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ライオン転生  作者: 赤野用介@転生陰陽師7巻12/15発売
第1巻 ライオン転生

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26話 荷運びの依頼 ★地図有り

「頼みたいのは、荷運びだ」


 そう告げられた俺は、グンターの隊商に同行し、カッセル男爵領まで移動した。

 ガラガラガラと、荷馬車の集団は、のんびり進んでいく。


「最初に向かうカッセル男爵領は、東へ1日移動した位置にある」

『かなり近いな』


 地球における馬車の移動速度は、1日30キロメートルだと聞いたことがある。

 つまり俺の群れから30キロメートルの位置に、人間の町があるわけだ。

 人間が狩りに行こうと思えば、わりと簡単に来られる距離だ。それはライオン側にとって、あまり好ましくない情報だ。

 だが幸いにして、グンター達が所持していたのは剣や槍だ。

 銃器は発明されていないか、商人のグンターでは入手できないと思われる。


 ――俺が寿命を迎えるくらいまでは、大丈夫かな。


 いずれライオンの一部は、前世のように人間の管理下に置かれるだろう。

 野生動物を追いかけるライオンは、人類の技術進歩に付いていけない。

 逆転するためには、繁栄を謳歌した恐竜が巨大隕石で滅んで、哺乳類が台頭したように、人類を壊滅させる出来事を経なければならない。

 可能性としては、宇宙人との宇宙戦争で敗北して壊滅させられたり、俺達を転生させた上位存在に介入されたりするなどが、考えられる。

 その時のライオン達には、頑張って人類に逆転してほしいと思う。


「カッセル男爵領は、あくまで貿易の中継地点だ。俺は、南のカストル侯爵領から、北のエアランゲン辺境伯領に荷を運んでいる」

「ガオォッ」

「お前には、荷運びを手伝って貰いたい……って、聞いているのか?」

『聞いている。説明を続けてくれ』


 妄想の世界から舞い戻った俺は、グンターの話に耳を傾けた。


「辺境伯領は、男爵領から馬車で2日。中間の港町ビンゲンを支配されて、陸路が使えなくなった。そこで翼が生えたヒッポグリフで、空路で運ぶ。これが地図だ」


挿絵(By みてみん)


