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そして、次の幕が上がる。

サンホーム建設が倒産してから10年の年月が経った。

涼介は3年前に会社を独立して旅行代理店を興していた。

前に勤めていた会社からは全力で止められていたのだが、独立に必要な資格も取れたので、自分の夢を叶えたいと固辞した。

「それならば仕方ない、私も応援するから頑張ってくれ」。と薮田社長の激励を受け独立と相成った。

最初こそ苦戦したが、涼介の経営手腕は徐々に磨きがかかり、周りの応援もあり何とか軌道に乗っていた。今は事務の汐と数名の部下と共に多忙な時間を過ごしている。

汐は涼介との再婚後すぐに男子を産んだ。しかし、この子は涼介とDNA上の繋がりがない日野の子供だった。

二人が帰ってきた夜、汐は妊娠していることを打ち明ける。監禁状態から解放したときにはすでに25週目に入っており堕胎は出来ない状態だった。涼介はもっと早く助け出せなかったことを後悔する。

生まれた男の子は汐が俊太しゅんたと名付けた。

俊太は活発で聡明な子であった。涼介も自分の子として大事に育てた。ただ、年を重ねるごとに俊太の目つきは、クリっとした2人の目つきと違い、細い目つきだった日野の目に似てきていた。その顔立ちを見るたびに涼介には小さな不安が募っていった。


とある日の夜、涼介家族は居酒屋で高田、葵と一緒に食事をした。

凌空も誘ったのだが、新しく建てる自社営業所の打ち合わせで来れないとの事だった。

面白い高田にすっかりなついている俊太は高田から離れなかった。摩耶はスマホをいじり、汐と葵は談笑しながら近況報告をやっている。

汐たちが涼介と再会した頃、不安定な心の汐と摩耶を心配して葵は毎日汐のもとへ訪れた。

葵はセラピストの資格を持っており、それが功を奏して汐と摩耶は安定した気持ちを取り戻すことができた。

「葵、あの時は本当に助かったよ。ありがとうな」と涼介が改めてお礼を言うと、葵は照れ臭そうに手を振り「いやいや、大したことはしてないよ?ほら、汐はこんな性格だからさ?話せば楽になるかなーって思って話してただけなんだからさ!」早口でしゃべる葵に(本当にやさしい子だな)と涼介は思い、再度感謝の言葉を伝えた。


居酒屋で涼介一家と別れた後、高田と葵は別の店で飲み直す。

「独身生活に乾杯!」とグラスを交える二人。やがて二人は過去の思い出を話し始めた。


「ねぇ高田、あんたどうして結婚しないの?」葵はカクテルグラスを摘み、ニヤニヤしながら話しだす。

怪訝そうな顔をしながら高田は「いいだろ別に、俺はみんなの王子様なんだからさ!」と冗談交じりに話す。

葵は口に含んだカクテルをブッ!として「なーにが王子様だよ!熊みたいな顔してさ!おまえ世界中のうら若き乙女たちに謝れ!」と爆笑しながら高田の背中をバンバン叩く。

苦笑いをしながらハイボールを飲んでいる高田に葵が質問する。

「まーだ汐ちゃんのことが好きなのー?」と顔を見ながら話してくる葵に小さなため息をして高田は話す。

「一体いつの話をしてんだ、中学時代だぞ?それに凌空が頑なに紹介しなかったからマジであいつを殴ったからな、まぁそれが原因で涼介と大喧嘩になったんだけどよ。」高田はまずそうにハイボールを飲む。

「高田・凌空・汐・わたしの4人はおな中の先輩後輩だったからね~高田みたいな先輩にあんだけ拒否出来た凌空はすごいよ。」葵は話すと高田も頷き「あいつは俺と付き合うと汐が絶対不幸になると思ってたみたいだしな。俺あの頃はやくざの息子で悪い意味で他校にも知られた存在だったから」と、やはりばつの悪い顔をして話す。

「あいつ、体も細いし運動神経も大したことなかったから、野球部でスコアラーやってたけど、あいつのアドバイスは的確だったからなぁ。相手の癖や球種はもちろん、次に何を投げればいいとキャッチャーとよく打合せしてたし、1回戦敗退レベルのうちがベスト4まで進出できたからな。ほんと、あいつと涼介のお陰だよ。」

高田は懐かしむようにグラスを眺める。そんな高田をじっと見つめる葵に、高田はハッと我に返り「俺が結婚しないのは、家庭を持っても不幸にするのが分かってるからだよ!」と話しハイボールを一気に飲み込んだ。葵は何も言わずカクテルのお代わりを注文する。

「そういうお前はどうして結婚しないんだ?」と、今度は高田が葵に問いかける。

グラスを回しながら葵はふと答えた。「きっとボタンを掛け違えたからだよ…」

何を言ってるのかわからない高田はそのままじっと空のグラスを眺めていた。


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