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ライオン転生  作者: 赤野用介
第1巻 ライオン転生
10/62

10話 ビスタと薬草

 クロサイが骨になった翌日。

 父達とメスライオン2頭が、それぞれハーレムへと旅立っていった。


 ――食料が充分にあると、子作りを始めるわけか。


 自己保存、次いで繁殖。

 それらは生物として、実に真っ当な行動である。

 そんな大人ライオン達の行動において、俺が強く関心を引かれたのは、オスとメスがカップル同士で別々に旅立ったことだ。


 複数のカップルが両立するのは、よく考えれば当然のことだ。

 1頭のオスにメスが集中すると、ハブられたオスには群れるメリットが無くなるので、オス同士で群れなくなる。

 そしてオスが1頭しか居なければ、ほかのオスに対する抑止効果が薄くなって、襲われ易くなる。


 ――俺だって3頭には挑みたくないけど、1頭ならチャンスと思うだろうな。


 オスの交代時には、残っていた子ライオンが殺される。

 オスの交代が頻繁だと、子ライオンが殺されすぎて、安定して子孫を残せない。

 さらにオスライオン1頭だけでは、子供が育っても父ライオンしか居ないので、娘が出ていく。すると群れは、次代にナワバリを継承できなくなる。

 複数のオスが一緒に行動できるように、複数のオスが繁殖機会を得られるのは、むしろ当然だ。

 ライオンは、かなり社会的な生き物であるらしい。


 かくして父ライオン達2頭は、メスライオン2頭とハーレムに旅立った。

 残っている4頭は、俺の母ライオンと、1歳の兄姉の母ライオン達だ。

 子育て中のライオンは、発情しないのである。

 今は木陰で休んだり、子ライオンにミルクを与えたりして、のんびりしている。

 ミルクを飲み、空間収納で確保した俺も、茂みにゴロゴロと転がった。


「ウニャオッ」


 サバンナの風は、とても心地良い。

 現代社会に疲れた日本人が夢に見る、スローライフの実現である。

 文明から離れて、大自然の中で、のんびりと暮らせているのだ。


 ――羨ましいだろう。君も、ライオンにならないか!


