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ライオン転生  作者: 赤野用介
第1巻 ライオン転生
19/62

19話 独立騒動

 姉達のシマウマ狩り後。

 子供達の狩りを見守っていたメスライオン達が、イボイノシシを追い始めた。

 子供のシマウマ1頭では、全員の食事に足りないと思ったのだろう。

 あるいは子供達から、狩りの成果を奪わないようにと考えたのかもしれない。


 ――狩っても親に取り上げられるなら、狩らなくなるからな。


 ライオンは、子供に狩りを教える生き物だ。

 獲物を弱らせた上で意図的に放して、子供達に続きを任せることがある。また小さな獲物は、自分で食べろと促すこともある。

 それはライオンに限らず、ほかのネコ科動物にも見られる行動だ。


 そんなメスライオン達が、シマウマの代わりに狙ったイボイノシシは5頭。

 メス1頭と、一回り小さな子供と思わしき4頭の群れである。

 だが残念ながら、避難用の巣穴があって、即座に逃げ込まれてしまった。


『掘ろうか?』

『掘って、捕まえよう!』


 巣穴の前に陣取った大人達は、前脚で器用に、巣穴の周りを掘り始めた。

 後ろ足の間から、掻き出した土をザクザクと捨てていく。

 まるで工事現場であるかのように、巣穴の周りで土煙が上がった。


『あれ、美味しいのかな』


 メスライオン達の行動を不思議そうに眺めていたリオが、隣に居た俺に尋ねた。

 俺もリオも、まだイボイノシシを食べたことはない。


『美味しいと思うぞ。あれだけ熱心に、掘っているからな』


 そう答えた俺の根拠は、前世で豚を食べた経験に基づく。

 豚は、人間が1万年ほど前に、野生の猪を家畜化した生き物だ。

 そのため豚の分類は、イノシシ科イノシシ属の亜種となる。


 ――日本でも飼育されていた豚の説明なら、トピよりも楽だな。


 人間が飼育する豚は、食用に適した品種改良がされてきた。

 猪は年1回、豚は2回、子供を生む。

 猪は1度に5頭、豚は10頭を生む。

 猪は1年で30キログラムに育ち、豚は100キログラムに育つ。

 猪は2年で生殖可能になり、豚は10ヵ月未満で生殖可能になる。

 猪に比べて豚は胴が長くなり、可食部分が増えた。


 そこそこ異なるが、猪と豚は交配可能で、子供も生殖能力を有する。

 たかだか1万年で、猪と豚は、同種に近い亜種だ。

 つまり猪の味は、豚に近い。

 肉質は豚より硬いが、俺達は人間よりも牙が丈夫なライオンである。


 ――豚肉が不味ければ、全人類で10億頭近くも飼育するはずがない。


 今回狙っているイボイノシシは、顔にイボのような突起がある猪だ。

 豚と同じイノシシ科だが、『イボイノシシ属』で『イノシシ属』と若干異なる。

 ネコ科の『ネコ属』と『オオヤマネコ属』くらいの差は、有るかもしれない。


 食事として考えた場合、生肉が美味しい海鮮丼に感じられる俺にとっては、マグロがネギトロ、甘エビがボタンエビに変わっても、特に問題は無いが。

 そんな美味しいイボイノシシは、様々な肉食動物から狙われる。

 人間にとっての高い海鮮丼と同等の美味しさであれば、無理からぬ話だ。


「ガオォーッ」

「ピギイィッ」


 穴の中で、イボイノシシの悲鳴が上がった。

 メスライオンの爪が、穴の中に居るイボイノシシの身体を引っ掻いたらしい。

 普通は静かに隠れるが、顔を引っ掻かれては、悲鳴が上がっても無理はない。

 悲鳴で分かったのは、巣に横穴が無くて、近い場所に潜んでいることだ。

 狩れると認識したメスライオン達は興奮して、土を掘る速度を上げていった。


 ――イボイノシシの子供は、おそらく大人よりも美味しいな。


 小さいほうが、肉が軟らかい。

 身体に必要な栄養だって、子供のほうが詰まっているだろう。

 できれば、子供のイボイノシシを食べてみたい。

 子供は4頭居るのだから、少しは食べられるだろうか。


『腹が減った』

『ビスタが狩ったシマウマ、食べたら?』

『エムイーが、アンポンタンを押し退けたからなぁ』


 食事中のオスライオンは、気が立っていて危険だ。

 隣で食事をするメスにライオンパンチを放ち、追い払おうとすることもある。

 エムイーは体重130キログラムほど、アンポンタンの体重80キログラムほど。両者は、大人のオスライオンとメスライオンほどの差で、追い払う一撃では、大きな怪我は負わない。

