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完全に受け入れる側の準備が不十分だったわ

 

 こうして上から眺めてみると、割り当てた敷地面積に対して驚くほど建築面積が小さいのが丸わかりだ。

 隣家までが十メートル前後とわりと遠く、敷地が広い海外の豪邸に見せかけて、単純に家が小さいだけである。

 なんだか土地だけがあり余っている、ど田舎の限界集落のような物悲しさが漂っている気がした。

 その周りを歩く人たちと比較すると、直径四、五メートルの円の中で家族が寝食を共にしていることが良くわかる。いや、骨組みの間隔から円よりは八角形に近いのかな。

 いままで寒い地方に住んでいたからか、天井の高さは二メートルちょいくらいだった。これは住居の熱が冷めにくいように工夫しているらしい。

 竪穴式住居はほんとうに手狭だと思う。本来なら定員は三、四人くらいだろうが、どこの家も倍近い家族で暮らしているのだ。


「竪穴式住居が、もう少し広ければ良かったんだけどね。資材不足じゃ、どうしようもないよ」

「チカよ。訂正すべきか迷うたが、煌めく頭髪の者らの住処は竪穴式住居ではなく、ゲルという住居が近かろう? そなた、意図して間違えておるのか?」

「えっ? げる?」


 げるってなんだっけ? 記憶にはあったような、なかったような。


「モンゴルという国で暮らす遊牧民の住処だな」

「テントみたいなのだっけ?」

「素材は異なるが、概ね合っておるだろう」

「竪穴式住居となにが違うの?」

「これらの住まいは土台に穴を掘らぬ。だか、ゲルなるものは床に家畜の糞を敷くようだ」

「そっか、()()()だもんね。穴を掘ってないなら土台から間違ってたのか。それならもっと早く教えて欲しかったし。でも家畜の糞ってなんだ? 作物でも植えるのかな」

「否。チカは保温のためと記憶しているな」

「私の記憶をルーから説明されるのも、なんだか不思議な感覚だよ」


 それにルーしか知らない情報だったけど、間違い続けていたのはちょっと恥ずかしい。


「豆太は一緒にいて大丈夫? つまらなくない?」


 豆太にはわからない話だったせいで、ひと言も口を挟まずに大人しくしていたので聞いてみた。暇なら遊びに行っても良いんだよ?


「ぼく、しゅっ、しゅってしゅるの!」

「我を手伝うのだな」

「また板材にしてくれるんだね。ありがとう」


 ルーが拠点を作ったときに抜いた様々な樹木から、必要分を乾燥させて三メートルで揃える。樹皮を剥いだその丸太をルーが十五センチの角材に、豆太が厚さ二から三センチほどの板材に変えていくのは圧巻だった。


「これなら精霊の主が重用されるのも納得するわ」


 拠点の北東にちんまりとできた集落を、とりあえずモデルとしてつくろう。広場を中心に東西と南北に道を作っているし、ひとつの家に対して十五メートル四方の土地を振り分けた。

 分譲地みたいだが五十軒以上建てられる広さだから、最初につくったトイレと炊事場だけでは足りな過ぎることに気づく。


「銭湯にトイレがあるから良いけど、さっきの作業場にも必要だね。浄化のための魔石は精霊の棲家(ダンジョン)から貰えるから、足りなくて困ることはないな」


 作業場の中にあったほうが便利なのだが、狭くなるのが嫌なので外につくる。近所の人も利用するのでこちらの方が良いだろう。

 家が広くなって自宅にトイレも浴槽もできたなら、使わないものから撤去したら良いのだ。足りなくてその辺でされるくらいなら、公衆トイレが多い方がよっぽどマシである。


 北西の場所はまだ家が建っていないけど、炊事場までは百メートル以上の距離があった。これでは料理が冷めてしまうし、悪天候のときは食事作りに困りそうだ。敷地内は空いているけど、肉などを焼いている家の近くでは洗濯物が干せないし。


