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恐れていた事 1

 その時だった。

 チンッという機械音と共にエレベーターのドアが開く。ゆっくりと漏れ出る空気と共に開放感のようなものを背中に感じていた数名は振り返り、そして飛び退いた。

 そこにはいるはずのない誰かの姿があった。

 反応できたのは薬師丸、六波羅と辛、そして遅れて新堂。それぞれが手近にいるものの手を引き、あるものは弾き飛ばすようにして道を空けるように左右に散る。

 ただ唯一、銘だけは1歩離れたところにいたため、逸れる余裕などなく状況を理解していない表情で突然の来訪者へ目を向けていた。

 青銅色の肌に精悍な顔つき、巨体の薬師丸をも越える身長に純金の鉾。それがエレベーターに数人と、狭く暑苦しい。

「――銘!」

 襟首を捕まれ振り回されながら舞は叫んでいた。退避の遅れた足先を、巨人の向けた鉾の先から放たれた光線が通り過ぎる。

 一閃。

 瞬きよりも速く、弓矢よりも鋭く、狙いはただひとつ、逃げるまもなく立ち尽くす銘へと向けられていた。

「あー……空気読んでよ」

 気兼ねなく言う銘の言葉と光線が衝突する。その威力を体感している舞は思わず目を閉じ、その結果を恐る恐る見るも、予想に反してけろりとした表情の少女が立っていた。

 粉塵が残り香のように立ち上る、至近距離で爆弾が起爆したような荒れ具合なれど毛先ひとつ乱さずに銘はいた。何が起こったのかは単純で、舞のナイフを受け止めた不可視の防壁が銘の身体を守ったに過ぎず、その跡を物語るように彼女の足元には黒く焼け焦げた地面が広がっていた。

 舞が無事なことを安堵するも束の間、それすらも想定通りだったと言うように緑の怪人は狭いエレベーターから飛び出して扇状に広がっていく。総勢5体、銛を構える姿は凶悪な犯罪者を取り囲む警察のようであるが、実際は蹴飛ばしただけで死んでしまいそうな幼女がいるだけである。

 銘は囲まれてると分かっても余裕綽々の態度を変えることはなかった。むしろ囲っているほうが機を伺っている始末である。となれば1番困っていたのは舞達人間だった。突然始まったSF映画顔負けの特殊効果を見せつけられ、その標的にならないようひっそりとしているしかなかった。生身でも拳銃程度なら軽傷で済む者はいるとはいえ、焼き切るような光線にどれだけ対抗できるか試す真似は出来ないのだ。

 分からないことは多くあるが、その最たるものは何故モンスターがコアの破壊を狙うかである。見た目は人間のようでも肌が緑に3メートルはあろうかという身長は人間とは思えず、しかしコアが破壊されてしまえばそれ以上ダンジョンが広がることはなくモンスターも生まれない。彼らの仮想敵である人間が、たとえ一体一体は取るに足らないほど弱くとも、ダンジョンの外には数えることも億劫になるほど数多いるのだ。コアのないダンジョンはいずれ崩れ落ちる、そうなってしまえば物量でいくらでも優位に立つ存在がいるというのに何故コアの破壊を目論むのか、謎であった。

 それを知るであろう人物、銘は指を鳴らす。ただそれだけだと言うのにすぐ隣に立つ者がいた。口からお茶を吐き出す女性型アンドロイド、気配ひとつなかったというのに初めからそこに存在していたような、能面の顔には仕える者の風格があった。

 人数的には優位に立つはずの侵略者もこれには驚いたようで、見て分かる程度には動揺が走る。野性的な行動が多いモンスターのくせにわかりやすく人間的な行動はむしろ滑稽に映っていたが、笑う訳にはいかなかった。

「……やーさん、どうする?」

 舞が囁くと狂島を抱えていた薬師丸が首を横に振る。それがいったい何を意味しているのか、真相はわからないが手も足も出ないということだけははっきりと伝わっていた。

 ならおとなしくしていよう、などと考えるほど舞は利口でなかった。

 新堂につかまれている襟の力が緩んだとみるや、蹴とばさん勢いで跳ね飛び前へと出る。その向こう見ずな行動に後ろから静止の声が降りかかるも無視して、緑の巨人と銘の間に立っていた。

 巨人を一瞥し、

「ちょっと! 誰に許可とってうちの子に手出してんのよ!」

 大声で叫ぶ。これには巨人も無視するわけにはいかず、さりとて攻撃の構えを解くような愚行を起こすわけにはいかない。岩のように彫りの深い顔には困惑の色がはっきりとにじんでいた。

 そしてもう一人、困ったものがいた。

「お姉ちゃん! 危ないからどっかよけてて」

 銘である。先ほどの光線をなんなくいなした彼女にとって巨人とは脅威になるものではないのだろうが、無鉄砲な馬鹿姉を守りながらとなれば話は別である。簡単な方法としては見捨てることに違いないのだが、唯一残った肉親である、仮に憎かろうとも簡単に切り捨てられるものではなかった。

 そんな思惑など知ったことではないと、舞は腕を組む。

「私に任せておきなさい」

 なんの根拠があって言っているのだろうか、勝算などもちろんないのだが、その自信満々な態度はいっそ頼もしくもある。常人の物差しで測れないからこそ、舞という少女に価値があった。

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