 だが俺の場合、体重130キログラムの巨漢で、小学1年生を突き飛ばす形だ。君子危うきに近寄らずである。


『巣穴のほうに行こう』

『シマウマは食べないの?』

『エムイーが興奮して危ないから、俺達は止めたほうが良い』


 説明を聞いたリオは、ビスタが押さえているシマウマを見て、納得を示した。

 リオは頭が良くて、俺が伝えたことをちゃんと理解できる。

 もしも空腹だったら、リオは兄姉の隙間を狙いに行ったかもしれない。

 だが現在の俺達は、メスライオン達が狩りの練習をさせるほど餓えと無縁だ。


『ギーア、ミーナ、行くぞ……って、ギーアはシマウマに行ったか』


 食いしん坊になったギーアは、狩られたシマウマの匂いに、釣られていった。

 エムイーに比べて将来性があるギーアだが、俺への対抗意識も持っている。

 ギーアにとって、肉を食べることは、俺との勝負の1つだと思っている。

 流石に肉を食べるのを止めろとは言えない俺は、ミーナだけでも呼び止める。


『ミーナ、母達のところに行こう』

『シマウマは?』

『エムイーが食べていて、アンポンタンが追い払われた。俺達だと、危ない』

『はーい』


 ミーナは名残惜しそうにシマウマを見たが、俺とリオのほうに付いてきた。

 シマウマを諦めた俺達3頭は、トコトコと茂みを歩き、巣穴のほうに向かう。

 そしてしばらく歩いていると、後ろから雄叫びが聞こえた。


「グルアアッ」(邪魔だあっ)

「ウミャアッ」(あべしっ)


 振り返った俺が見たのは、ギーアがエムの前脚に突き飛ばされる姿だった。

 今のギーアの体重は、16キログラムほどだ。

 体重80キログラムのアンポンタンに食らわせるレベルの攻撃を放てば、かなりの衝撃を受ける。吹っ飛ばされたギーアは、ボールのようにポンと転がった。

 頭が真っ白になった俺の横を、2頭のメスライオンが駆けていった。

 そしてエムに対して、2頭で攻撃を加えた。


「ガアアオッ」(ゴオラアッ)

「グアアオッ」(何してるっ)


 母ライオン達が、激怒して吠えた。

 俺の母ライオンがエムの足を噛み、もう一頭がエムの顔にライオンパンチを放つ。

 逃れようとしたエムに、さらなる追撃が加えられる。

 それを見たイーが、メスライオン達を阻止しようとして、エム側に参戦した。

 イーが、俺の母ライオンにぶつかっていく。

 2対2である。


 ――おいおい、おいおい。


 俺が拙いと思った次の瞬間、妊娠していない2頭のメスライオンが、イボイノシシの巣穴を放棄して加勢に来た。

 加勢した側は、もちろん先に戦っているメスライオン2頭のほうだった。

 メスライオン達は、常にチームで戦う。


 平均体重150キログラムのメスライオン4頭と、推定体重130キログラムのオスライオン2頭。

 形勢は明らかだが、シマウマを食べかけだったエムイーは、興奮状態だ。

 メスライオン達も多少の手加減をしており、混乱は、収まらなかった。


「グガオオォッ」


 劣勢なエムイーは、大口を開けて威嚇し、前脚を振いながら駆け回った。

 エムは腹を見せて、メスライオン達に負けを示せば良かったかもしれない。

 イーは、無駄に参戦して混乱させるべきではなかっただろう。

 だが兄2頭は、オスライオンの本能で、そのような行動を取らなかった。

 オスライオンは、食事の際に興奮して、メスを追い払うことがある。


 母ライオン達は怒りが収まらずに、連携して2頭を追い立てた。

 ついに妊娠している2頭のメスライオンまで駆け付けて、全面抗争に移る。

 まるで群れに、他所からオスが来たような対応であった。


 ――子ライオンへの攻撃だからか。


 ギーアはわんぱく盛りだが、生後4ヵ月で、まだ離乳食を食べる幼児だ。

 父ライオンではないオスが攻撃すれば、メスライオン達は応戦する。


 ビスタは、シマウマの喉を絞めるのを止めて、ポカンと見ていた。

 アンポンタンは、シマウマから少し離れた場所で、身を竦めている。

 ギーアは起き上がったが、自分が怒られたとでも思ったのか、伏せていた。

 そしてエムイーは逃げ、追いかけるメスライオン6頭と共に、どんどん遠くへ走っていった。

 イボイノシシの巣穴の前には、もう誰も居ない。


『……シマウマを食べに行こうか』


 俺が現実的な話をすると、リオが前脚で、ベシっと叩いてきた。

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― 新着の感想 ―
[一言] エムイーは二歳越えだし早期追放かな。 一匹でも親が残ってれば、護衛付きで逃げないように、イノシシの穴ふさぐぐらいはできたんかな。埋めてもいいし。
[一言] 転生主人公でなく兄が追放されるとは… 野生では普通ですが(笑
[良い点] おお、、、こうしておバカな兄は追い出される事になるのかな? 考えてみたら将来有望な次世代リーダーが育ってますもんねえ。
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