「いままでどおりに家の中で火をおこせば、換気しないと暑さで倒れそうだしなぁ」

「チカの思うまま増やせば良かろう。我には容易いことぞ」

「材料もあるし、なんなら最初に大工さんが欲しかったのは、ルーの能力を知らなかったからだったわ」


 ルーは精霊を集めるために、自分で建てられるくせにできないと言っていたんだった。服をつくれたんだから、そういう能力があることに気がつくべきだったな。


「そういうことなら炊事場とトイレは必須だし、子どもたちが遊べる場所もつくらないと」


 そのうち、学校とか役所とかお店とかそういった必要なものを足せるように、余裕をもって住宅を配置しないといけないね。

 私は、思い切ってルーの力を惜しみなく借りまくることにした。


「お風呂の近くなんて限定してたら集会場の場所に困るな。だったら西側につくって、三軒目の銭湯を隣接させた方が良いか」


 人口が増えたら西か南にしか土地がないんだから、そっち側に家が増えていくか。永遠に広場が中心なわけにはいかないから、南西に置くのもありだな。


「まめちや、ちゅかれないのよ?」

「ん?」

「てぃかは、きらきらのみんながちゅかれぇりゅってゆったの」

「うん、料理する場所やお風呂に遠いとか困っちゃうって思ったからね」

「まめちゃはしゅぐちゅくから、ちゅかれないのよ?」


 そりゃあ豆太は風の精霊(ヴィンティスタ)だもの。この拠点なんて、何十周したって疲れないだろうね。


「チカよ、豆太は使う者の意見を聞けと言うておるのだ」

「ん?」

「本当に困っていることを助けてやれということよ」

「わかった。とりあえずバルトフリートさんたちのところに行って聞いてみよう」


 広場に降りて北に行き、出会った人にも聞いてみようと思ったら、北側の水路近くで子どもたちと遭遇した。


「なにしてるの?」

「ルー様だ」

「あたしたち、虫がいないか探してるの」

「むち?」


 虫? 豆太と脳内でハモったわ。アイツらはいない方が良いじゃないか。そういった生き物は拠点を平らにならすときに、全部堀の外に捨てたんだけど。


「どうして虫が必要なの?」

「ガチョウに食べさせるものが草しかないとかわいそうだよ。きょうはたくさん食べさせたって言ってたけど、あしたの分はないんだって」

「お腹が空くのはつらくて悲しいわ」

「まめちゃのびしゅけっと、しゅこしあげゆね」


 この女の子は東の集落の子だろうね。子どもなのにふっくらとしたほっぺじゃないのは悲しくなる。だけど聖樹の実に宿る力が、栄養失調で弱った体を回復させて、いまはとても元気だ。あとは適切な食事と運動で、健やかな身体を取り戻していくのだろう。

 豆太が悲しそうにビスケットの箱を出そうとしたので、ルーがかわりに亜空間収納(インベントリ)から一箱取り出した。それを私が一枚ずつ配る。

 豆太がお菓子の在庫を減らすのを、ルーは見かねたのだろう。


 優しいミルクの味のシンプルなビスケットだが、私はシリーズでは赤い箱のこれが一番好きだ。

 ちなみにチョコチップのはルーが大切に保管しているから、誰かに分けたりするのは難しいと思われる。


「卵をたくさん産んでもらわないと、弟が大きくならないってばぁちゃんが言ってた」

「ええっ、まだわかんないよ? 女の子のほうがいっしょにあそべるもん」


 お母さんは妊婦さんか。忘れてたけど、クリスティーナさんからプレゼントされた裁縫箱があったんだった。


「やらねばならぬことが山積みよ」

「次々と問題が起きるから忘れてたんだよ」


 せっかく思い出したけど、いまは後回しだ。


「ガチョウのための小さな池を作ろう。そこに小魚やエビを放つ」


 水草なんかもあれば良いかな。ラメトゥたちの池より小規模なんだから、すぐにできるはずだ。


「よし、ガチョウはどこにいるのかな?」

「さっきはあっちの水路を泳いでたよ」


 子どもたちはいっせいに紅葉みたいな手を東に向けて、ガチョウが向かった先へ指をさす。

 いままで放し飼いだったから、ガチョウたちは好きに拠点内を遊び歩いているらしいが、餌がもらえるからと家の周りから離れることはないらしい。


「じゃあ、角の(やぐら)予定地に行こう」


 北西の角は櫓を建てる予定地で、丸太を置いているから空き地になっている。その南側にトイレを作ったから、一軒建てられるスペースがあるのだ。


「広場があるから遊ぶところには困ってないですよ?」

「そうなの?」

「僕ら、こんなに広いところで暮らせるなんて思わなかったから、平らな道を歩くのもおもしろいよ」


 この子は西の集落の子だな。十歳前後くらいに見えるから、村で過ごした記憶がないんだろう。

 子どもたちと一緒に歩くと、五十メートルで櫓建設現場に着いた。

 ここは道の幅を五メートルで統一しているし、ひと区画は十五メートルだから計算がしやすい。


「トイレがこれくらい離れてると大変だよね?」

「なんで?」

「遠くないの? 夜は怖いんじゃない?」


 初日のトイレの説明では子どもたちに不評だったから、ついでに使い勝手を聞いておこう。


「あたし、森のほうが怖かったわ」

「小さい子はオマルがあるから心配ないよ。オレはトイレの方が明るいから、夜も怖くなくなったぜ」


 そっか、いままでは真っ暗な中でするしかなかったんだね。暗くなる前に排泄してしまい、夜に水分を取らないようにしていたらしい。


「急におしっこがしたくなったら、いまくらい離れていると大変じゃないの?」

「ルー様、私はトイレまでおうち三つ分離れてるけど、弟だって走っていけばすぐだって言ってたわ」

「ちなみに弟君は何歳かな?」

「イペルンは五こ下だから、七歳よ」


 家三つ分なら四十五メートルだし、七歳ってことは小学生かな。お姉ちゃんの後ろからこちらを見ている子がイペルンだろう。


「おうちからおトイレまではとおくないかな?」


 一応本人にも聞いてみる。膝に手を置き、ちょっとかがんでイペルンの顔を覗き込めば、照れたようにはにかんで大丈夫だと返事をしてくれた。

 この子たちは基本的に大声で騒いだりはしない。そんな暮らしをしてこなかったから、大きな声で笑ったり泣いたりするのは、本当に何もわからない赤子くらいだ。

 大人が騒がないんだから、それを見ている子どもも騒ぐことを知らないんだろうね。


「おっと、ここでいいや」


 現場では男性たちが土台を組み終えて、必要な長さの材木をならべている。


「おいおい。危ないからあんまり近づくなよ」

「お前ら虫取りに行ったんじゃないのか?」


 作業の手を止めて、父親たちが子どもに声をかけている。ノコギリや斧は問題なく使えたようで、落とした枝が山になっていた。


「セバルトさん、こっちのトイレの水路側に、ガチョウ小屋を作っても邪魔になりませんか?」

「おや、ルー様。子どもたちが困らせてはおりませんか?」

「みんな良い子だし、いまもいろいろと教えてもらってたんだよ」

「そうでしたか。ガチョウの小屋も作らねばと思っていたところでした」

「じゃあちょうど良いね」


 よし、みんなでガチョウ小屋と池を作るぞ。

 子どもたちも張り切ってお手伝いしてくれるらしいので、この機会に体力や能力を確認しておこう。


遅くなりすみませんでした

一日間違えていました

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