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ライオン転生  作者: 赤野用介@転生陰陽師7巻12/15発売
第1巻 ライオン転生

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25話 1回目の返済

 ――スイギュウ6頭を手に入れたけど、皮膚を切れなかった件について。


 狩ったスイギュウは、以前手に入れた時のように、土葬した。

 そこまでは良かったが、俺の爪では切り裂けず、食べられなかった。

 現状を端的に纏めると、そういうことになるだろうか。


 6頭のスイギュウは、先頭を走っていただけあり、大人ばかりだった。

 中型犬では、軽自動車には歯が立たない。

 呆れたリオを尻目に、掘った落とし穴だけは、きちんと埋めておいた。


 釣ったスイギュウ30頭のうち、24頭には逃げられた。

 逃げたスイギュウ達は、低木と落とし穴の組み合わせを、警戒するようになる。

 だが落とし穴を埋めれば、一度も見たことがないスイギュウ達は、警戒しない。

 俺はナワバリを出るオスなので、あと数回、引っ掛かってくれれば良いのだ。

 穴を埋めて帰った俺は、回収した6頭のうち1頭を、群れの近くに置いた。


『わぁ、こんなところにスイギュウが、倒れてるー!?』


 出したスイギュウのところに母達を呼んだところ、群れの食事が始まった。

 俺がスイギュウを供出したのは、腹が減ったからだ。

 自分で切り分けられれば良いが、スイギュウが相手では、ちょっと難しい。

 そのため、獲物を奪うオスライオン達が出払っている隙に、1頭を出した。

 するとメスライオン達が、頑張ってスイギュウの身体を裂き始めた。


 ――流石、大人のライオン。


 スイギュウの皮は厚くて、大人のライオンの爪も、ガリガリと削れる。

 人間に飼われるネコ科動物は、爪切りされる。

 だが自然では、獲物を引き裂く際に爪が削れるので、爪切りはしない。

 爪が削る格闘の末、ついにスイギュウの硬い皮膚が裂けて、肉が露出した。

 そこからは俺達も加わって、軟らかい肉を、もぐもぐと食べ始めた。


 ――新鮮な海鮮丼。マグロ、ウニ、トロ、イクラ、イカ。


 豪勢だが、その日暮らしのライオンは、いつでも肉を食べられるわけではない。

 腹が減ったらスイギュウを丸ごと1頭出せば良いが、在庫は残り5頭だ。

 1頭で1週間保つが、大きな干ばつが来れば終わりだ。来るのかは知らないが、来たときに焦っても遅い。

 前世持ちの俺が人間の利用を思い付いたのは、必然であろう。


       ◇◇◇◇◇◇


 6頭のスイギュウを狩ってから20日。

 街道沿いに、発信器の魔法を掛けた石の反応があった。

 その間、スイギュウを食べた群れは、次を探し、やがて諦めて狩りを再開した。そして今日は、新たなスイギュウを狩って、食べ始めたところだった。

 群れでも食べ尽くすのに、しばらく掛かる。


 ――これから1週間は、動かないだろうな。


 あまりにもスローライフ過ぎて、俺の頭の中が空っぽになるかと思った。

 いくらスローライフをしたくても、獣になるのは、よく考えたほうが良い。


『グンター、ヨハナ』


 俺の鳴き声を聞いたグンターは、剣を引き抜いた商隊の男達を手で制した。


「待て、知り合いだ」

「知り合いですか。そのライオンが?」


 剣を抜いた男が、疑わしげな瞳を俺に向ける。

 グンターの言葉を疑うのは、極めて正常な反応だ。ここで俺が単なるライオンの振りをすれば、グンターは頭のおかしな人で確定である。

 だがクロサイという借りの返済が残っており、手持ちのスイギュウも切り分けてもらいたい俺は、真面目に反応した。


『ライオンのレオンだ。少し前、取引した。グンター、ヨハナ、久しぶり』

「おう。お前、でかくなったな」

「ええっ、マジっすか?」


 剣を握っていた男は、まじまじと俺の姿を見つめた。

 現在の俺は、推定体重26キログラム。

 大型犬の末端に、ギリギリ連なれるくらいの大きさだ。

 そろそろゴールデン・レトリバーとは、良い勝負が出来る。

 勝てるとは限らないので、俺は魔法を使うが。


「レオン、おっきい!」

『ヨハナ、久しぶり』


 馬車から降りたヨハナが、パタパタと走ってきて、俺の首に抱きついた。

 絵面は、大型犬に抱きつく10歳児に近いだろうか。

 俺は大型犬の気持ちになって、掴まれるままになった。


「レオンは元気だった?」

『元気だ。大きくなって、肉も、食べるようになった。ミルクは、もう飲まない』

「お肉って、何を食べるの?」

『スイギュウ。でも爪が小さいから、切れない。グンター、ナイフで切り込みを入れてくれ』


 雑談のついでにグンターに要求を出したところ、グンターは鋭い目を向けた。


「レオン、お前は俺に、2回分の借りがあるのを覚えているよな」

『覚えている。ちゃんと返すから、安心しろ。今は、大きくなっている最中だ』

「だったら良い。おい、少し外すぞ」


 俺の空間収納を見せたくないのだろう。

 グンターは馬車を守る同行者に、この場を離れると伝えた。


「グンターさん、大丈夫ですか」


 最初に剣を抜いた青年が、心配そうに辺りを見渡した。

 大型犬程度の俺は、あまり危険視していない様子だ。

 彼が警戒しているのは、ライオンやハイエナの群れだろうか。

 だがここは、俺が所属する群れのナワバリだ。

 俺の群れは、スイギュウを食べてお腹一杯になり、ゴロゴロしている最中だ。

 ここには来ないし、来ても俺が言えば、攻撃しないだろう。

