【1】
「あたし海見に行きたいな〜。あ、今日って意味じゃなくてさ」
駅で待ち合わせて、すぐに入ったファストフード店。
「海? もう九月になるのに? クラゲ出るんだろ?」
実佑里の声に、テーブルを挟んで向かい側に座る駿がドリンクのカップを手に首を傾げている。
特に予定も決めずに会ったため、「今日はどうする?」と話していた最中だった。
「泳ぐ気はないから、クラゲは関係ないよ~。見るだけでいいの。まだまだ暑いし、やっぱ『夏』は海でしょ!?」
不思議そうな彼に、実佑里は明るく返す。
そう、夏なのだ。
少なくともあと数日を残す八月、二人が高校生になって初めての夏休みの間は。
立秋はとうに過ぎていたとしても、実佑里の中の「夏」は終わっていない。
「まあね。暦がどうでも『秋』じゃないよな」
「そういえば駿といろんなとこ行ったけど、海はまだだなって。もう夏休み終わっちゃうから、その前に行ってみたいんだ」
軽い口調で続けた実佑里に、駿は少し呆れたように笑う。
「なんだよ、それくらい早く言えばいいのに。実佑里ってどこ行きたいんだろ、ってすごい考えてたよ、俺」
「ずっと行きたかったわけじゃないもん。今ふっと思いついたの」
今まで駿は、常に「どこ行きたい? なにかしたいことある?」と意向を確認してくれていた。
希望があったとしても「俺ここ行きたいんだけど、どうかな?」といった調子で、決して自分勝手な案を押し付けたりしたことはない。
夏の想い出づくり。
花火も地元の夏祭りも二人で行った。かき氷も有名なカフェを訪ねて楽しんだ。ジェラートも、この際だからもう一度くらい食べながら歩いてみたかった。あとは何があるだろう。
考える中で浮かんだ、海。そう、──最後は海がいい。
「じゃあこれから行くか? 今日は何するって決めてないし」
「……う、ん」
今日。
いきなり来るとは思わなかったので一瞬躊躇したものの、どうせなら早いほうがいいかもしれない。
決意が揺らがないうちに。




