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ダンジョンってこうやって出来るんですね(吐血)3

「おい、職場にかけてくるってどういう了見だよ」

 誰もいない密室で新堂は電話をかける。苛立ちから足を踏み鳴らしていると直ぐに繋がった相手へ怒鳴り散らす様は家庭内暴力を振るう男のようにも見えなくはない。

 そんな彼の弁明するなら、公安という立場で秘密裏に調査していることがあるから。特に身分を隠して活動している電話の相手、小湊が自分の名前を口にすることは厳禁と言っても良かった。

 それも分かっているはずなのに、気軽に電話してきたなら叱責のひとつもあってしかるべき、しかしその電話の相手は気にした様子もなくいつもの声色で自分の要件を優先していた。

「そんなことより、夜巡ちゃんのこと把握してる?」

「……舞がなんだって?」

 その一言に電話越しからこれみよがしなため息が聞こえてくる。仕方ないのだ、自分から話しかけたことすら忘れている人間が今起きている事件まで把握しているはずがないのだから。

「この馬鹿。ニュースも見てないの? 今テロ屋が銀行強盗しててその中に夜巡ちゃんがいるのよ!」

「……まじか。可哀想に」

 新堂は合掌するように片手を目の前に掲げて頭を下げる。南無南無。それは誰に向けられたものか、少なくとも話を聞いて直ぐに行動を起こす気はないようだった。

 それを受けて予想と違ったのだろう、小湊は後に続く言葉を待っていたがいつまで経っても無音静寂、通話が切れたのかと疑うような、んやらえといった疑問符つきの文字が繰り返され、

「……それだけ? 心配じゃないの?」

 テロ組織である、銀行強盗である。それに巻き込まれたとなれば、自分ではどうしようもないにしても安否くらいは心配するのが人の心である。当然新堂も人でなしになった訳ではなく、

「舞なら自分で何とかするだろ。その間に銀行が倒壊して皆が下敷きになるんだろうなくらいは想定してる」

「何をどうすればビルが倒壊するのよ。馬鹿なこと言ってないで助けに行けば?」

 舞が巨大怪獣にでもならない限りありえないとその口ぶりは言う。

 ……つっても、なぁ。

 この男、それでも乗り気にならず。そんな大事(おおごと)になっているなら今は拳銃ひとつ持っていない自分が行って何になるやら。決して助けに行かない口実を探している訳ではなく、会社としても今は民間人の職員が犯罪の現場に向かうというのは好ましく思わないだろうという冷静な判断だった。

「……はぁ。とりあえず声掛けて集まった奴連れて行くけど機動隊がどうにかしてくれると思うがね」

 捨て台詞のように吐いた言葉と共に電話をきる。誰に声をかけようか、なぜか2人ほどどうにかしてしまいそうであり、かつ乗り気になりそうな人物が思い浮かばれ彼らだけには言わないでおこうと心に決めていた。





 けたたましく、早朝の鶏舎のようなサイレンの大合唱のなか、椅子やら机を積み上げた簡易的なバリケードから差し込む刺激的な赤い光に舞は目を覚ます。

「あ、起きたね」

「波平さん……いっ――」

 寝ていた身体を起こそうと力を入れた腕が悲鳴をあげる。ぐわんぐわんと揺れる頭は夢遊病のように地に足つかず、今の状況の把握すら湯の中のように頼りない。ズキリと痛む頭頂部の理由はなんだったかを思い出すより早く、献身に身体を支えようとする波平が覆いかぶさっていた。

「駄目だよ、銃で撃たれたんだから安静にしておかなきゃ」

「……包帯、波平さんが?」

 痛む腕を見れば病的なほど几帳面に巻かれた包帯がある。流石に脱脂綿などはなく本格的な処置が出来なかったようで大部分は赤く滲んでしまっているが、外気に触れず圧迫止血されているだけ、現状では上等だった。

 勿論、なぜそんなものがあるのかということを除けば、だが。

 段々と思い出してきた舞の頭が考えるのは色々とあり、少なくとも目の前、人畜無害そうに見せているのは皮を被っているということ。流石にタイミングが良すぎる、銀行に来たのだって波平の誘いが原因だからだ。

 なんか理由があるんだろうなぁ……。

 しかし舞にはどうでもよかった、たかが片腕を銃で撃たれた程度、長い人生そういうことも稀にあると割り切れるだけ精神的におかしかった。

「うん、それだけしか出来なかったけどないよりはマシかと思って」

「ありがとうございます……今は……どういう状況ですか?」

 舞が目を周りに配れば外ばかりが騒がしく、銀行内は静かそのものだった。人の姿、まだ生きているほうの影はあるもののゼリーの中にいるような、ありていに言えば機敏に欠ける。目的を達成したのか包囲に膝をついたのか、銃乱射していたころの派手さは消え失せて次の獲物を待つライオンのような緊張感すら感じられた。

 わけわからん。一言でいうならそんな感じ、と舞は思う。さっさと逃げるなりなにかしたほうがいいだろうにと考えていると、

「――静かに」

 視点を思案から現実に向けるとひとりの男性が近づいていた。

「……移動する」

「ちょっと待ってください。この子は怪我人なんですよ!?」

 そんなことを言って聞くようならそもそも強盗などしない。その意思表示に波平へ向けられたのはそれ以上の言葉でなくどこまでも暗く吸いこまれる銃口だった。

「大丈夫……早く歩けない、からおぶってくれると助かる、けど……」

「わかったよ」

 波平はかがんで背中を向ける。気づけば彼に巻かれていたはずのロープはどこかにいっていて、被害者という体をなしていない。


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