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ライオン転生  作者: 赤野用介
第1巻 ライオン転生
11/62

11話 アンポンタン

「ウニャッ」「ミイィッ」


 俺が寝転んでいると、ギーアとミーナが襲来してきた。

 俺は身体を反らして突撃を躱し、足を引っ掛けて、ギーアの身体を押してやった。

 イメージは、柔道の足かけだ。


「ウナァッ」


 足が引っ掛かったギーアはゴロンと転がって、ポテッとうつぶせになった。

 何が起きたのか分からないギーアは、キョトンとした表情を浮かべている。

 その様は、スペインの牛追い祭りで街角を曲がり切れずに転んだ牛である。


「ウミィッ」


 立て続けで来たミーナも、やはり足を引っ掛けられて、コテンと転がった。

 そちらは部屋で立ち上がり、コテンと転んだ乳児の様であろうか。


『あー、よしよし』


 ミーナを舐めてやると、ギーアが自分も構えと、再び突撃してきた。

 ギーアの突撃をひっくり返して遊んでやり、真似をして向かってきたミーナもひっくり返す。それと同時に、幼獣同士の力試しも行った。


 ――俺の3割は、リオの4割、ギーアの5割、ミーナの6割と釣り合うな。


 ギーアとミーナが完璧に連携すれば、俺に勝てる気もする。

 片方が注意を惹き付ける間に、もう片方が後ろから噛む挟み撃ちだ。

 群れる肉食獣には定番の戦法で、ハイエナやリカオンもよく行う。

 だがギーアが突っ走り、ミーナが後から来るので、まったく出来ていない。


 ――そういうのも含めて、遊びで学ぶんだろうな。


 二人を軽くあしらった俺は、兄の威厳を示した。

 これにて同世代での序列は、定まった次第だ。

 そう思っていたところで、いきなり背後から押された。


「ガッオッ」


 奇襲攻撃を行ったのは姉で、アンポンタン3姉妹の次女ポンであった。

 俺の5倍もの体重には流石に耐えられず、俺はドテンと座り込んだ。

 すると母ライオンが、座った俺とポンを薄目で観察した。

 母ライオンの様子を窺ったポンは、俺と顔を擦り合わせて、親愛を示した。


『はーい、こっちに来てね』


 ポンは顔で俺を押し出して、どこかに連れて行こうとする。


 ――ポンに付いていって、大丈夫かなぁ。


 俺は不安に駆られたが、結局は付いていくことにした。

 先ほどはビスタから、ライオンの食あたりに有用な薬草を学んだ。

 兄姉から色々なことを教わるのは、人間もライオンも変わらない。

 ポンが何かを教えてくれることを期待した俺は、トテトテと後を追った。

 すると俺の後ろに、ギーアとミーナも付いてくる。それを見ていたリオも付いてきて、母ライオンまで一緒に付いてきた。


「ガオッ、ガオッ」


 ポンはルンルンと楽しげに、サバンナの草地を歩いて行く。

 しばらく歩くと、やがて立派なアカシアらしき木が生えていた。


 アカシア・ニロティカは、4から15メートルのマメ科の常緑低木だ。

 3500年前のエジプト王朝で、薬として使われていた歴史もある。

 1世紀にギリシャ人で医師・薬理学者・植物学者のペダニウス・ディオスコリデスが『akakia』と記述しており、その頃にはアカシアに近い発音で呼ばれていた。

 論文にアカシアと書かれた初出は、1754年。

 スコットランドの植物学者フィリップ・ミラーが、アフリカとアメリカのアカシアを『Acacia』と記述している。


 だがアカシア……アフリカ原産の『アカシア・ニロティカ』という木は、国際植物学会議で『ヴァケリア・ニロティカ』という名前に変えられてしまった。

 その理由は、オーストラリアがゴネたためだ。


 1788年、イギリス人がオーストラリアに入植した。

 その際、オーストラリアに生えていた1000種の木も、アカシアと呼ばれるようになった。

 1986年、オーストラリアの植物学者レスリー・ペドリーによって、アカシア属と呼ばれる1352種は、3属に分かれると発表された。


 ペドリーは、アカシアが、アカシア属161種、セネガリア属231種、ラコスペルマ属960種に分けられると提案した。

 オーストラリアにあるアカシアは、ラコスペルマ属であった。

 だがアカシアは、オーストラリアの国花でシンボルだ。

 そのためオーストラリアは、「オーストラリアの木は、ラコスペルマ属ではなく、アカシア属だ!」と、国際植物学会議に主張して、押し通した。


 時系列で考えれば、アフリカのアカシアが先に命名されている。

