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はじまりの地へ 7

 近代都市に近い場所で出来たダンジョンが成長するとどうなるか、その答えはすでに出ていた。

 岩肌や海、火山など、自然の風景から一変、ビルが立ち並ぶ街並みは現代の都会とそん色なく、唯一にして大きな違いがあるとするならば、そこに住んでいるものは人ではなく機械であるということだ。

 二足、四足、あるいは履帯を備えた機械たち。マネキンのような人型から箱型やボール型、己の爪や剣などを武器としていた他のモンスターと違い、近代兵器である銃やロケットなど、これまでの常識の通用しない難敵が迎え撃つようになっていた。

 強力な磁場により回路がショートするダンジョン内において、彼らだけがその影響を受けないというのもあまりに卑怯な話であった。モンスターだからの一言で片づけるには希望のある話であり、資源の再利用という観点からもできる限り駆除しその素材を持ち帰りたいというのが本音としてあった。

 しかしそんな簡単にはいかないのである。金属でできた彼らは単純に硬く、徒党を組んで襲いかかる。特に厄介なのが機械同士の連絡やあらゆる場所に設置された監視カメラによって、一度見つかればその階層を抜けるまで津波のように絶えずモンスターに襲われるのだ。遠近隙のない装備であることも相まって、安全に駆除するということが難しい以上、今はまだなるべく隠れてやり過ごすことが最善となっていた。

 い号の12階層とは、まさにその近代ダンジョンであり、しかし驚く場所はそこにとどまらない。

 1つの区切りとしたのは、この階層からコアルームまで直通の道があるからである。言うなればもう終点と言っても差し支えないのだがそれよりも言わなければならないことがあった。

「まさかエレベーターとはなぁ……」

 上向きの加速度を感じながら新堂が呟く。金属の箱の中には薬師丸と六波羅、あとは人事部の人間と、舞に関係のある人物しか居なかった。

 12階層に入ってすぐ、薬師丸は小さな掘っ建て小屋の戸を開いていた。他にいくらも高いビルが立ち並ぶ中、みすぼらしくもあるその建物の中はがらんどうとした空間に扉があるだけ。いやしかしどこかで見たことのあるものだと思ったのもつかの間、薬師丸が扉横のボタンを押していた。

 チーン、と軽快な音が鳴る。まさかと思う一同を置きざりにして、開いた扉のさきに歩を進めた薬師丸は振り返り、

「……なにしてんだ? 早く乗れよ」

 至極まっとうなことを口にしていた。

 てっきり階段か、はたまたスロープのようなもので下るものだと想像していた人間にとって、そのあまりに現代的な抜け道は受け入れがたいものだった。いうなれば風情がない、バリアフリー、ユニバーサルデザインが当たり前となった社会の影響がまさかダンジョンにまで及んでいるなどとは想像しろというほうが無理な話だった。

 それでも乗り込むほかない。あっけにとられながらもエレベーターに乗り込んだ一同は何とも言えない居心地の悪さを顔に張り付けながら、下り始めた箱の中で言葉を探していたのだった。

「楽できてよかったってことでいいんじゃない?」

「部長……」

「そ、そんな目で見ないでよ。僕だって驚いているんだし」

 楽観のすぎる言葉は注目を集め、狂島は蚊を払うように手を振っていた。

 ダンジョンにそれほど多く潜らない彼だからこその発言だった。ダンジョンとは人にやさしくなんてできていない、だからこそ本来ショートカットなんてものはないはずであり、新堂らにとってこうして安全に下れる状況を邪推なく受け入れることができないのであった。

「コアルームに直行できるって普通いいことじゃねえからな。このエレベーターだって途中で止まれねぇしガーディアンに襲われることを考えたら十分悪意あるトラップだぜ?」

「あ、そうですよね」

 7人が乗っても十分に余剰スペースがあるエレベーター、その扉から一番遠い壁に背をつけて腕を組む薬師丸が言う。口調は荒いが怒っているわけではない、生来この調子なのだ。それでも強い言葉を投げかけられれば体格を加味して萎縮してしまう。

 次の話題を探している間もエレベーターは加速し続けていた。1階層がどれほどなのかはまちまちであり、終点が何階層なのかも分からない、当然あと何メートルで着くとい電光板がある訳もなく、浅い呼吸音だけがやけに耳に残ることとなった。

 5分か10分か、いずれにせよ飽きるほど長い時間が経過していた。そわそわと小刻みに揺れる新堂がこらえかねてついに口を開こうとした時、肩を押さえつけられているような重圧を感じ、新堂は息を飲む。

 地獄の釜というわけではないが、緊張に顔を険しくするなか、やけにゆっくりと開く扉からは眩いほどの光が漏れていた。

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