 意図せずライオンになってしまった俺は、さしあたり道連れを求めた。

 身体能力をC+に上げて、土と光の魔法を取れば、ライオン転生は叶う。

 のんびりと寝転がる俺は、横で転がるリオに声を掛けた。


『リオ、元気か?』

『んー、元気』

『それは良かった』


 このようにライオン生活は、モフモフの動物達に囲まれるのだ。

 さらに俺は、モフモフの又従兄妹を前脚で触った。


『お前、モフモフだなぁ』

『そっちも、モフモフでしょ』


 リオは反撃とばかりに、前脚でペシペシと叩き返してきた。

 だがミルクを飲んだ子ライオンの猫パンチは、穏やかであった。

 ちゃんと爪をしまっているのが、手加減している証拠だ。

 わりと本気になった時は、前脚から爪が出てくる。

 具体的には、狩りごっこや、追いかけっこの時だ。


 最近の俺達は、よく身体を動かす。

 そして母ライオンも、体格差が大きい兄姉が俺達に構う時とは異なり、あまり介入して来ない。

 これが成長に必要だと、母ライオンも本能的に分かっているのだろう。

 ペシペシと叩いていたリオは、やがて興が乗ってきたのか、俺を獲物のようにガシッと捕まえた。


『ガゼルッ』


 俺は捕らえられたガゼルのように引き寄せられて、リオに押さえ付けられる。

 すると俺のほうも、ライオンの本能が発動する。

 素早く身をくねらせて攻撃から逃れた俺は、逆にリオを捕まえた。


『シマウマッ』

『インパラッ』


 モフモフ合戦の勃発である。

 体重12キログラムほどの子ライオンが、上下を入れ替えながら転がった。

 これは人間の2歳児くらいが、じゃれているようなものだ。

 メスライオン達は薄目で確認した後、目を瞑った。

 勝手にやっていろということである。


『シマァ、ウマァ』

『イィン、パラッ』


 しばらく狩りごっこに興じた俺達は、やがて引き分けで戦いを終えた。

 もちろん俺達は、手加減してやっている。

 感覚的に俺が3割、リオが4割の力を出したといったところだ。

 お互いの力を知って、序列を決めるのは、群れで暮らす動物にとって大切だ。

 俺は、又従兄妹という兄が上の立場を保ち、弟への陥落は免れた。


『勝った』

『むうっ』


 ライオン生活、どうだろうか。

 もしも他所の転生者が望むのであれば、身体能力をE+にした人間と、C+まで上げた俺の生涯を交換してあげなくもない。

 そんな風に初期は思ったりもしたが、最近の俺は馴染んできている。

 生物の環境適応能力の高さには、恐れるばかりだ。

 もっとも、転生時に聞いた『恐竜時代』に比べれば、マシだと思ったからかもしれないが。


 古生代は、5億4100万年前から2億5100万年前。

 中生代は、2億5000万年前から6550万年前。

 新生代は、6550万年前から現代まで。


 260万人の作者と読者の大半は、俺が希望した「楽に天寿を全うできる」ではない時代に転生したのであろう。

 恐竜時代であれば、「従兄弟、何それ喰えるの」だ。

 前世で世界最大の爬虫類であったコモドオオトカゲは、共食いをする生き物だと知られる。幼体は、成体に食べられないように木の上で過ごす生態を持つ。

 その時代に恐竜として生まれたら、リオのライオンパンチは、ドラゴンガブリに変わる。

 ミーナは既に食べられていて、ギーアの足も1本くらいは無かったはずだ。

 楽とは主観であり、相対的なものである。

 恐竜時代に比べれば、俺の生活は、確実に楽なはずである。


 ――希望とは、何か違うような気がしなくもないけど。


 多分やらかした俺だが、スタートダッシュは、上手く出来たと思っている。

 母ライオンの治療と穴掘りで、成長期に魔法も使いまくれた。

 魔力自体が上がるのかは知らないが、穴掘り魔法のテクニックは上がった。

 人間は、3歳までに脳の発達が殆ど完了して、免疫細胞も獲得される。18歳で大人とすれば、最初の6分の1で決まるわけだ。

 ライオンが3歳で大人とすれば、6分の1にあたる生後半年までが重要な成長期になる。

 今は生後2ヵ月半で、まだまだ伸びる時期だ。

 そんな風に思っていたところ、茂みのほうから呻り声が聞こえてきた。


「ウガァアァ、ウガァァ、ウガアァ」


 呻り声を上げているのは、2歳の姉ビスタである。

 危機を伝えるものではなく、呻いているといった感じだ。

 どうやら昨日のクロサイで、腹の調子がおかしくなったらしい。

 あまり良くない肉を、食べ過ぎたのであろう。

 子ライオンの俺はコテンと転がりながら、ゾンビのように呻くビスタを眺めた。


 大人は、消化力が高い。

 エムイーは食べるよりも、大人のライオンに対して、狩りの成果を誇っていた。

 アンポンタンは、肉の争奪戦に負けて、あまり多くは食べていない。

 ビスタだけが呻いているのは、分からなくもない。


『ビスタが呻ってるけど』

『草、食べれば?』

『草って?』

『薬草、生えてる』


 メスライオンの鳴き声が聞こえたのだろうか。

 ビスタは茂みから薬草を探して、モサモサと食んだ。


 ――そういえば、猫も草を食べるよな


 俺は姉の背中に猫の姿を重ねながら、ミルクで咽を潤したのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] ビスタ「草を・・・生やせぇぇぇぇええ!!」 ʬʬʬʬʬʬʬʬʬʬʬʬʬʬ ʬʬʬʬʬʬʬʬʬʬʬʬʬʬ ʬʬʬʬʬʬʬʬʬʬʬʬʬʬ
[良い点] ライオン生活に魂が順応してしまっていて草 人間を食って人間への変身を会得する展開にならない安心感よ
[一言] 狩りごっこの仔ライオン尊い……と、思ったものの……。 コイツら12キロあんだよな……。 もう人間仕留められるわ( ꒪⌓꒪)
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