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ライオン転生  作者: 赤野用介@転生陰陽師7巻12/15発売
第1巻 ライオン転生

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21話 イノシシ掘り

 食べられないと分かると、食べたくなることがある。

 経営難で閉店する料理屋が、最後の月に混むことは、前世でもよくあった。

 ニュースで取り上げられた時、それほど食べたいのなら、閉店に追い込まれる前に行けば良いのにと考えたりもした。


 だが、数多ある選択肢で、「食べられない」というスパイスを振り掛けられた料理が、より美味しく感じられるのかもしれない。

 つまりエムイーの独立時に、イボイノシシ狩りをし損なった俺達の群れには、イボイノシシのブームが来ているわけだ。


『ここに入った』


 イボイノシシは、ライオンよりも僅かに足が遅くて、視力も相当低い。

 ライオンは、普通の人間の5倍もの視力があって、1キロメートル以上離れた獲物も簡単に見つけられる。

 それに対してイボイノシシは、視力0.1ほどだとされる。

 平原を走って逃げる場合、ライオンの2倍も遠くが見えるシマウマならば進路を間違わないが、イボイノシシの場合は、追い詰められる。

 そんなイボイノシシの生存戦略が、近場の巣穴に逃げ込むことだ。

 いくつもの避難場所を用意するイボイノシシは、巣穴に逃げ込んで難を逃れる。


『掘ろう』

『捕まえよう』


 メスライオンが仲間同士で伝え合った後、穴掘りを開始した。

 前脚で土を掻き出して、周囲に捨てていく。

 人間が手で掘るよりも圧倒的に早くて、掘り方も上手だ。

 土煙が舞い上がるが、ライオンの後ろに立ち上り、視界は遮っていない。

 俺は安心して見守りながら、リオに話し掛けた。


『あいつらはハイエナと違って、逃げ込むための巣穴が、いくつもあるらしいぞ』

『へぇ、いくつも掘るの?』

『ほかの奴が掘った巣穴を使うこともあるし、自分で掘ることもあるそうだ』


 それなりに個体差はあるが、イボイノシシの肩高は70センチメートル前後で、メスライオンの肩高110センチメートル前後よりも小さい。

 巣穴のサイズはイボイノシシ向きで、大人のライオンでは入れない。

 そのためイボイノシシを捕まえる時は、巣穴を掘ることになる。


『あっちに居るシマウマを捕まえれば良いのに』

『今日は、イボイノシシの気分なんだろう』


 リオが視線を向けた遥か先には、シマウマがトコトコと歩いていた。

 かなり遠くにいるが、流石は人間の5倍もの視力である。

 メスライオン達も視認しているが、射程圏外なので、狙おうとはしない。

 シマウマもこちらを見つけているはずで、近寄れば逃げていくだろう。


 シマウマを追うのと、穴掘りとでは、どちらが効率的だろうか。

 イボイノシシの巣穴の長さが分からないので、判断は付かない。

 ツチブタの巣穴を再利用していたり、避難所ではなく子育て用のメインの巣穴だったりすると、穴の長さが伸びるのだ。

 相手は逃げられないが、掘っている最中に巣穴の長さは分からない。

 穴掘りが嫌になった時点で、ライオンの根負けとなる。


『ビスタなら、ギリギリ入れそうかも』

『身動きが取れない巣穴で、正面から突進されたら、結構危ないぞ』


 ライオンが強くても、動けない時に一方的に攻撃されれば、大怪我をする。

 イボイノシシの牙は、オスが25から30センチメートル。最長では、67センチメートルの記録がある。

 メスの牙は、15から25センチメートル。

 ニホンイノシシは、メスの牙が2センチメートルなので、10倍の長さだ。


 ――日本のイノシシとは、全然違うな。


 矛先が20センチメートルの石槍で、突かれるようなものである。

 それが『イボイノシシ属』と『イノシシ属』の違いの一つであろうか。

 イボイノシシは、強力な牙を使って巣穴を掘り、子供を守っている。


『アンポンタンは?』

『穴でも動けるけど、もっと危ないかもしれない』


 子供を狙うヒョウやハイエナが、メスのイボイノシシに撃退されることもある。

 アンポンタンは、ブチハイエナの体重を2割から3割ほど上回ったところだ。

 巣穴の中で動けても、勝利が不確かな戦いは、挑まないほうが良い。

