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そして、4人は岐路に立つ。

涼介達と凌空・葵は警察で事情聴取を受けることとなった。

幸い、通行人たちが動画などを取っていた為にこちらが被害者ということがすぐ判明し簡単な聞き取りで解放された。

署を出ると凌空の部下が迎えに来てくれていた。

涼介達も各自送ってもらいその日は帰路に着いた。


高田の葬儀は社葬で行われた。

会長である父が喪主となり、高田の弟が式を取り仕切る。参列者も多く、皆高田の死を悲しんでいた。

弔問に訪れた凌空の姿は、この数日間ろくに眠れていないのか、顔色が悪く目の下にクマが出来ていた。

心配した涼介や葵が声を掛けるも、大丈夫と言って会社に帰っていった。


日野哲太は一命をとりとめたが、全身麻痺となり病院から出ることはもうないだろうとの事だった。部屋には自作銃を作るための図面や材料・工具が散乱していたらしい。


そして、その涼介の家でも様々な問題が起きている。


帰路に着いた涼介はソファーに座りフーッと息を吐く。

汐は台所で夕飯の準備を始める。摩耶と俊太は部屋から出てこない。無理もない、あの日の出来事は子供達にはあまりにも辛すぎる事件だった。

明日からは葵がセラピストとして来てくれることになっている。

時間は掛かるけどきっと大丈夫と話してくれているので、やり方は専門家である葵に任せることにした。


涼介が会社から戻ると家の中が大変なことになっていた。

リビングに入ると、床に座り込んだ俊太を守る汐と、立ったままの摩耶がものすごい剣幕で捲し立てている。

「ママがこんなやつを産むから皆不幸になったんだ!俊太!お前が家族を不幸にしてるんだよ!」

摩耶は泣きながら後ろにいる葵に抱き付いた。汐は涙をこぼしながら俊太の頭を撫でている。涼介には一体どうすれば良いのかわからなかった。

その日の夜3人で話し合うこととなった。


「今は摩耶と俊太を分けて暮らした方がいいかもしれないね。」と葵は言う。

いつもの涼介であれば必ず反対するであろう状況なのに、今回は何も言わなかった。

涼介は葵の提案を確認する前にどうしても聞いておきたいことがあった。


「汐、僕は君を愛している。そして君が僕を愛していることも分かっている。」

「ただ、一つだけ君の愛は俺と違うことがある。それは君の心の中にはもう一人の『愛してる人』が居ることだ。」

俯いたままの汐に涼介は静かに問いかける。「リョウ君て誰なんだ?」

部屋に沈黙が流れる。この空気に居た堪れなくなった葵が何か言おうとしたとき、汐は静かに話す。

「リョウ君は大川凌空のことです。」

部屋に沈黙が流れた後「...そうか」と、涼介は静かに返事をした。

高田は亡くなる前にこう話してた。「リョウ君はお前なのか?」と。その理由が今明かされていく。


中学生の時、凌空と同じクラスに「大川 陸」という同姓同名の子がいた。

クラスの誰かが同姓同名でややこしかったので、大人しかった「陸」の方を渾名で呼ぼうと話し始めた。

それを見かねたのか、凌空は陸に話し掛け、「陸君おはよう、僕たち同姓同名でわからなくなるといけないから僕のことはりょうって呼んでよ?」と話し掛けた。

クラスの皆も「それなら」ということで凌空はリョウと呼ばれることとなる。

そして、高校になるとその陸君とも別れたので、周りの皆は凌空りくと呼んでいたのだが、汐や葵は昔の癖で「リョウ」と呼んでいたのである。


(そうか、あの時助けを求めていたのは「涼介」ではなく「凌空」だったのか...)涼介は内心で少し寂しさを感じていた。それと同時になぜ凌空は自分に彼女を紹介したのだろう?涼介にはそこがどうしても理解できなかった。


そんな中、沈黙を破り葵が話し出す。

「涼介さ、多分疑問に思ってるだろ?なんで好きな子を自分に紹介してきたんだって?」

汐と涼介は同時に葵の顔を見る。

「ほんとはあの日、私を涼介に紹介するつもりだったんだよ。」涼介は驚く。

「私さ、前から涼介のこと知っててさ、気になってたんで同じ野球部の凌空にセッティングお願いしたんだよ、私ひとりじゃあれだったからさ、それで汐に付いてきてもらったんだよ。」

「そしたら当日涼介は私に目もくれず、涼介は汐に猛アタックし始めたってわけ。凌空も助けてもらった事もあったし言い出せなかったんだろうね。凌空がその時から好きだったかはさすがに知らなかったけど。」

涼介の中にあった点と点が線になった瞬間だった。最初から凌空は汐のことしか見ていなかったのだ。なのに、あいつは俺や汐の幸せを優先するために身を引いた、この年まで独身を通してきたのはそう言う事だったのか!と。


涼介の目には自然と涙が溢れ出した。汐も涙を流している。

「涼介さん....ごめんなさい....あの事件の時まで凌空のことは完全に忘れていたの、でも...思い出してしまったの....ごめんなさい....」


「凌空、ちゃんと言ってくれねーとわかんねーよ、お前が俺を大事に思ってくれてるように俺だってお前のことが大事なんだよ、お前義理堅すぎんだよ。お前のせいでまた汐を泣かせちまったじゃねーか!」肩を震わせて泣く涼介。

ふと、頭の中で高田の声が蘇る。「ボタンの掛け違い...。」


顔を上げると葵は大声で泣きじゃくっていた。


少し時間が経ち、3人が落ち着いたところで意を決した涼介は話始める。

「汐、僕たち離婚しよう。」その言葉にはっとした汐は顔を上げる。涼介は話し続ける。

「君が僕を愛しているのは知っている。僕もその気持ちは変わらない。でも...」

「君の本当の気持ちは今どこにある?きっと此処ではないところにあるんじゃないか?それはきっとその人の事を本当に『愛してる』ってことなんだよ。」

汐の心は涼介に全て見透かされていた。涙ぐむ汐に涼介は優しく声を掛ける。

「汐、どうか泣かないで。これ以上泣かせたら凌空に合わせる顔がない。僕は嬉しかったんだ。そんなに好きな人がいるのに決して表に出さず今まで僕だけを愛してくれていたことを。でも、もう我慢しなくていいんだ、もう自分の気持ちを元に戻してあげて。」

そう話した涼介はスマホを取り出し電話をかけ始める。

30分後、インターホンがなり玄関を開く。そこには凌空が立っていた。

そして、廊下には汐と俊太が荷物を抱えて立っていた。

涼介は凌空にこう告げる。「2人を頼む」と。

凌空は静かに「分かりました」と告げる。

汐は振り返り「今までありがとうございました」とお辞儀して静かに扉を閉めた。

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