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ライオン転生  作者: 赤野用介
第1巻 ライオン転生
12/62

12話 ポンの子守り

「ウナォーッ」


 ギーアが、大きな声で元気に鳴いた。

 サバンナで子ライオンが鳴けば、獲物に逃げられるし、天敵も呼び寄せる。

 案の定、ギーアは母ライオンにペシッと叩かれて、よろけた。


 ――実に野性的な教育だ。


 教育しないと狩りが出来ないし、群れの皆も危険になる。

 これはライオンの社会通念上、認められるしつけの範疇であろう。

 又従兄弟はシュンと尻尾を垂らしながら、群れの移動に付いてきた。


 ――完全に犬だな。


 そういえば犬と猫の違いは、何だろうか。

 両者の共通祖先は、5000万年前ほど前の小型捕食動物のミアキスだ。

 ミアキスの体長は30センチメートルほどで、現代のイタチに近い姿だった。当時は、ヒアエノドンという犬ほどの大きさの上位捕食者が居たので、樹上で暮らしていた。

 平原に出ていったミアキスが、イヌ型亜目。

 森林に残ったミアキスが、ネコ型亜目。

 イヌ亜目は、犬、熊、イタチ、アライグマ、アザラシ、アシカ、セイウチなど。

 ネコ亜目は、猫、ジャコウネコ、マングース、ハイエナなどになった。


 ――外に出たイヌ科がアウトドア派で、引き籠もったネコ科がインドア派かな。


 つまり尻尾を振るのは、アウトドア派の連中である。

 我らネコ科は、易々となびいてはならない。

 そんな風に妄想しながら、メスライオン達の後ろを付いていく。

 すると俺達は、ナワバリの中にある草原に辿り着いた。


 辿り着いた草原は青々として、水分を含んだ瑞々しい草地が広がっていた。

 草食動物が喜びそうな大地で、案の定、遠方には無数の黒い点が動いている。

 サバンナで黒い巨体の大集団といえば、アフリカスイギュウかヌーの群れだ。

 今回の群れは、アフリカスイギュウだった。


「ガオォ」


 母ライオンが、茂みのほうに行けと指示を出してきた。

 言語で明確に命じたわけではないが、状況と仕草でも指示は理解できる。

 俺とリオ達3頭は、狩りの邪魔にならないよう、トコトコと歩き出した。

 すると子守役として、1歳上のポンも付いてきた。


 ――ポンを子守にして、大丈夫なのか。


 ポンは、俺達4人を木の上に登らせて、降りられなくした姉である。

 俺とリオは降りられたが、ギーアとミーナは降りられなくなって鳴いた。

 そのため、見守りの母ライオンが介入して、降ろしてやっていた。


 子育て中のメスライオンは、子供が1歳半になるまでは発情しない。

 そのため1歳違いのポンと俺の母は、確実に別個体だ。

 我が子ではないポンを見守り、適切にフォローする母ライオンは、育成上手だ。

 そんな母ライオンが、子育てのヘルプを、ポンに任せることにしたらしい。

 ポンは気合い十分だが、俺はポンで良いのだろうかと不安に駆られた。

 ポンは『ゼークトの組織論』の大別で、4番目にあたるライオンである。


・ゼークトの組織論

 利口で勤勉=参謀に適している。

 利口で怠惰=指揮官に適している。

 愚鈍で怠惰=命令を忠実に実行する兵卒に適している。

 愚鈍で勤勉=さっさと軍隊から追い出せ。


 ポンは、軍人にはあまり向いていない。

 だが父ライオン達とメスライオン2頭がハーレムに旅立った今、大人達は狩りの人材不足ならぬ猫材不足に陥っている。

 ほかの兄姉は、狩りに付いて行きたがっており、この流れは確定的だ。

 俺はポン軍曹に怒られる前に、ギーア達を追って、しぶしぶと歩き出した。

 俺達が向かうのは、ポンが好むアカシアの木だ。

 ハイエナが登って来られない場所は、避難場所として優良である。


「ガォッ」


 俺達と別れたメスライオン達は、姿勢を低くしながら、獲物に近付いていった。

 スイギュウは、1000頭以上の群れを作ることもある。

 今回は100頭以上200頭未満だが、俺達に比べて遥かに大きな規模だ。


 メスライオン達は、もちろん正面から直進はしなかった。

 群れの後ろに回り込み、移動が遅れているスイギュウに向かった。

 木の上から見えた群れの最後尾は、親子のスイギュウだった。


