表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ライオン転生  作者: 赤野用介@転生陰陽師7巻12/15発売
第1巻 ライオン転生

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/62

28話 辺境伯24人分

 エアランゲン辺境伯の城塞内には、想像通りに地下空間が存在した。

 地下は、莫大な物資を余裕で保管できるほど広かった。

 そこに俺が、空間収納で運んだ物資を搬入することになった。


「これが神代の力か」


 頻りに感心するのは、ヨハナの祖父であるランバート・エアランゲン辺境伯だ。

 辺境伯の隣にグンターが立ち、その後ろにヨハナの祖母であるアーリー・エアランゲン辺境伯夫人が、ヨハナと共に付いてきている。

 護衛の騎士は1人だけで、グンターとヨハナが信用されていることが窺えた。


 ――神代の力というのは、前にグンターが言った古代魔法と祝福か。


 意図的に転生しなかった場合の転生先は、幅広かった。

 2万5000分の2万4980が、人間以外の時代である。

 確率的には99.92パーセントが、人以前の時代だ。


 だが転生候補者も多くて、260万人も居た。

 そのうち半数が転生したとして、全員の時代を均等に割り振っても、1040人は20万年というホモ・サピエンスの時代に転生できている。

 過去1万年以内の転生者が、1040人を20で割って52人。

 1万年を52人で割ると、192年に1人は転生者が現れる。

 実際には、天使に上手く質問して時代を調整した者もいるだろうし、ドラゴンなどに転生して長命な者もいるだろうから、もっと多いだろう。

 そして意図的に転生できた者は、知能が高く、影響力も大きいはずだ。

 すると祝福が今世の人類に伝わっているのは、充分に有り得る話だ。


 ――俺の空間収納を知る人間は、今のところ5人だな。


 借りを返してもらう立場のグンターとヨハナは、言わないほうが得をする。

 辺境伯夫妻も、今回のように利用できるのだから、秘密は漏らさないだろう。

 護衛の騎士は、代々仕えている最側近であろうから、子孫も辺境伯に重用されるために、口を噤むと思われる。


 最悪の場合は、俺を繋ぐ鎖を空間収納で外し、土魔法で穴を掘って逃亡して、サバンナに逃げてライオンの振りをする。

 するとライオンの顔を見分けられない人間には、どれが俺か分からなくなる。

 そんな事を考えながら、俺は指定された場所に樽を置いて回った。


『地下、広いな』

「長い時間を掛けて、少しずつ広げていったものだ」


 辺境伯は、淡々と述べた。

 中世の技術力でも、巨大な地下空間は、建造できる。

 例えば、スペインの町アランダ・デ・ドゥエロだ。

 ワインの生産が盛んだったアランダは、温度や湿度を一定に保てる地下9メートルから12メートルの地下に、ワイン醸造・熟成のための空間を造った。

 地下では、換気が保たれており、町の端から端まで繋がっていたという。

 だが町の地下空間は、長い年月を費やして、徐々に伸びていったものだ。

 この城塞の地下空間も、そのように造られたのかもしれない。


「今回持ち込んだ保存食は、荷馬車60台分です。男爵領の保管庫に加えて、男爵領で流通が止まっていたものを集めてきました」

「保存食の中身は、何だ」

「何度も焼いて水分を飛ばした乾パン、塩漬け肉と燻製肉、チーズとバターミルク、葡萄酒です」

「パン、肉、チーズ、バター、酒か」


 グンターから目録を受け取った辺境伯は、顔を綻ばせた。

 荷馬車60台の積載量は、アフリカゾウ10頭分で60トンほどになる。

 ほかにも頼まれた物資、25トンの岩、5頭のスイギュウを入れている。

 それを成し得た空間収納の能力には、俺も驚いている。

 恐竜最大のアルゼンチノサウルスが、80から100トン以上と推計される。

 それが1頭入れられるので、いつの時代に転生しても、祝福は有用だろう。


 前世の記憶では、日本人の穀物消費量は、大雑把に年間150キログラム。

 その数字に当て嵌めれば、俺が運んだ食料は、400人が1年間食べる量だ。

 もちろん中世以前の人間は、21世紀の日本人ほどに食べるとは思えない。

 消費量を半分と見積もれば、将兵800人の食料1年分になる。


「ほかに薪、石鹸、ろうそく、矢も運びました。男爵領の倉庫は、空です」

「代わりに、金貨と宝石を持ち帰ると良い。それは食えぬからな」

「有り難く拝領します」


 大口の取引が纏まったようである。

 代わりに俺は、てんやわんやだ。

 クロサイ1頭の対価で、アフリカゾウ10頭分の物資を運び込み、グンターへの報酬である金貨と宝石を持ち帰るのは、割に合っていない気がする。

