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はじまりの地へ 13

「夜巡さん、君はダンジョン最初の被害者であり最初の生還者だよね」

「らしいわ」

「でもそのあともダンジョンに取り込まれてしまった人は大勢いる。それに助かった人だって。1番になれなかっただけで埋もれている人のことを……って何言ってるんだろう?」

 話が変な方向へ転がり始めたことに、波平自身が驚き口を閉じていた。嫌味たらしいことを言われたところで舞に何が出来る訳でもない、純然たる被害者であり、最悪の運勢を引き当てただけ、それを羨ましがられるのであればいくらでも変わってやると豪語したことだろう。

 舞の背景を知っているならば誰もがそう感じるはず、少なくとも立場を羨むことなどありえないが、唯一、そんな馬鹿なことを口走りそうな人物の検討が舞にはついていた。

「波平さん、気にしないで。その身体の持ち主がちょっかいかけてきているだけだから」

「へぇ……そんなことも出来るんだ」

 波平は感心して小刻みに頷く。もはや肉体は情報を外に出力するためのツールでしかなく、意識は地球という母の元、曖昧模糊の海の中を漂うばかり。人という区切りが無くなった世界では意識の混濁が容易に起こる為、ひとつの身体に2つ以上の意思が入るなど不思議なことではなかった。

 当然そんなことを舞は知るはずもないが、何か理屈では証明できないことが起きているのだろうという観点から話しているだけにすぎない。ただの妄想と笑うことも出来るが、ダンジョン自体が空想から飛び出してきたようなもの、笑うに笑えないというのが実情である。

 ともかく、突然襲いかかった上、身体の主導権すら剥奪した姉のことを憎らしく思っている銘の可愛らしい反撃に舞は眉ひとつ動かすことはなかった。羅列すればするほど舞の悪行が目立つけれど、本人に悪びれる様子は一切見られなかった。

「で、よ。そのモンスター愛好会と波平さんがなんの関係があるわけ?」

 その舞が問う。話の流れから考えればつながりは明白であるが、波平の口から正しく聞くことを求めていた。

 波平は苦笑し、居心地悪そうにはにかみながら口を開く。

「モンスター愛好会はダンジョン原理主義団体の下部組織のひとつ、といっても活動内容なんてないに等しくて、自分の飼っているモンスターを持ち寄って交流したりダンジョンから連れてきたのを販売したりするだけなんだ。ほかの下部組織と違って平和、普通の会社員だったり家族、子供だっていたんだよ」

「はぁ……悪趣味なもんだな」

 話を聞いていた新堂が腕を組みながら感想をこぼす。棘のある言い方になるもの仕方がない、モンスターと言えば積極的に人間の命を取りに来る害獣であり、中には人の何倍も強いものだっているのだ。言うなれば飢えたトラやライオンがいる檻の中に自ら進んで入っていくようなもの、真剣な態度で仕事している身からしてみればふざけているようにしか見えなかった。

 それに対し、波平は反論せず、むしろ肯定するように頷いていた。

「実際にダンジョンへ潜ったものからすればそういう反応になりますよね、僕も少なからず思ったりしましたし。それでも可愛らしいモンスターと心触れ合うことのほうが何倍も価値があったんです」

「確かに」

 予想に反して反応を示したのは薬師丸だった。筋骨隆々、軟弱者を片手で捻り潰すであろう彼が賛同するとは露ほども思っていなかった周囲から、怪訝な目を向けられていた。

 別に体格の良い人がかわいいものを好きであってはいけない等という決まりなどない。が、薬師丸が好きであるということではなく、

「……あのな、どう思ってるかまるわかりだから言うが、俺個人の趣味の話をしているんじゃねえよ。ハンター業としてごくまれにそういう依頼も受けるってだけだ」

 しつこく絡む油汚れのような視線を断ち切るために、言い訳をする。

 ハンターと言えば自営業、依頼を受ければどのような内容であれ完遂が求められる。明らかに怪しい団体から危険なものを頼まれれば拒否することもあるが、子猫程のモンスターを欲するという、片手間でどうにか出来るものまでいちいち裏をとるなどしてはいられない。ただでさえ薬師丸の元には数多の依頼が舞い込んでくるのだ、そんな小さな仕事までいちいち覚えていないし、その後の事まで気にする余裕もなかった。

 関わっているが加担しているとまでは言えず、法に触れることもない。鳥獣保護法にモンスターの適用はないからだ。本来ならば予防接種など必要なのだが、モンスターを相手にする獣医などいるはずもなく、また一般的にモンスターを連れ歩いている人への忌避感があるため、大っぴらに飼育していますなど言えるはずもない。

 だからだろう、考えていくうちに狂島はとあることを思いつき口にする。

「だからダンジョン原理主義団体に入ったんだね」

「……どういうこと?」

 一歩分飛躍した言葉を聞いて、舞が疑問を声に出す。ただ話に脈楽がないと感じたのは彼女ひとりのようで、いちいち説明することを面倒くさく思った新堂は戸事へ目を向けていた。

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