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どうやら龍と私、精霊と魔術使いは相利共生しているらしい

 

「ちか、チカか。よし、これからはチカって名乗ろう」


 それにしても自分の名前の由来があんな感じだったとは……。


「オマエの妹の方が憐れではないのか?」

「妹? あぁ、なのちゃんね!」


 私の妹の名前は七叶(なのか)。七月七日生まれの女子大生なはずだ。

 なのちゃんは、ケチがつかなければななちゃんだったはずなのに、母が選んだ産科で一足先に産まれた子がナナちゃんだった。

 両親は七日に産まれたら菜那(なな)と付けたいと、出産予定日を教えてもらったときから話していたらしい。でも、その母親が先に出産し、直ぐにナナと名付けたようだ。名前が被ることくらい珍しくもないし、使う漢字が違うかもしれないのに、わざわざ病室にやってきて真似しないでねと母に言ったらしい。


『本当にもう、すっごく嫌な感じだったわ。ママ、あんな人がいるのかってビックリしちゃった』


 知り合いでも顔見知りでもなかったから、無視しても良かったけど、かわいい我が子を呼ぶたびに嫌な記憶が思い出されるのも不愉快ってことで、七日生まれの七叶(なのか)ちゃんになったのだ。


「憐れってことはないはずだけど」


 なのちゃんは、自分の名前を嫌っていなかったはずだけどね。


「オマエの両親は名前の由来を誤魔化さずに伝えたろうな」

「確かに! きっとなのちゃんも作文の宿題で躓いたよ」


 なのちゃんとは歳が離れていたからか、あんまり覚えてることがないな。私も部活とかが忙しかったし、就職後は実家を出たからなぁ。でも、残ってる記憶も曖昧なんだよね。


「オマエは引き千切られた魂だからであろうな」

「えっ!? じゃあ私ってずっとこのままなの?」

「千切れた部分はもとには戻らぬな。我に混じったオマエの残りカスは、自然消滅するまで消えぬ」


 カス…………。まあいいや。そんなことより、龍は精神的に問題があると、不死鳥みたいにリセットされるようだ。基本的に身体には寿命というものがないし、記憶も継続される。本来ならば目覚めた龍はリセット後のはずなんだけど……。


「なるほど、我の拘束を解いたのは皇太子(フローリアン)だったか」

「ん? あの黒髪は知り合いなの? ああー……」


 狂った龍は一時シャットダウンしていたのだ。龍は死んでまっさらになり、新しい龍が目を覚ますはずだった。

 確かに狂い始めたところからは、記憶がプツリと途絶えて何も残ってはいない。しかしなんだ、龍としての基本的な知識はちゃんと残ったままらしく、私には覗けない部分があるようだ。

 この世界の在り方のようなものには、私の意識は介入できないらしい。


「皇帝は我の体を燃やさず封印したのか?」


 狂った龍など、骨も残さず無に帰すまで燃やし尽くすかと思ったのだがな。宰相も黄昏にむかう血筋になど、情けをかけるべきではなかったのに。

 我が目覚めてより、一日と経ってはおらぬ。抜け殻にさえ拘束具をつけるなど、我はよほど恐ろしかったのだろうか。

 いや、我の所業を知ってなお、あのような呪具をつくるとは思えぬ。皇太子(リアン)もすぐに破壊したではないか。であるならば、あの胡散臭い中年男か? 一体どれほどの精霊たちが犠牲となったのか。


「呪具師など、この大陸から駆逐したと思ったのだがな」


 精霊の目を避け粛清から逃れたゴミが、いまだに存在していたようだ。あの男も、そして呪具に関する資料があるならば、全てを焼き尽くさねばならぬ。ここから離れるときは、いちばんに報復に向かわねば。

 精霊の協力のもと作成された魔道具ならば、我はなにもしなかったのだが。


「確かに! あの呪具が壊れたときに報復するって言ってたよ」


 ずいぶん物騒な発言だよな。それだけ精霊が大事なんだろう。精霊が受肉したものを妖精と呼ぶのは、龍じゃなくて私の世界の記憶だったか。龍の記憶を共有する者として言わせてもらえば、こちらの大陸では精霊も妖精もさほど違いはない。