 しかも借りの返済は2回あって、次の要求はさらに大きいかもしれない。


『グンター、ちょっと働かせすぎていないか』


 俺の『ちょっと』は、日本人が好む、軟らかめの表現だ。

 これを外国語に翻訳すると『明らかに』となる。


「いやお前、自分と母親の命の値段だっただろう」

『それは仕入れた後の用途で、俺が取り引きしたのは、クロサイ1頭だった』

「でも買わないと、飢え死にしただろう。売り手は、俺だけだ。あれは時価だな」

『……ちっ』

「おい、念話で舌打ちをするな。聞こえているぞ」


 頻りに驚く辺境伯を尻目に、俺とグンターは熱い火花を散らしていた。

 するとヨハナが、俺の背中を撫でてきた。


「レオン、手伝ってくれて、ありがとうね」

『……まあ良い。グンター、借りは1つ返したぞ』

「おう、助かったぜ」


 ヨハナに御礼を言われた俺は、矛を収めた。


「ギール中隊長、この物資は、籠城戦用に蓄える。国軍と諸侯の軍も来ているが、領地の防衛責任者は、あくまで儂だ」

「了解しました」


 俺が物資を出していく中、辺境伯は同行する騎士に対して、物資を蓄えておくように命じた。

 グンターの顔が、やや険しくなる。


「僭越ながら閣下、物資の運搬者として伺いたく。戦況は、如何でしょうか」

「良くない」


 一瞬だけヨハナに視線を送った辺境伯は、率直に答えた。


「獣人の大隊1つに攻められ、後方を2個大隊に遮断されておる。こちらには、王国からの増援と、難民から募った義勇兵も加わったが、それも削られておる」

「獣人の大隊1つで、こちらの3個連隊に匹敵しますからな」


 グンターは納得している様子だったが、俺にはサッパリ分からない。


『グンター、聞いて良いか?』

「なんだレオン」

『狼獣人は1人で、人間の兵士何人分の強さだ?』

「8人分だな」


 人間の身体能力が、E-からE+。

 獣人の身体能力が、D-からD+。

 身体能力が1段階で2倍と考えれば、人間と獣人の差は8倍だ。

 すると獣人の戦士が1人居れば、人間は兵士8人を集めないと対抗できない。


『獣人の大隊は何人で、人間の連隊は何人だ』

「獣人は、1個大隊400人。マルデブルク王国は、1個連隊1080人」

『つまり獣人の400人は、人間の3200人分というわけか』

「そうだ」


 やはり力の差は、8倍であった。

 つまりエアランゲン辺境伯領は、3200人分の敵兵に攻められており、後方を6400人分の敵兵で遮断されている。


 ――辺境伯領は、人口6万人だったな。


 農民や職人が居なければ社会が成り立たないので、徴兵には限度がある。

 中世の軍隊は、人口の0.5パーセントから2パーセントほどと計算される。

 人口の1パーセントが軍隊の場合、男性の50人に1人が現役の軍人だ。


 1パーセントの場合、辺境伯領が6万人なら、軍人は600人前後だ。

 治安維持の人間を除き、400人を戦争に動員できたとして、辺境伯領の兵士で獣人の1個大隊と戦うには、8倍の戦力が足りない。

 しかも獣人帝国は、辺境伯領の後方にも、2個大隊を展開している。

 そちらにも、16倍の戦力を出さなければならない。

 つまり侵略者に対抗するには、辺境伯24人分の兵士が必要になる。


『ちょっと厳しいんじゃないか?』


 俺の「ちょっと」という表現には、日本人の思いやりが含まれている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私の投稿作が、TOブックス様より刊行されました。
【転生陰陽師・賀茂一樹】
▼書籍 第7巻2025年12月15日(月)発売▼
書籍1巻 書籍2巻 書籍3巻 書籍4巻 書籍5巻 書籍6巻
▼漫画 第2巻 発売中▼
漫画1巻 漫画2巻
購入特典:妹編(共通)、式神編(電子書籍)、料理編(TOストア)
第7巻=『七歩蛇』 『猪笹王』 『蝦が池の大蝦』 巻末に付いています

コミカライズ、好評連載中!
漫画
アクリルスタンド発売!
アクスタ
ご購入、よろしくお願いします(*_ _))⁾⁾
1巻情報 2巻情報 3巻情報 4巻情報 5巻情報 6巻情報

前作も、よろしくお願いします!
1巻 書影2巻 書影3巻 書影4巻 書影
― 新着の感想 ―
[良い点] 獣人にとって祝福持ちで人間に協力したライオンはどう見えるのかますます気になってきた
[良い点] 獣人が強いな〜でも身体強化魔法とか使えるのかな? まぁ、スポーツにしても何にしても身体能力の差は出ますもんねえ。 弓とかでなんとかできないのかな?
[良い点] ちょっとはいいオブラートな言い方w [一言] 獣人強いなぁ。とはいえ身体能力の差でそれだけ実力差が出るってのはC+のレオンからしたら良情報ですね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