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ライオン転生  作者: 赤野用介
第1巻 ライオン転生
15/62

15話 復讐のハイエナ

 ハードモードは避けられた。

 そんな風に思っていた時期が、俺にもありました。

 今よりも幼かった、つい数日前の話である。


「イーッヒャッヒャ」

「ヒャァーッヒャッ」


 澄み渡る青空の下、暴走族が爆走するような叫び声が、サバンナに鳴り響いた。

 そのような大声を上げれば、草食動物達は、一目散に逃げていく。

 人間だって、まともな一般人は逃げていくだろう。

 危ない人達には、近付いてはいけないのだ。


 危険集団が走り回るサバンナは騒然とし、遠方ではヌーの群れが走り去った。

 ヌーを狩るべく茂みに隠れていたメスライオンが、前脚を地面に打ち付ける。

 狩りを妨害されて、かなり苛立っている様子だ。


『また邪魔された』


 そろそろ肉食に切り替えたかった俺は、溜息を吐いた。

 ハイエナが草食動物を追うだけなら、別におかしな話ではない。

 だが最近のハイエナ達は、おかしな行動を繰り返している。まるでストーカーのように、俺達の群れに付きまとって、狩りの妨害をするのだ。


「イヒャッヒャ、イヒャヒャッ」(ライオンちゃん、遊びましょ)

「ヒャァーッ、ヒャッヒャヒャ」(てめぇらが、シマウマ役な!)


 祝福の言語翻訳が正常ならば、ハイエナ達は意図的に付きまとっている。

 相手が飼い犬で、飼い主の足元で尻尾を振るのなら、微笑ましい付きまといだ。

 だが生憎とハイエナは、イヌ型亜目イヌ科ではなく、ネコ型亜目ハイエナ科だ。

 ハイエナ科は、ジャコウネコ科の近縁とされており、ネコ側にされている。

 同じネコ型亜目の俺としては、誠に遺憾ながら、ハイエナも猫の亜種だ。

 犬のようには懐かないハイエナから、ストーカーされる心当たりは、無かった。


『人生で、三度だけ訪れるという、モテ期の到来か』

「ウニャアッ」


 俺のボケに対して、リオが前脚でツッコミを入れた。

 俺達が付きまとわれている理由は、もちろん分かっている。

 ハイエナ達と戦った際、俺達の群れが、巣穴に居た子供達を殺したからだ。

 大人のハイエナ達は、もちろんライオンを追い払おうとした。だがライオン側の戦力が上回っており、ハイエナ達は巣穴の出口を奪い返せなかった。

 結果として巣穴の子ハイエナは、5頭の子ライオンにより全滅した。

 巣穴を掘ったツチブタや、拡張したハイエナの大きさを考えれば、1歳の子ライオンが入れない横穴など無い。

 ライオン達は、ハイエナから好かれているのではなく、恨まれたわけだ。


 ――大人の数から考えて、30頭以上の子ハイエナを殺せたかな。


 沢山の子ハイエナを始末できた恩恵は、かなり大きい。

 子供が減った分だけ、子育て中のハイエナがライオンから獲物を奪わない。

 メスライオン達は、普段の安全性が格段に増して、俺達への食料供給も増える。

 周辺地域におけるハイエナの総数は、いずれ回復するだろう。

 だが、それは俺が群れから追放された後の話だ。

 俺の子供時代に豊かな食生活が保証されれば、俺にとっては万々歳である。


――実にナイスな戦いだった。


 そこで終われば、俺にとってはハッピーエンドだった。

 だが子供を殺し尽くされたハイエナ達は、涙を飲んで諦めたりはしなかった。

 復讐の鬼と化して、ライオンの群れを追い始めたのだ。

 ライオン側から見れば、完全にハイエナの逆ギレだが。


『あいつらが、先に襲ってきたよな』

『そうね』

『どう考えても、ハイエナの自業自得なんだが』

『そう言ってあげたら?』


 モヒカン頭のバイク乗りに正論を訴えても、通じるわけがない。

 きっと「子ライオンを見つけたぜ」と大喜びして、仲間を集めて襲ってくる。


『本当に言いに行ったら、リオは怒るよな』

『当たり前』


 天敵を呼び集める必要など無い。

 そのような次第で、俺達は1歳上のポンを保護者として、茂みに隠れていた。

 そのほかは戦力として認められて、参戦中である。

 現在のアンポンタンでも、ハイエナ1頭に対して、若干優勢なのだ。

 かなり遠方から、凶悪な獣達の鳴き声が聞こえてくる。


「グォオオオォッ」(貴様らが、シマウマだ)

「ヒーッヒッヒッ」(シマウマが、来たぁ!)

