌が、生後1ヵ月である俺の柔らかい毛皮を弄ぶ。

 メスライオンは、群れで押さえ付けたシマウマにトドメを刺す前に、舐めることもあるのだが、それにはどういう意味があるのだろうか。

 俺は溜息を吐いて、リオのストレス発散に付き合った。

 捕らえられたシマウマの気持ちが、そこはかとなく分かったかもしれない。


『まったく、スイギュウは反則だろう。1頭だったのは、まだマシだが』


 スイギュウは繁殖期になると、オス同士でツノの突き合いによる力比べを行う。

 勝ったほうがメスと交尾できるので、スイギュウは先祖代々、突き合いに勝った優秀なオスが子孫を残してきたことになる。

 その歴史は、数百万年も積み重ねられたそうだ。

 数年で世代交代だと考えれば、100万世代分、突き合いに優れたオスが子孫を残してきた。

 スイギュウは、どのオスも相応に優れた攻撃力を持っていると考えられる。


 ――異世界の歴史も同じなのかは、知らんが。


 スイギュウは姿勢を低くして、伏せたライオンにツノを引っ掛けて跳ね上げる。

 鋭利なツノで突いて、跳ね上げれば、ライオンの身体を突き破ることも出来る。

 それでもライオンはスイギュウを狩るし、一定数は返り討ちに遭う。

 俺がライオンにお勧めする狩りの獲物は、やはりシマウマだろうか。

 お勧めポイントは、ツノが無いことである。


 ――反撃されるリスクが低いのは、良いことだ。


 蹴られると痛そうだが、シマウマに殺されたライオンは、寡聞にして知らない。

 ライオンも数十万世代を重ねる間に、より強い個体が生き残って、子孫を繋いできたはずである。

 故に、シマウマに倒される程度のライオンは居ないのだろう。


 狩りのオススメは、戦闘型に進化していない生き物だ。

 スイギュウは、止めておいたほうが良い。

 しばらく狙うべき食材について考えているうちに、母達が子ライオンを咥えて、戻って来た。

 グルグルと咽を鳴らして声を掛けてきたので、俺も声を上げる。


『こっち、こっち』


 俺の声が聞こえた母達が、素早く駆け寄ってくる。

 そしてポテッと、それぞれ咥えていた子ライオン達を離した。


『よう妹。そしてリオ、お前の弟も来たぞ。兄かもしれんが』

「ミャゥッ」


 俺が巣穴から出て呼び掛けると、俺を舐めていたリオも顔を出した。

 連れて来られた兄弟と又従姉妹を確認したリオは、すぐにそちらも舐め始めた。

 俺とリオの無事を母達は、安心した表情を浮かべた。そして小さな穴には、不思議そうな表情を浮かべた後、子ライオン達を残して駆けていった。

 母達が駆けていったのを見届けた後、俺は再び魔法を使う。


『トンネルバウ』


 穴の大きさが、4頭用に広がっていった。

 魔法を行使した俺は、空いた穴に向かって、リオを含めた3頭を押し込む。

 安全確保は、現状における最優先事項だ。


『ほら、入れ、入れ』

「ミギャッ」「ミャウッ」「ミィィ」

『猫みたいに鳴きやがって。お前らは、ネコ科か……ネコ科だったわ。ほら入れ、はよ入れ』


 ミイミイ鳴く3頭を押し込んだ俺は、穴に蓋をするように、出入り口に陣取る。

 俺達の役目は、母達が帰るまで身を隠し、母達が帰ったら場所を教えることだ。

 周囲には木が生い茂っており、姿は完全に隠せている。そのため母達も場所が分からないので、鳴き返す必要がある。

 だが母達ではない相手には、鳴き返してはいけない。

 リオは比較的賢いが、現在は情緒不安定だ。

 気の弱い妹や、知力不足の従兄弟にも、重要な役目を任せるわけにはいかない。

 俺は穴の出入り口にドンと陣取り、3頭が出てこないように、妨害を始めた。


「ミギャッ、ミギャッ」

『黙れ従兄弟。ジャッカルが来たら、最初に貴様を差し出すぞ』

「ミィィ、ミィィ」

『リオ、うちの妹を相手してくれ。生憎と俺は、お前の弟の相手で忙しい』

「ミャウッ」

『リオ、お前もか……』


 保育園の保育士さんの、なんと偉大であることか。

 俺は出入り口に陣取り、身体で穴を防ぎながら、モフモフどもの猛攻を凌いだ。

 後ろ足でボフボフと蹴り、穴の奥に押し込む。

 すると頭を押し付けて抵抗するので、足で頭を押し返し、力比べに突入する。