 グンターが、地図を見せてきた。

 男爵領から辺境伯領までは、馬車で2日。

 だが侵略を受けており、陸路は使えないので、空路で移動する。

 ヒッポグリフという大鷲馬を使うので、俺の空間収納を利用したい。

 すると運ぶのは、軍需品だろうか。


 ――戦争とは、厄介な話だ。


 大前提として、俺は戦争に口出しできる立場ではない。

 なぜならライオンも、オス同士で戦うし、ハイエナとも殺し合うからだ。

 グンターが「隊商が通るルートのハイエナを壊滅させるから、力を貸してくれ」と言ったら、俺は受けるつもりだった。

 だから相手が人間に変わろうとも、力を貸す方針に変わりはない。

 だがヨハナを戦地に連れて行くのは、いかがなものかと思った。


『争いは否定しないが、ヨハナを戦場に連れて行くのは、あまり感心しない』

「耳の痛い話だ」


 グンターは、俺の言い分が至極真っ当だと、肯定するような態度だった。

 俺の身体を撫でているヨハナも、うんうんと頷いて見せる。

 だが弁解は、ヨハナの口から出てきた。


「エアランゲン辺境伯は、わたしのお母さんの、お父さんなの」

「ガオォ……」


 ヨハナの一言で、俺の主張は吹き飛んだ。

 侵略された領主が、自分の家族だけを安全地帯に逃がせば、領民は怒る。

 もちろん侵略前に他所へ嫁いだ娘なら、領地に呼び戻せとは言わない。

 だが知らぬ顔は出来ないだろうし、物資の輸送に協力するのは、領民が納得できる妥協ラインかもしれない。

 納得した俺に対して、グンターが補足した。


「俺自身は、カッセル男爵の弟で、士爵という下級貴族だ。病死したヨハナの母とは、駆け落ちに近かった」


 辺境伯とは、辺境に領地を持つ伯爵だ。

 特徴としては、独自に軍を動かす権限を持っている。

 通常の伯爵よりも権限が大きくて、侯爵相当と見られることもある。


 ――男爵の弟と、辺境伯の令嬢とでは、身分が釣り合わないな。


 日本では明治維新後、1万石以上の家老が男爵に、30万石以上の大名家が侯爵に叙された。

 グンターとヨハナの母との結婚は、家督を継がない家老の子供が、30万石以上の大名家の姫と結婚するようなものだ。

 それは政略結婚では、有り得ない選択肢だ。

 普通は他所の大名家、皇族や華族、大名家の役に立つ有望な家臣に嫁がせる。


『ヨハナは、お姫様か』

「わたしは、お姫様じゃないよ。お祖母様が、元ハイルブロン公爵令嬢で、曾お祖母様がマルデブルク王国の王女だったけど」

『グンター、よく結婚できたな』

「まったくだ」


 グンターは、苦笑いの表情を浮かべた。


「元々、獣人帝国が西進して、きな臭かった。それで、後方に領地を持つ男爵家と縁を繋ぐ価値があったのだろう。言っていることは、分かるか?」

『大丈夫だ。今のところ分かる』


 頷いたグンターは、やむを得ざる事情を口にした。


「エアランゲン辺境伯と正妻との子供は4人。娘3人が嫁ぎ、嫡男は防衛戦で散った。娘のうち2人は、ほかの貴族に嫁いでいる。ヨハナは、難しい立場だ」

『ほかの貴族から養子をもらえば、家を乗っ取られる可能性もあるわけか』

「お前はライオンなのに、よく分かるな」


 前世が人間だったとは言わずに、俺は前世の知識を基に尋ねた。


『辺境伯には、2人目の妻や子供は、居ないのか』

「家督争いを避けるため、正妻は公爵家出身で、側室は男爵家出身を選んでいる」


 公爵は徳川宗家で、男爵は他藩の家老のようなものだ。

 両者が実家を巻き込んだ争いをすれば、まったく勝負にならずに決着する。


『だがヨハナは、士爵の娘だろう。辺境伯家を継ぐ資格は、あるのか』

「辺境伯が、ヨハナを男爵令息と辺境伯令嬢の娘として、王国に届出している。身元保証人は、男爵と辺境伯のほかに、ヨハナの祖母の兄である公爵も名を連ねた」

『それは王国も、直系の孫だと、認めざるを得ないな』

「片親が上級貴族家で、もう片方が貴族なら、上級貴族の魔力水準に成り得る。あとは中級精霊1体と契約が出来れば、ヨハナは、辺境伯を継ぐ資格を得られる」

『精霊?』

「爵位家を継ぐ資格の要件に、精霊との契約がある」


 グンターの説明を纏めると、次のようになった。


・上級貴族  公爵から伯爵 1体の中級精霊と契約。

・貴族    子爵から男爵 2体の下級精霊と契約。

・下級貴族  準男爵    継承資格、無し。

       士爵     2体の下級精霊と契約。

・騎士階級  騎士爵    叙任を受ける。


 中級精霊と契約すれば、誰でも上級貴族になれるわけではない。

 功績で叙爵されるか、継承資格を持った血縁者の世襲で、上級貴族になる。

 ヨハナの場合、中級精霊1体と契約すれば、辺境伯の継承資格を得るらしい。

 それを本人が望むのかは、また別の話だが。


「それで俺は、物資の輸送くらいは、やっているわけだ」

『大雑把に理解した。それでは、他所に行けないな』


 グンターは、おそらく辺境伯家や男爵家から支援を受けて、荷馬車の隊を運用している。

 商売の経験がない男爵令息が交易商人になるのは、困難だ。

 だが依頼人が辺境伯で、中継地点が男爵領、軍需品を買い付ける土地の貴族にも話を通せば、どこにも困難など発生しない。


 ――辺境伯は、嫁に出た娘と、孫の支援目的かな。


 男爵家も、辺境伯との関係性や国防で支援するだろう。

 商隊や男爵領にある家では、辺境伯家の家庭教師が、ヨハナに貴族の教育をしているかもしれない。

 ヨハナを戦地に連れて行く理由に納得した俺は、グンターに尋ねた。


『さっき獣人帝国の西進と言っていたが、人間と獣人の戦争なのか?』

「そうだ。俺達の国に来たのは、第四軍団。狼の獣人達だ」


 こちらの世界には獣人なる存在がいて、人間と戦争しているらしい。

 転生時、天使は獣人の身体能力をDと言っていた。

 それにしても狼の獣人とは、なかなか強そうである。


 ――進化の分岐は、何百万年前かな。


 獣から獣人への進化は、一見すると難しいように思える。

 だが雑食性の獲得と、食物の消化能力向上が達成できれば、実現可能だ。


 雑食性の獲得は、それほど難しくない。

 肉食性が、雑食性になる環境変化があれば良いだけだ。

 人類は、動物の家畜化からわずか数千年で、ミルクの乳糖耐性を獲得した。

 その程度の環境変化でも、雑食性の獲得は実現する。


 食物の消化能力向上に関して、人間は火を使用した。

 肉を加熱すると、消化効率が良くなる。すると胃腸が小さくなって、その分だけ脳の容量を大きくすることが出来て、知能が大幅に発達した。

 また食物を消化する時間が減った分だけ、活動できる時間が増えた。

 獣人達の祖先が、こちらに存在する属性で着火を行うか、進化や変異で優れた消化能力を獲得できれば、獣人に進化できたかもしれない。


 ちなみに俺の出身種族は、普通のライオンである。

 獣人が人間に勝っても、それがライオンの利益に繋がるとは限らない。

 俺が生物としてすべき事は、自分と子孫の利益追及である。


『2回、手伝う』


 さしあたって俺は、自分の借りを返すことにしたのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 精霊契約のある貴族の仕組みの説明でおや?と思ったら『悪役令嬢〜千夜一夜物語〜』の作者様でしたか! こちらの連載もすでに完結済みとのことで、ここからレオンがどんな成長を遂げるのか、楽しみに読み…
[良い点] 獣人vs魔法を使うライオンになってしまうか? 獣人側にそろそろ転生者が混じってそう
[良い点] グンターすげぇ。 爵位を含む人間社会の話を理解するライオンの存在を受けいれる事が出来ているって、いやはや、凄い。 まあ、言葉が通じるという点で、もうアレかもしらんですが。 [一言] 銀河帝…
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