 ハイエナのほうは、俺達との戦いに負けて以降、離れた場所に移住している。


『ライオンとハイエナは大丈夫。ほかは知らない』

「ライオンとハイエナが問題なければ、あとは大丈夫だろう。よし行くぞ」

『分かった』


 グンターが移動するのに付き従って、俺とヨハナも歩いて行った。


「もう抱っこできないくらい大きいね」

『前は、世話になった。俺が1歳になれば、ヨハナを背中に乗せてやる』

「ええ、重いよ」

『1歳で無理だったら、2歳だな』


 俺なら、1歳で体重80キログラム、2歳で130キログラムに成れるはずだ。

 それでもメスライオンより弱いが、ヨハナを乗せるくらいであれば可能だろう。

 ちょっとだけ、わくわくしている様子のヨハナと一緒に、木陰に入った。


「どんな風に切ってほしいんだ」

『剣かナイフで腹を割いて、開いてほしい。俺の爪だと、全然出来ない』

「よし、スイギュウを出してみろ」


 俺は言われたとおりに、空間収納に入れたスイギュウを出して、木陰に置いた。

 するとグンターはナイフを取り出し、スイギュウの腹に、切っ先を突き入れる。

 前世で大きな魚を捌く際は、腹に包丁を入れて、滑らせていた。

 そんな感じで腹を裂いたグンターは、呆れた声を上げた。


「おいおい、血抜きをしていないのか?」

『俺はライオンだから、血抜きは不要だ』

「そういえばお前は、ライオンだったな」


 俺が会話をするから、人間を相手にするような取り違えをしたのだろう。

 俺を眺めたグンターは、溜息を吐き、スイギュウに切り込みを入れた。

 転生時、人間の身体能力はE-からE+だと聞いた。

 だが人間は、C+のライオンが持つ牙や爪より強力な武器を所持し、クロサイも倒す。そんな人間のナイフだけあって、スイギュウの皮は良く切れた。

 切り口から囓っていけば、俺でもスイギュウは食べられるだろう。

 グンターはスイギュウを切りながら、俺に尋ねてきた。


「お前の力で、どれくらい運べるんだ」

『少なくとも、スイギュウ50頭分以上。限界まで試したことは無い』


 空間収納には、スイギュウを落とした穴の土や、ハイエナを倒した推定25トンの岩も収納している。

 合計50頭分以上は、確実に運べるだろう。


「それを運んで、お前は重くないのか」


 グンターは真剣な表情を浮かべて、俺に尋ねてきた。

 クロサイの借りの返済について、祝福の力を頼りたいのかもしれない。

 そう判断した俺は、正直に伝えた。


『俺が持ち運ぶわけじゃない。荷馬車に入れて、付いてこさせるようなものだ』

「つまり、お前自身は、軽いんだな?」

『見た目のとおりの軽さだ。グンターなら、俺を持ち上げられるだろう』

「ちょっと持ち上げさせてくれ」

『別に構わないぞ』


 俺はオスだから構わないが、メス相手にそれを言えば、セクハラかもしれない。

 そのようにくだらない事を考えながら、俺はグンターの傍に寄った。

 するとグンターはナイフを置いて、モフモフの俺をヒョイッと持ち上げた。


「ほお、ヨハナより軽いな」

「わたしがお姉ちゃんだね」


 ヨハナはニコニコと、ご満悦の表情を浮かべた。


『あと2ヵ月ほどで、俺のほうが重くなるだろう。年齢はヨハナが上だが』


 俺はヨハナが姉である点を否定しないよう、バランスを保ちながら補足した。


「良し分かった。今のお前は、かなり軽い」


 俺を降ろしたグンターは、商人の目で俺を見つめてきた。


「ちょっと早いが、1つ借りを返してくれないか」

『なんだ。少しの外出は母が認めてくれるが、まだ遠出は難しいぞ』

「何日くらい出られるんだ」

『7日以内に、群れに帰してくれるなら、大丈夫だろう』


 母ライオンは、俺の自由行動を認めてくれている。

 年齢で見るのではなく、自分で行動できるかで判断しているのだろう。

 だが離れ過ぎると、俺は自立したと見なされるかもしれない。

 オスライオンの自立とは、群れからの独立だ。

 流石に自立するには早いので、程々で戻る必要がある。


「7日か。ギリギリだな。いや、帰りにヒッポグリフを使えば良いか」


 ヒッポグリフとは、前世では空想上の存在だった『上半身が鷲、下半身が馬』の飛行生物だ。

 グリフォンという『上半身が鷲、下半身がライオン』のオスと、メスの馬との間に誕生した生物とされ、グリフォンより気性が穏やかで、乗馬に向くという。

 そんなヒッポグリフを使って移動することが、グンターの考えであるらしい。


 ――鷲や馬は、自身の体重と同じ重さのものを運べるというが。


 ヒッポグリフの飛行速度は、どれくらいだろうか。

 俺が想像を巡らせる間、グンターは悩んで結論を出したらしく、俺に告げた。


「レオン、協力してくれ。1回目だ」

『それは良いが、先にスイギュウを切ってくれ。食べ易いように、細かく頼む』


 さり気なく要求を増やしつつ、俺はグンターの依頼を引き受けた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ワクワクしてきたな。外の世界だ。まあ既に完全な外なんだけど。
[良い点] おー、遂に異世界のまだみぬモンスターと会える?! チート会話能力でどんな台詞が聞けるか楽しみです
[良い点] なんか良いな~。 んー、主人公とグンターの関係が。 ライオンと人間でありながら、会話が成り立つ。交渉ができる。 そこが良い感じ。 主人公はまあ、当然として。 グンターがなかなかです。
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