 ――生まれたばかりなのかな。


 スイギュウには、決まった繁殖期は無い。

 10ヵ月の妊娠期間を経て、1頭を出産し、半年から9ヵ月ほど哺乳する。

 出生時の体重は、30から40キログラムほど。

 狙ったスイギュウは、近くに1頭だけいるブチハイエナよりも小さかった。

 俺では勝てないが、ブチハイエナと同程度の大きさのポンなら勝てる。

 肉食動物と草食動物が同じ大きさであれば、肉食動物が負けるはずがない。

 そして仔牛でも、ハーレムに旅立った4頭を除く俺達の1日分の糧にはなる。


『お肉だぁ!』


 俺の隣に居るポンが、スイギュウを見て嬉しそうに鳴いた。


『あれって、美味しい?』

『凄く、美味しいよぉ』

『食べてみようかなぁ』

『良いねぇ、食べなよ』


 ワイルドな笑みを浮かべた肉食系の姉は、俺に離乳食を勧めてきた。

 ライオンは肉を食べ始めると、一気に大きくなっていく。

 成長期だからか、タンパク質や亜鉛の摂取量が増えるからだろう。


 まだ少し早い気もするが、積極的に食べたほうが良いのかもしれない。

 仔牛は、肉質が柔らかくて、子ライオンでも食べ易いだろう。

 唯一の懸念は、早く大きくなると、その分だけ早く追い出されるかもしれないことだ。


 ――父ライオンとの喧嘩を避ければ、時期を遅らせられるかな。


 前向きに検討する俺の視線の先で、メスライオン達がスイギュウ親子に迫った。

 スイギュウ親子は、纏わり付くハイエナのせいで、群れから遅れていた。

 スイギュウの親が追い払おうとするが、ハイエナはしつこい。

 狙いを定めたメスライオン4頭は、ハイエナを威圧で追い出す。

 そして前後から、スイギュウの親子を包囲した。


『ほら、行くよ』


 ポンが宣言した直後、メスライオンたちが動いた。

 前の1頭が親スイギュウの注意を逸らした隙に、後ろの1頭が子供のスイギュウを倒した。

 一瞬で倒し、気付いた親スイギュウが戻ってくる前に飛び退いて逃げる。

 そして反転した親スイギュウの背中に、別のメスライオンが爪を掛けた。

 背中を攻撃された親スイギュウは、堪らず仰け反る。

 さらに2頭が乱入して、親子のスイギュウに1頭ずつ襲い掛かった。


『楽しそうだねっ』


 ポンのワクワクとした高揚感が、呻り声から伝わってきた。

 そして子供のスイギュウの咽が、ついにメスライオンに噛み付かれた。

 親子のスイギュウの間には、メスライオンが2頭も居る。

 残る1頭のメスライオンは、先行していたスイギュウの群れへの牽制役だ。

 間にライオンが1頭居れば、どうしても仲間の下に駆け付けるのが遅くなる。

 両陣営が睨み合う間、息が出来ない子スイギュウは、動かなくなっていく。


『決着っ!』


 ポンが楽しそうに宣言したのは、メスライオンの1頭が囓り始めた時だ。

 獲物が抵抗しているのなら、メスライオンは咽を噛み続ける。

 食べ始めたのは、獲物の意識が完全に無くなったということだ。

 スイギュウ達は、ライオンを追い払っても仲間を連れて行けない。こうなるとスイギュウ達は、仲間の救出を諦めて去ってくれる。


『さあ、いくよ!』


 キャッキャッとはしゃぎながら、ポンは木を飛び降りた。

 そして俺達に振り返り、早く来いと態度で促してくる。


『はーい』


 返事をした俺は、木の幹に爪を引っ掛けながら、ゆっくりと降りた。

 そして気付く。


 ――この木、前に登った木くらい傾斜がきつくないか。


 つまりギーアとミーナは、自力で降りられない。

 子守を任されたポンは、ちゃんと頑張って、2頭を降ろした。

 だが俺達が到着した時、仔牛の肉は、既に大半が食べられていたのであった。

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前作も、よろしくお願いします!
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― 新着の感想 ―
[良い点] おろしてくれるポン軍曹は優しい そしてこのゼークトの組織論も優しい、銃殺ではなく追い出しで済むんだから
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