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「あれ、ここは……」


 俺は気付けば知らない場所にいた。

 白い壁に白い天井。

 殺風景な部屋で、なんとも微妙だと感じた。


「おお、目覚めたかの勇者候補」


 そしていつの間にか目の前にお爺さんがいた。

 お爺さんの顔がどアップで目の前にあった。


「うわ! こわ! 年寄りのどアップこわい!」


「地味に傷つくことを言うでない。儂は神じゃ、そしてここは天界。今回訳あってお主を呼び出したのじゃ」


 お爺さんは神と名乗った。見てみれば天使のわっかもついてるし、古代ギリシャ風の衣装も着こなしている。


「神って、そんなの信じられません」


「お主は死んだのじゃ。記憶がないか? お主の通う学校からの帰り道、車に敷かれたのじゃが」


「あ」


 思い出した、思い出してしまった。

 そうだ、俺は高校からの下校中、道端に寝転んでる子猫を助けようとして、それでうっかりトラックに……


「ああ、思い出したくない記憶を思い出してしまいました」


「そうか、じゃが安心しろ、今回は結果お主を救うことになるかもしれん」


「どういうことですか?」


「実はじゃな、お主には異世界に転生し、魔王を討伐してもらいたいと考えておるんじゃ」


「いきなりでビビりましたよ。異世界に転生って、そんな話本当にあるんですか?」


「あるんじゃ。実はそのカルカンテラという世界で近年、最強の魔王が誕生してしまっての。これが歴代でもダントツトップクラスのとんでもない個体なのじゃ。その世界にも現地人勇者がおるのじゃが流石に荷が重いようでの、このままじゃと世界が魔王に統一され人間が滅びかねん。そこで、お主に新たなる勇者として別の角度から魔王を討伐してもらいたいんじゃよ」


 なるほど……どうやらその世界がやばいということは確からしい。


「事情はうっすら分かりましたが、どうしてそこで僕なんですか? もっと他にいい人材もいるんじゃないですか。伝説のボクサーとか」


「それは簡単な話じゃ。お主が物凄い魔法適性を秘めておるからじゃよ。特に魔力保有量が素晴らしいな。ほぼ無尽蔵なレベルじゃ、儂も最初見たときは己の正気を疑ったわい」


「魔法、ってそんなもの僕使ったことないですけど」


「それは当然じゃろう。地球に魔法を使える構造などありはせんのじゃから。じゃがその世界では魔力を元とすることで魔法という技を行使することができる。そしてこれは努力でも多少は上達するが、基本的にはその者の素質が左右するところが大きい。その点お主の適性は素晴らしすぎるのじゃ、お主ならあの魔王といえど討伐するのも夢ではない」


「はぁ、なんとも実感は湧きませんが……」


「ま、こちらとしては是非頼みたいところじゃが、もちろんこの誘いを断るということもできる。当然その場合は車に潰されて死んだままの奴になるがの」


「うーん、まぁ転生してくださるというのであれば、もちろんのりますよ。本当に大丈夫なのかどうかという点で不安しかないですけど」


「そこは大丈夫……のはずじゃ。儂を信用せい、これでも神なのじゃからな」


 転生させてくれるのはありがたいが、重大なミッション付きというのがちょっとなぁ……と思ってしまう。まぁ俺に選択肢はないし、やれということならやりますけどね。なんたって神様からの頼みだし。


「じゃあ早速転生させるからの」


「え、いきなりですか」


「お主の魂を繋ぎ止めておくにも限界があるんじゃ。このままじゃと下手したら奈落の世界にロストしかねん。その場合は輪廻の輪に加わることもできず永遠と闇の中を――」


「転生の方、早急にお願い致します」


「うむ、それでは儀式に移るぞい。お主の健闘を祈っておる。頼んだぞー」


 俺の体が光に包まれ始める。

 そうこうして急な話だが俺は異世界に転生することとなった。

 なんだか物凄く不安だが、大丈夫なのかな。

 まぁなんとかなるか、おまけの人生と思って、楽しもう。








「しゅわっち!」


 視界を覆っていた光が晴れ、俺は地面に着地した。


 俺がいる場所は……森の中だった。


「なるほど、初手は森の中ですか。まぁ王道といえば王道だな」


 例えば街中とかにいきなりこんな光と共に現れたら間違いなく目立ってしまう。

 やはり初手は森か草原と決まっているのだ。


「でもここが異世界かー。あんまり実感が湧かないな。いっそのこと魔物とか魔族とか現れてくれたらわかりやすいんだけどな」


 何はともあれこの世界で俺は生きていかないといけない。

 これから死ぬまでな。できれば寿命で死にたいところだけども。


「ま、なるようになるでしょ。まずは魔法でも試してみますか」


「ぎゃあああああああああ!!」


 そんなことを考えていると、どこからか下品な叫び声が聞こえてきた。

 なんだなんだと思っていると、木々の間から両手を上げながら何者かが爆走してきた。

 その人物は女のようだった。

 まだ若い、俺とおんなじかそれよりも下くらいの容姿だ。

 そんな人物がこちらに突っ込んできたのだ。


「ええ、どういうこと……」


「逃げて! そこの人逃げて! もう!」


 女の子はこちらに走ってきたかと思うと、すれ違いざまに俺の手を取り一緒に駆け出した。

 いたい、痛い痛い、腕がもげる……!


「ぐへ、痛い、痛いから! どういうことなんだよ!」


 俺はたまらず叫ぶ。

 少女は見た目に似合わず凄い足の速さだった。

 間違いなく俺なんかよりも速い。

 完全に引っ張られる形になってしまっている。


「キングタイガーに追われてるの! ああ、もうすぐそこに」


 後ろを振り返る少女の必死な顔がちらりと見える。

 赤茶色の髪のショートカットの子で、シンプルにめちゃくちゃ可愛かった。こんな時だというのにちょっとだけ見とれてしまった俺がいた。ああ、俺も男だなぁ。マジで情けないわ。自分で自分が嫌いになりそう。まぁ童貞なんてこんなもんだろ。


「ぐはッ!」


 余計なことに意識を割いていたからだろうか。

 足がもつれてしまい、思いっきりずっこけてしまった。


「ちょっと! ……ご、ごめんなさい! あなたのことは忘れないから!」


 女の子は転んだ俺を置いて走り去ってしまう。

 

 後ろを振り返ってみる。

 巨大なトラのような生物がすぐそこまで迫っていた。

 ああ、これって……詰みですか?



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