 だが大人のライオンであれば、イボイノシシには勝てる。

 メスライオン達には、ぜひとも頑張ってもらいたいと思う。


 幼獣の俺が暢気に見守っていたところ、メスライオンの一頭が、ついに穴からイボイノシシを引き出した。

 背筋を咥えて、四肢を踏ん張り、力強く引き摺り出していく。


「ピギイイイィッ」

「グガガガガアッ」


 巣穴を囲んでいた6頭が、四方から一斉にイボイノシシに噛み付いた。

 まるで神輿のように、全頭で穴から離れた場所へ引っ張っていく。

 イボイノシシは必死に悲鳴を上げるが、ライオンが放したりはしない。

 さあ食すぞという段階に至った。


 ――新鮮な猪鍋だ。


 刹那、俺達の食卓に、乱入者が現れた。


「グルァアアアッ」


 雄叫びを上げて、割って入ったのは、父達オスライオンであった。

 オス2頭に割って入られたメス達は、サッと避けて場を譲る。

 残ったのは、喉元を噛んで首を絞めているメス1頭だけだ。

 獲物の喉を噛んでいるメス1頭以外を押し退けたオス達は、イボイノシシの柔らかい下腹部に食らい付いて、勝手にムシャムシャと食べ始めた。


「ピギイイイイィッ、ピギイッ」


 乱入されたせいか、メスが押さえた喉元は、しっかりと締め切れていない。

 足をバタバタさせたイボイノシシは、その動きでオスの頭を何度も蹴る。

 だがオス達は気にせず、足の付け根に噛み付いて、鋭い牙で力強く引っ張った。

 皮膚を食い破って肉が見えたが、それくらいでイボイノシシは死なない。

 イボイノシシは元気に、「ぎゃーっ、放せ、コノヤロー」と叫び続けた。


『えーっ』


 メスライオン達の穴掘りの成果を奪ったオスライオン達に、リオはどん引きだ。

 2頭がやっていることは、エムやイーと同じである。

 流石は親子だが、今回のメス達はオスを攻撃せず、素直に引き下がった。


『オスライオンが獲物を取るのは、普通らしいな』

『狩りで、何もしていないのに』

『ハイエナは追い散らすだろう。それに他所のオスからも、俺達を守っている』


 メスライオンがオス達の行為を許容するのは、用心棒代だからだ。

 オスが居なければ、他所のオスが来て、群れの子供を殺してしまう。ハイエナ達も食料を強奪して、やりたい放題だ。

 オス達は差し引きで、メスと子ライオンの生存率を引き上げている。

 だからライオンのオスは、メスの群れに居ることが許容されている。


『狩りにも参加すれば良いのに』

『ほかのオスやハイエナが来た時のために、力を温存しているらしい』

『うーん』

『母達に比べれば狩りが下手で、手伝っても邪魔になるんじゃないか』


 オスは、メス達が苦戦する大きな獲物に噛み付いて、倒すこともある。

 キリンや象に襲い掛かり、大物相手にやる気を出すこともあるらしい。

 あくまで気が向いたらで、メスライオンもアテにはしないそうだが。


『すげぇ!』


 ギーアが羨望の眼差しで、食料を奪った父達を見ていた。

 そしてリオとミーナが、冷めた眼差しをギーアに向けている。

 これは拙いと思った俺は、弁明を試みた。


『俺は家族サービスする派だぞ。クロサイやスイギュウ、出しただろう!』


 俺はミルクを確保するために、クロサイを獲得してきた。

 そしてハイエナとの戦い後、確保していたスイギュウを供出した。

 言及で思い出したのか、リオとミーナが、俺に納得と感心の眼差しを向けた。

 父達、エムイー、ギーアと比べて、良いオスライオンと思ったはずだ。


 ――とりあえずポイントは稼いだな。


 これで俺とギーアが主導権争いをした場合、二頭が俺に付く可能性が高まった。

 俺の将来は、少し明るくなったかもしれない。


 そんなことを考える間に、父達はイボイノシシの身体を半分くらい食べていた。

 それを見たメスライオン達は、最初に捕まえたイボイノシシを諦めたらしい。

 次のイボイノシシを求めて、再び巣穴を掘り始めたのであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 幼いオスライオンの…政治活動!
[良い点] そりゃそうか、獲物の断末魔も聴こえてたんですね メンタル鍛えられるなぁ
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