 国花やシンボルだという主張は、科学的根拠に基づく分類ではない。

 先に発表されたのに、真似した人間が「俺のほうが人気だから俺のもの」と言っただけである。

 だが2011年に開催された第18回国際植物学会議において、「アフリカのアカシアは、ヴァケリアと呼ぶ」と決定されてしまった。

 もちろんアフリカ諸国は改名を認めておらず、今でもヴァケリアをアカシアと呼んでいる。


 ――アフリカのアカシアが、アカシアだな。


 それらの経緯から、俺も元々のアカシアをアカシアと呼んでいる。

 そんなアカシアの木の上に、アンとタンの姉妹が登っていた。

 身体が重いオスライオンは木登りが苦手で、メスライオンと子ライオンが木に登るとされる。

 だが俺は、怒らせたスイギュウの群れから逃れるために、アカシアの木に登ったオスライオンの映像も見たことがある。

 木には様々な種類があって、低くて垂直ではないアカシアは、登り易いほうだ。

 ライオンを大きな猫だと思えば、オスでも不可能ではないのだろう。


「ガオォッ」


 俺達を引き連れてきたポンが、アカシアの木に飛び掛かった。

 跳躍して、木の幹に爪を掛け、身体を引き上げながら瞬く間に駆け上がる。

 このように爪を立てられるのが、ネコ科とイヌ科との違いだ。

 軽やかに駆け上がったポンは、アカシアの太い枝に身体を預け、もたれ掛かる。

 低木はどっしりとしており、アンポンタンが乗っても、小揺るぎもしない。

 アカシアの木はキャットタワーのように、ライオン3姉妹に占拠された。


「ウミャァ」


 姉たちの勇姿に感心したリオが、木の周りをグルグルと回った。

 そしてピョンと幹に飛び掛かり、四肢の爪を引っ掛けて、ゆっくりと登っていく。

 俺達が感心して見上げる中、リオは見事にアカシアの枝まで登っていった。

 上に居た姉達は褒めるように、リオの頭に頭をぶつけ、身体を舐めた。

 巨大な姉達の攻勢を受けたリオは、木から落ちないように必死に枝にしがみつく。


 ――俺も登ってみるか。


 木登りは、生存に有利となる技能だ。

 ヒョウは敵が来られない木の上で安全を確保し、食事を行い、獲物を探せる。

 ヒョウほど高い木には登れないライオンでも、スイギュウから逃れることが出来るので、覚えて損はない。

 ポンとリオが木を登る姿は、しっかりと観察している。

 猫のようにジャンプして飛び付いて、四肢の爪を木に引っ掛けて登っていくのが、ライオンの木登りのコツだ。

 木の根元から上を見上げた俺は、猫ジャンプを放った。


『ぬおりゃっ!』


 C+という俺の身体が、強い風を感じた。

 タイミングを合わせて木に四肢を引っ掛けた俺は、そのままガリガリと駆け上がった。

 途中で勢いを緩めてはいけない。

 一気に駆け上がった俺は、上に辿り着いて、枝にもたれかかった。


 ――ふぁぁ、上がれた。


 姉達は、よくやったと言わんばかりに、俺のことも舐めてきた。

 するとギーアとミーナも、アカシアの木に飛び付いていった。


「ウニャ」「ミイ」


 2頭は必死に鳴きながら、アカシアの木を登ってくる。

 登る速度は、俺やリオに比べると、おそらく遅い。

 それでも枝を足場にしながら、しっかりと上のほうに登ってきた。


 ――流石、ネコ科。


 俺を舐めていた姉達は、ギーアとミーナのほうに移動して褒め始めた。

 攻勢を受けた2頭は、木から落ちないように、必死に枝にしがみつく。

 その辺りの匙加減は下手だと思いつつも、俺は姉達の指導に感心した。


 この時の俺は、まだアンポンタンの抜けた部分に気付かなかった。

 姉達は、体重60キログラムの大人。

 俺達は、体重12キログラムの幼児。

 木に登って降りられなくなった猫の動画は、前世でも見たことがある。

 子ライオン達の鳴き声が響くのに、それほど時間は掛からなかった。

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― 新着の感想 ―
[一言] ブリカスそんな所でも…
[良い点] 後学のためにアカシアのウィキペディアで補習したところ、日本人がアカシアと呼んでるものはニセアカシアという記述に追い討ちで笑いました 今更ながら舞台はアフリカなんだろうか・・・
[良い点] 生きるための技能の継承をしてあげる姉達 [気になる点] 何匹が降りられなかったのだろうか?w [一言] アンポンタンはやはりアンポンタンだったか
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