「グオルアアアッ」(逃げるなおらあっ)

「イーッヒッヒッ」(足が遅いでちゅね)


 ハイエナの戦法は、ライオンを挑発して走らせ、疲れさせることにあるようだ。

 ライオンはハーレムに旅立っている間、食事をせずに交尾を続ける。そのためハーレムから帰還したオス2頭、メス2頭は、かなり空腹だ。

 一方でハイエナ側は、非常食の骨をかじって、持久戦に持ち込んでいる。


 オスライオンは戦闘力が高いが、エネルギー効率は悪い。

 空腹の上に走らされているオスライオンは、かなりの体力を消耗している。

 もはや総戦力で「ライオン側が勝る」とは、言い難い状況になりつつある。


 ――ハイエナって、意外に頭が良いんだな。


 俺は暴走族の知能を、見誤っていたらしい。

 不良は、学校では遅刻やサボりの常習犯でも、専門分野の知識は高い。それと同様に、戦いを専門とするハイエナ達も、戦いに関しては賢いようだ。

 日本では勿体ない使い方だが、サバンナでは正しい使い道かもしれない。


「ヒイーッ、ヒイーッ、ヒイーッ」(見つけた、見つけた、見つけたぁ!)

『見つかった、木の上に行けっ!』


 ハイエナの遠吠えが聞こえた俺は、慌ててリオ達に避難を指示した。


『何、なに?』

『ハイエナに見つかった』


 ライオンには伝わらないハイエナ同士の遠吠えでも、俺には意味が分かる。

 皆は混乱したが、慌ててアカシアの木に上る俺を追って、木登りを始めた。


 俺が最初に駆け上がり、すぐにリオが続いた。

 俺がリオを信頼する程度には、リオも俺を信頼しているらしい。

 その後は、ほとんど同時だった。ギーア、ミーナ、ポンが走ってくる。

 そして茂みから、ハイエナ達が飛び出してきた。


「イーッヒッヒッ」(いやがったぜ)

「ヒーッヒイッヒ」(シマウマだぁ)


 一番足の遅いミーナに、ハイエナ達の鋭い牙が迫る。

 そのうち一頭が、木に飛び移ったミーナの尻尾の先に、ガブリと食らい付いた。


「ミャアアアアアッ」


 ミーナの尻尾の先を噛んだハイエナは、全身を振って、尻尾を噛み千切った。

 ミーナが落ちなかったのは、幹と太い枝の間に身体が挟まったからだ。

 落下を運良く避けられたミーナは、鳴きながら必死に木を登ってきた。


「イーッヒッヒ」(ぐえっへっへぇ)


 ミーナの痛がる様子に、ハイエナは大喜びしている。

 そして叫び声に釣られて、ハイエナの別働隊が集まってくる。


「ミュアアッ、ミャアッ、ミャアッ」


 アカシアの木の上に登ったミーナは、痛がって鳴き始めた。

 ライオンの尻尾は、とても重要だ。

 走る際に身体のバランスを取ったり、身体に付く虫を追い払ったり、子供をあやしたりする多様な役割がある。

 人間も走る時には、手を振って姿勢を保ったりする。

 あるいは手で虫を払ったり、子供をあやしたりする。

 ライオンは、人間が手で行う動作の一部を尻尾で行っているのだ。


「イーッヒッヒッ」(診てあげるよぉ)

「ヒーッヒッヒッ」(降りておいでぇ)


 アカシアの木の下に、10頭からなるハイエナの集団が集っている。

 こちらに子ライオンしか居ないと分かって、完全に嘗めている。

 数日前であれば、時間を稼げば大人ライオン達が到着して追い払ってくれた。

 だが今は、総力戦を行うと、勝敗は微妙になっている。


 ――やむを得ないな。


 俺は致し方がなく、ポンの前で祝福の空間収納を行使することにした。

 決意した俺は、アカシアの枝の先端に移動する。

 すると10頭のハイエナ達が、木の枝から獲物が落ちてくるのを待つワニのように、俺の真下にゾロゾロと集まってきた。


「イーッヒィッヒ」(こっちだよぉ)

「ヒーッヒィッヒ」(早くおいでぇ)


 俺はしっかりと木の枝に爪を立てながら、ハイエナ達に宣言する。


『今から、落ちまーす』

「イーッヒッヒッヒィ!」(うひょー、勇気あるねぇ!)

「ヒーィッヒッヒッヒ!」(牙で受け止めてあげるよぉ!)


 ゾロゾロと真下に集った暴走族を確認した俺は、空間収納の性能確認で入れた、ピラミッドの石の9倍の岩を取り出した。

 取り出した岩は、重力に引かれて、真下に落ちる。

 いきなり頭上に岩が出現したハイエナ達は、瞬時に逃げる判断が出来なかった。

 そしてズドオオンッと、轟音が鳴り響いたのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「イーッヒッヒッヒィ!」(俺たちはもう、死んでいる!)
[良い点] ライオン転生?と思ったが、良い意味で面白かった。 これまで人間転生が多かった作風?だと思いますが合っていて良かった。 [気になる点] 土魔法とアイテムボックスだけですでに強い。 土魔法のい…
[一言] いまじゃ!パワーをメテオに!
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