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そして、友は眠りにつく。

18:00を回り、暗くなり始めた夕方、涼介のスマホが突然鳴った。着信の相手は高田だった。

「もしもし、涼介か?ちょっと面倒なことになってきた。」高田は続ける。「日野がこの町に戻ってきてるらしい。」その言葉に涼介は戦慄を覚えた。

急いで高田と落ち合い、自宅に向かって走り出すとスマホの着信音がなる。汐からだ。

「もしもし、あなた!俊太と摩耶が連れ去られる!」汐からの混乱した電話に涼介は慌てて答える。「今どこにいる!」「うちのマンション近くの公園よ!」

場所を確認した涼介は全速力で走り出す。高田も走るがついていくのがやっとだ。

公園に到着すると男が子供達を後部座席に押し込もうとしている。それを女性が必死に止めようとしている。

「摩耶!」涼介が叫ぶと男は子供達を乗せようとするのをやめこちらを見る。

その姿はガリガリの体躯に髪がぼさぼさで無精ひげを生やし目にはクマが出来ていて何かをぶつぶつ言ってるようだった。しかし、その目つきには見覚えがあった。日野哲太だ。

日野は娘の首にナイフを突きつけ叫ぶように話し始めた。

「俺はお前のせいで人生をめちゃくちゃにされた!汐と俊太は返してもらう!」

薬か何かをやっているのか手が震え目の焦点があっていない。

涼介達が日野まであと5メートルほどに迫ったところで、日野は優しい声で汐に話しかける。

「さぁ汐、俺たち3人でまた暮らそう?ホントはさ、いやだったんだ、お前に枕営業をさせるの、でもさ、おやじがどうしてもやらせろと聞かなくてさ、俺逆らえなかったし仕方なかったんだよ、でももうあいつはいない、だから、一緒に、さぁ!」

涼介の中の怒りは爆発寸前だった。しかしそれは汐の心からの叫びでかき消される。

「誰があんたなんかを好きになるか!あんたのせいで私や涼介さんがどれだけ苦しんだと思てるんだ!あんたさえいなければみんな幸せだったんだ!」

そして、さらに大きな声で叫んだ。

「お前なんか消えてしまえー!!」

両膝をついて泣き叫ぶ汐の告白を聞いて、日野は狼狽した。

この時を待っていたかのように、日野の後ろから飛び出す影が見えた。凌空だ!


凌空は素早く日野の持ったナイフを奪い、力ない日野を押し倒し馬乗りになって殴り始めた。

何度も凌空の拳が日野に吸い込まれていく。そして、凌空は叫ぶ。

「貴様さえ、貴様さえ居なかったら汐ちゃんが悲しまずに済んだんだ!貴様さえ、貴様さえ居なければ誰も不幸にならずに済んだんだ!貴様さえ、貴様さえ居なければ!!」


駆け付けた高田は凌空を日野から引きはがす。日野は仰向けになったまま動かない。

高田は凌空に叫ぶ。「やめろ凌空!お前はこちら側に来てはいけない!お前は数多の従業員とその家族を守らないといけないだろ!これから先は俺に任せろ!」

涙を流し目を見開いた凌空を高田は強くも優しく諭す。

しかし、次の瞬間、抑え込んでいた涼介を払いのけて日野は何かを高田に向けた。

「パン!パン!パン!」

乾いた音はマンションの中を木霊した。

次の瞬間、高田は日野の首を締めあげた。ばたばたと藻搔く日野。次の瞬間「ボキッ」と音が鳴り日野はそのまま動かなくなった。

そして、高田は日野を腕から離すと口から血を流し倒れこんでしまった。

「高田さん!」

凌空は駆け寄る。だが、高田の息遣いは荒い。

高田は自分の状況を確認する。...血が黒い...肺と肝臓を撃たれているようだ。

自分が助かる可能性が少ないことを悟った高田は凌空に話しかける。

「なぁ凌空、俺お前に言いたいことがあったんだよ。」凌空は頷く。

「中学の時にさ、お前をいじめてたこと、俺ずっと後悔してたんだ。」

凌空は無言で首を振る。

「お前が涼介を助けたいと頼ってきたとき、俺本当にうれしくてさ、俺やっと償えると思って。」凌空は何も言えずに高田を支える。

「でも、うまくいかないなぁやっぱ俺は王子様にはなれねぇゎ」

凌空は涙を流しながら答えた。

「先輩は...汐ちゃんのことがまだ好きなんですね。」

高田は咳をしながら答える。

「そんな昔のことは忘れたよ...。」

高田は少し息をしてこう告げる。

「凌空、涼介と葵を呼んでくれ...」

凌空は汐と子供たちのところに行き、高田のもとには2人がやってきた。

「もう喋るな!じきに救急車が来る。病院に行けば助かるから!」

涼介は話すが、高田は首を横に振り話を続ける。

「いいんだ、どうしても話しておきたいことがあるから...」高田は続ける。

「涼介、小須田の動画は...観たか?」

涼介は顔を高田から背けながら「あぁ」と話す。

「そうか、つらいものを見ちまったな...」と話し、高田は小声でささやく。

涼介は驚き、葵の顔を見ると目に涙を浮かべ黙って高田を見ている。

「凌空は頭がいいくせに妙にそっちは疎い奴でな....そして馬鹿が付くほど義理堅い。」

高田は笑うと同時に口から血を噴出した。

「高田!!」

うつろな目で高田は最後の言葉をつぶやく。

「葵の言ってたボタンの掛け違い....やっと意味が分かったよ。」


その言葉を最後に高田は二度と喋らなかった。





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