はじまりの地へ 6
手榴弾の効果は絶大で、非常に高温の爆風は5メートル程度の火球を作り瞬時に蒸発していた。残ったのは削り取られたようなすり鉢状の雪原と、その隙間を埋めようと降りしきる雪、もとに戻るまで待つはずもなく、人々はその瞬時に凍った地を踏みしめてまた手榴弾を投げていた。
「こりゃ……卑怯だろ」
長くハンターをしている薬師丸ですら呆れるほどに効率的な作戦は6球を投げたところで目的を果たすことに成功していた。その陰で疲れ切ったと眠たげな眼をした戸事が役得のように辛の背に乗り、
「舞、煙草頂戴」
「いいですけど……お金貰いますよ」
いつものように小汚いポーチから自製の紙巻きたばこを取り出した舞が言う。それに対して指先から炎を灯した戸事が一服、全身へ染み渡る快感に瞳を潤ませて、
「あぁー、効くわ。ダンジョン由来のものがいいのかしらね。で、お金なら課長にたかりなさい」
「いやなんで俺なんだよ」
「会社のためにしてるんだから経費で落としてくださいよ」
戸事がもっともらしくいうが、雪空の下、新堂は眉間を押さえてうなだれていた。
その理由が、
「いや、ありがたいとは思っているんだが、経理にどう説明すればいいんだよ。たばこ代だなんて言えるわけもないし、舞が領収書きれるとも思えねぇし」
「そこは課長権限でうまくやってくださいよ」
気持ちよさそうに人の背で煙草を吹かす戸事は、頑として財布の紐を緩める気などなかった。
4階層を突破し、5階層6階層と見どころなく進んでいく。ダンジョンに出てくるモンスターはその大きさを増していき、より狂暴になっていくがまだ対応可能なレベルに収まっていた。
しかし精神的な疲労は溜まっていくもの、いついかなる時でも気が抜けない状況とは歴戦の戦士であろうと苦痛に感じてしまうのだ、7階層にいく前、湖の広がるフロアにて一時休憩を挟むこととなっていた。
10分ごとに見張りを変えての3交代。あまり休憩を多くとってしまえばかえってだらけてしまうという判断であった。
湖畔というのも身を守るうえで重要な要素となっていた。開けた場所はモンスターの強襲から対応するまでの時間を稼ぐことができ、水辺から来るモンスターは地上では戦力の半減してしまうものも多い。絶対はないがベターであると言えた。
その休憩中、思い思いの体勢で休む人々のなか、ここまで活躍のない少女がひとり、練り歩いていた。ほとんどが座り、立っている舞のほうが見下ろす状況下でなにをしているかと言えば捜し人、ここまで連れてきた熊のような巨体を探していた。
そんな目立つものすぐには見つかるもので、1人輪を外れて無警戒に寝転ぶ涅槃像かトドのごとき薬師丸の、大きな背中を合わせて座る。
「……暑苦しい」
「銘は元気?」
「5年も聞いてこなかったのにいまさらそんなこときくんじゃなねえよ」
お互い殴り合いの会話を続けていた。それがいつもの会話とでも言うように。
それこそもう5年以上の間柄なのだ、話し始める前のワンクッションなど必要ないとはいえ、言葉にしなければ分からないこともある。先に問うたのは舞だったはずなのに、予想だにしない言葉を浴びせられ、首を傾げていた。
「今更って、別にいいでしょうが」
「いい悪いって話じゃねえよ。何が目的かも知ってんだ。言っとくがやらせる気はねえぞ」
凄みを効かせた声は、誰もが萎縮するほどに低く轟く。しかし舞にとっては子守唄のように耳を通り抜けていた。
「私はあの子の姉なの。身内のケジメは自分でつけるわ」
「それが遅せぇって話をしてんだよ。逃げて今更、銘の奴だってそんなこと望んじゃいねえよ」
「このっ……」
殴る。が、それはあまりに軽い一撃であった。
撫でただけのような殴打は痛みなどなく、むしろ手を出したほうの心を強く傷つけるだけ。
「……ならなんであの時そう言ってくれなかったのよ」
後悔混じりの声に返事はなく、ただ広い背中だけが寄りかかることを許していた。
休憩も終わり、探索が開始された。
その後も順調、とは言い難く、強くなったモンスターへの対処が難しくなりつつあった。
今までのように陣形をつくり駆除するというやり方に限界を迎えたことを認識した一同は、8階層から探索の仕方を変えることを選んでいた。
その方法とは、少数精鋭による、なるべく接敵せずに進むというものだ。
人数が多ければ出来ることも増えるが、安全を意識するならばモンスターに見つからないに越したことはない。要は今より深い階層に対応できない足手まといの人員を置いて、守る人間を最小限にすることだった。
その作戦は1歩間違えれば非常に危険であるものの、だいたいの道を知る薬師丸のおかげで迷うことなく進むことが出来ていた。
そして1人も欠けることなく、最初の目的地である12階層に着いたのだった。




