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はじまりの地へ 15

「なら波平くんにも同じことをしてくれればいいじゃないか」

 狂島の言葉はもっともであり、しかしひとつ大きな問題を抱えていた。

 それを見せつけるように舞が言う。

「じゃあ自分で貧者の水用意してください。あと銘がいなくなると直ぐにガーディアンが襲ってくるのでその対処もよろしくお願いします」

 当然である。貴重品、舞ですら今はひとつしか持っていない物を、あまつさえ使う予定があるなら譲渡するはずがない。だが自前で用意しようにもどこに置いてあるかすら分からないのであれば金を積むだけで解決もしない、事実上不可能だった。

 それより気になることが浮かび、新堂が横槍を入れる。

「舞、今の話を聞いてると鼻から波平に会わせる気がなかったどころかガーディアンに襲われることも加味していたように聞こえたのは気のせいか?」

「あっ……」

「あってなんだよ、あって。お前、マジふざけんなよ!」

 そこまで考えていなかったと素っ頓狂な声を上げた舞に、新堂は雷の如く怒鳴りつける。銘の話を真に受けるならミサイル、いや原爆並の破壊力を持つモンスターが襲ってくるのだ、思慮が欠けているなどで済まされる話ではない。

 さすがの舞でも失言だと気づいたようで、両の手を振って弁明する。

「えっと、その……ほらエレベーターも近かったし、それで逃げればどうにかなるかなぁって……駄目かな?」

「駄目に決まってるだろ」

 とってつけた言い訳を前にして、新堂は落胆の息を吐く。これでも成長したのだ、最初の頃なら悪びれる様子すらなかっただろうから。

 相変わらず真面目な雰囲気は続かないが、部下4人が揉みくちゃになって騒いでいる横で、話題の人物、波平が狂島を見つめていた。

 申し訳なさそうに、それでいて優しく頭を下げる。

「部長、気にしないでください。もう後悔もしてない……というか後悔という言葉自体忘れさせられているようなものですが。とにかく僕のことは大丈夫ですので。それより会社のことをよろしくお願いします」

「それで――」

「いいんです。それにどうにかして身体を得たとしても戸籍ないじゃないですか。そんなんじゃ生きていけないですよ」

 感情と現実、両方の面から波平は狂島の思いを引きちぎる。

 それ以上狂島はなにも言えなくなっていた。何を言っても無駄だと、その意志の硬さを否が応でも見せつけられてしまったから。

 だから言えることがあるならばひとつ。

「さよならだね」

「えぇ、さよなら部長」

 ふたりは別れの挨拶を済ませる。もう二度と交わることがないようにと。




「――お、おね、お姉ちゃん!」

「うっす」

 銘の意識を戻した舞が手を挙げて答える。わなわなと怒りに震える妹の姿を見ても眉ひとつ動かないのは豪胆という言葉ではいささか不十分に思えていた。

 銘からすれば突然意識を失わされたに等しく、このまま元に戻らなかったのでは無いかという恐怖に襲われていたこととなる。怒るのも当然であり、その矛先がなんともなしに飄々としているのだ、不満は解消される目処を立っていなかった。

 今はエレベーターの前、到着をドアの前で待っていた。大人達は歪な円を描いて並び、舞だけが1歩外にはみ出していた。それを見つめる銘は輪に加われず、いやその資格もないというような雰囲気を醸し出していた。実際その通り、コアと同化している銘はエレベーターに乗ることは出来ないからだ。

「今度やったら許さないからね!」

「……舞、いいのか?」

 駄々をこねる銘を見つめていた舞の後ろから、新堂が囁くように問いかける。今度いつここに来られるかなど分からないのだ、目的があるなら今のうちということだった。

 それに対し、舞は、

「ああ、別に。元気そうならいいんじゃない? もっと寂しい思いをしてるかと思ったから助けてあげようとしたけど、今のぐーたら生活のほうが幸せそうだもん」

 けろっとした感じで言う。それならまず話も聞かずにナイフを突きつけるべきではなかったのではと思うだろうが、聞き分けの悪さと開き直りの早さが彼女の特徴なのだから仕方がない。

 ただひとつ、舞は銘に言う。

「今、幸せ?」

「そこそこ、暇潰しはいっぱいあるからね。お姉ちゃんのほうこそ大変そうだけど、大丈夫?」

「妹が他人の心配してんじゃないの。地上に行きたくなったり死にたくなったりしたら言いなさい。お姉ちゃんがなんとかしてあげるから」

 えらく殺伐とした提案に、銘はにっこりと笑みを浮かべて、

「お姉ちゃんが子供を産むまではそんなことないから大丈夫だって。それよりいい人はいるの?」

 舞に向けられた言葉はそのまま後ろの男性陣にも向けられていた。

 揃いも揃って独身である、ただ干支が一回り以上上なのだ、夫婦より父娘に見られることのほうがしっくりとくるが、なにより男性陣にも選ぶ権利がある。

 女子とはこういう話が好きであるが、男としてはなんとも答えにくく、愛想笑いしか出来ない。辛はまた別の感情を表に見せているが話を振られた舞はと言うと、ただ大きくため息を吐いていた。

「あのね、見れば分かるでしょ。こんな身体に欲情する人なんていないし、いてもヤバい奴なの。子供なんて一生出来ないわ」

「えぇ……そうなんですか?」

 銘は見た目相応の無垢な目で舞の後ろを見る。なんと答えれば正解なのか分からない者たちは視線を逸らして1歩後ろへと下がっていた。

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