 基本精霊たちは大気にとけてフラフラしているので、よほどのことがない限り人の目に触れたりはしないのだ。気に入った生き物のそばで過ごし、魔素の消費の手助けをしながら力をつけていく。人は精霊の(あるじ)というより宿主で、イソギンチャクとクマノミの関係に近いと思う。


 力を持った精霊たちが宿主を亡くして集まった場所は、自然と魔素が集まってしまう。人々はそこをダンジョンと呼ぶが、正しくは精霊の棲家のひとつだ。龍の感覚からすると、世界の意志に沿った効率の良いシステムだと言える。

 まず増えすぎた魔素が澱まぬように魔素から生まれしもの(魔獣)が生まれ、それを倒すハンターや魔術師を戦利品を与えることで精霊の棲家(ダンジョン)に集める。

 あとは彼らに寄り添う精霊がそこで魔術を使うことで、過度に集まった魔素を散らし循環させる。

 その結果、魔術師らの精霊は力を増やすことになるらしい。


「けどさぁ、記憶はそこそこ共有してるけど、知識はそうでもなくない?」

「オマエの知能では理解できぬのでな」

「はぁあ? …………でもそれもそうか。じゃあわかんないときは教えてね」

「フム、許容範囲内ならな」

「ありがとう、助かるよ。人の常識とかは聞かないから安心してね」

「…………フンッ。人付き合いはオマエの方が慣れているか」

「ねぇ、そろそろお前呼びはやめてよ」


 三田の真似をして呼んでるんなら、ムカつくだけだからね。こんな記憶が残るくらいなら、もっと自分のことや家族のことを覚えていたかったのに。


「私にはチカって名前があるんだからね。龍の名は……無いのか。神竜様? 間違われてんのかぁ」


 レンオアム公爵? 王族が便宜上使っていた身分だな。王侯貴族を筆頭に、国民全体で敬ってるのに訂正すらしないから、永遠に間違ったままじゃん。(ドラゴン)と龍は違いますって言っとけばいいのに。龍は人に興味がなさ過ぎじゃない?


「そのようなことはないぞ。我も菓子は好んでおる」

「お菓子の話なんて、いまはやめてほしかった」


 お腹が空いていたのを思い出しちゃったじゃないか。


「とりあえず一番近い街の位置を把握しとくかな」


 龍だとわかったならば話しは早い。天高く舞い上がり、まとわりつく雲を吹き飛ばしてまわりを見渡した。それなのに、未来まで見通すと恐れられている龍の眼をもってしても、遥か彼方、地平線まで人の営みが感じられないのだ。


「あーっ! マジかよ」


 山や森に隠れて見えないのではない。言うなればレーダー探知機のような能力を使ってみたが、半径二百キロ範囲内には街どころか村の気配すらなかったのである。


「数日野宿するのは、身体能力的には問題ないのか?」


 しかし、人として生きた記憶が、まともな家が欲しいと喚くのだよ。屋根のある快適な場所で、ふかふかのお布団で眠りたいとゴネている自分を宥めつつ、この世界の情勢について考えた。


「我も地べたでなど眠れぬ。菓子も毎日食べたい」


 無茶言うなぁ。帝国にいた頃とは違うのに。村すらないのに菓子なんて手に入るわけないじゃんか。


「あの国に戻るのは問題があるんじゃないの?」

「そうだな、我が皇弟を死なせたようなものか」

「まぁ、帝国からはけっこう離れてるみたいだし、近づかなければ平気でしょ」


 とりあえず、さっきの木の実で喉を潤そうか。

 乗っても折れない枝に近づき、人の姿に戻る。服装はそのままだが、邪魔だと思った髪は腰よりも短くできた。


「私の意識の方が仕切ってんのかなぁ」

「そのようなわけがあるものか」


 龍が憮然として否定しているが、私としては半分以上自分の欲求で体が動いている自覚があるんだけどな。


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