 このような戦いでは、上を押さえているほうが有利だ。

 モフモフ共は抗い切れず、コテンと奥に転がっていった。


 ――フッ、勝った。


 ミッションコンプリートである。

 俺は勝利の余韻を噛み締めながら、茂みの中で新鮮な空気を吸う。

 そしてリオ達にも新鮮な空気が行き渡るように、配慮してやった。


『トンネルバウ』


 魔法を使って穴を広げたところ、急速に訪れた飢餓感に耐え切れなくなった。

 慌てて、空間収納に仕舞っていたミルクを口内に取り出し、ゴクゴクと飲む。

 母乳は授乳期間によって、消化しやすいホエイ(乳清)と、消化しにくいカゼイン(カルシウムを大量に含んだタンパク質)の比率が異なる。

 人間であれば初乳が9対1、成乳が6対4、授乳後期が5対5。

 生まれて間もない頃は、消化がし易くて、吸収も早いミルクのはずである。

 母乳は子供に適したミルクで、免疫力も高めるので、飲んだほうが良い。

 そして運動し、細胞の新陳代謝に必要なタンパク質や脂質を補給して、身体を強くする。


 ――消費した魔力細胞が、ミルクの成分で回復して補われて、強くなっていく。


 本当にそうなっているのかは、もちろん知らない。

 だが魔力も、身体に宿る力だろうから、C+に含まれると期待しておく。

 人類がE-からE+なので、俺は人類より、凄い魔導師になれるかもしれない。


 ほかのライオンも、土と光の属性は持っているようだ。

 だがライオンは文明を持たず、属性があっても、魔法を使えないのだろう。

 最高でも20歳程度の寿命、数十頭が最大という群れの数、自然や野生動物との日常的な戦い、火を用いないことで食事を消化するために費やす時間。

 それらはライオンが文明を築けず、魔法技術を生み出せない理由になるはずだ。


 ――物語でドラゴンが魔法を使えるのは、寿命が長いからかもな。


 様々な物語において、ドラゴンの寿命は非常に長かった。

 中国の『述異記』では、次のように解説されている。


『泥水で育った蝮は、五百年で蛟となり、蛟は千年で竜(成竜)となり、竜は五百年で角竜となり、角竜は千年で応竜となり、年老いた応竜は黄竜と呼ばれる』


 数千年も生きていれば、奇特な人間から話を聞く機会はあるだろうし、若いドラゴンに技術継承も出来るだろう。

 ライオンには無理だが、俺は人間の記憶があるので、文明も魔法も理解できる。

 また動物に発声機能の問題があったとしても、俺には言語翻訳の祝福があるので、「ミャオッ」と鳴こうと、ちゃんと正しい魔法言語になる。

 つまり俺は、人間よりも正しく魔法を使えるはずである。

 俺は人間よりも有利だと、自分を信じ込ませていたところ、母が帰ってきた。


「グゥゥゥッ」

「ミャオッ」


 近付いてきた母は、子ライオンを咥えていなかった。

 母ライオンの仲間のメスライオンは、同行していない。

 そして後ろの右足を負傷して、残る3本足で不格好に歩いていた。

 パッと見で判断したところ、スイギュウのツノに突き裂かれている。

 次の子供を連れて来られなかったのは、咥えて運べる身体ではなかったからだ。


 群れで狩りをするメスライオンが、1頭でスイギュウに挑むことは有り得ない。

 母が大怪我をしたのなら、母の仲間も戦闘している。

 従姉妹が一緒に戻って来られなかったのは、物理的に不可能だからだろう。


『トンネルバウ』


 俺が塞いでいた穴が、母ライオンが通れるほど広がっていく。


『こっち、入って』


 俺は穴から出て、母ライオンに避難を促した。

 そして出てこようとしたリオ達を、モフモフの頭突きで押し返したのであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 蘊蓄が楽しい。 転生陰陽師もですので、芸風というものでしょうか。 [気になる点] 家族半減!?
[良い点] 流石、ポイントを稼いでいた作家は知識も幅広く序盤の凌ぎ方もどうに入っている 実際に他の転生者と邂逅するときが重要な場面になりそうですね
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