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美しい毛並みをもつ種族の隠れ里

 

「ふうん? 長毛種の犬か猫かな。見つけてくれた豆太にはゴメンだけど、私たちは家がほしいんだよ。お家を建てられる人じゃなきゃ困るんだ」

「おうちにすんでるの。ちいさい、かわいいおうちよ?」


 それは犬小屋のことかな。猫ちぐらの可能性も捨てきれないか? 豆太はこ首を傾げてかわいらしく訴えかけてくるが、それは仔馬ちゃんの目がサイドを向いているからだろうか。

 上体を起こしてあぐらをかくと、右の太ももに痺れたような圧迫感がある。痛みはないが何事かと右腕を上げて腰をひねると、腰帯についたホルダーにムチを装備したまま寝てしまったかららしい。よく見るとハーレムパンツにはウエスト部分にゴムが使われておらず、お高そうな装飾がついた腰帯で押さえていることがわかる。


「良いではないか」

「いいの!?」


 雑に寝たことが? それとも豆太がフサフサの生き物を見つけたこと?


「では豆太よ。そのキラキラのところへ案内してくれるか?」

「まめちゃ、まりもちゃんからきいたとこにあんないしゅる!」


 まりもちゃん……? そっか、下位精霊(マリェンモ)のことか。しかも豆太が見つけたわけじゃないの? えっ、お友だち? 又聞きで大丈夫なのかね。

 誰かに飼われているペットのところに案内されちゃったら気まずいよ。そんな時間があるのなら、我が家の場所をちゃんと決めてからで良くない?


「チカはだらしなく寝ておったな」

「はぁっ!? 私が寝てたんならルーだって同じでしょ」

「我は既に拠点を整えたぞ」


 なに! もう場所も決めたし堀も柵もできているだと。


「えぇっ!? 全然知らない、記憶にない。ルーの記憶も見えないじゃん」

「知る必要はない」

「そこは見たらわかるって言ってよ」


 ルーが準備した拠点の広さは、約百エーカー。…………スマン、その単位は知らない。黄色いクマのタイトルでしか聞いたことないよ。


「フム、東京ドームだと、八と半――」

「いや、何個分とか言われても検討つかないからね!」


 広さを想像することはできないが、球場がいくつも入るサイズだったら、かなりの敷地面積だろうね。

 私の記憶に東京ドームの情報が残っていたことには驚きを隠せないが、その記憶を自分のもののように会話に取り入れてくる、龍という生き物の知能にも驚嘆する。

 隠し事どころか寝ている間に活動していてもわからないとなると、私の寄生っぷりが露呈してしまう。はじめて目覚めたときは私が主導権を握っていると信じていたのに、ルーが煩わしいと感じたなら、私なんてシャボン玉みたいに消えちゃうんじゃないのかな。


「そのようなことは考えても無駄だ。チカを厭うてはおらぬ(ゆえ)な」


 そっか、ならハンバな魂の寿命が来て消えてしまうまではよろしく頼みます。


「よし、家猫だろうが野犬の巣だろうが行かなきゃわからないよね」


 ハズレだとしてもルーが豆太を叱ることはありえないんだし、魔獣に敵対されたとしてもルーの体を傷つけられる生き物はいないんだから大丈夫かな。そんな気持ちでその一歩を踏み出した。






「きらきらなのよ」

「それは間違ってはいないけど、体毛すべてがメタリックカラーじゃないよね?」

「知らぬ。剥ぎたいのか?」


 パールなんて可愛いものじゃなくって、金属系のキラッキラのメタリックな色彩だ。それに老人の服を剥ぎ取りたいわけないでしょ。ひとを痴女扱いしないでもらおうか。

 豆太とその友だちの案内で開いたポータルの先は、ホワイトシルバーメタリックの頭髪をみつ編みにして左肩に垂らしている、ありがたい神様みたいなお爺さんの真ん前だった。


 集落にある空き地に集合していたらしい住人たちの中心に突如私たちが現れたことで、周りの人たちは恐慌状態となって散り散りに逃げ去ってしまう。残されたのは腰を抜かしたお爺さんと、ニコニコしているひ孫らしきお嬢ちゃんだけだ。

 ちなみにその子の頭髪の色は、カッパーオレンジメタリックであった。


「心配なさらずとも大丈夫ですよ。森には行かないようにしておりますので」


 ルーの魔術でね。お爺さんはその場で腰を抜かしたまま、オロオロと四方に散り散りに逃げた住民を視線で追っていたので声をかける。パニック状態で森に逃げ込むなんて、魔獣に襲われる確率が爆上がりしちゃうし。


「お気づかい痛み入ります」

「いえ、突然お邪魔したこちらが悪いんですから、そうかしこまらないでください」


 ご年配の人からここまで恐縮されると、さすがにこちらも居たたまれないんで。


「おねーさんが、たすけにきてくれたひとですか?」


 五歳前後くらいの幼女が物怖じもせずに話しかけてくる。この子だけが歓迎ムードだが、視線を移動させると納得した。その子の肩にはモモンガのようなリスのようなちんまりとした生き物が鎮座していたのだ。


「フム、森林の精霊(ヴァルドゥギュイス)だな。まだ幼いが賢い子だ」

「このこはアイヒェル。アイちゃんなのよ」

「そっか、すごく可愛いね」

「あ()がとでちゅ」

「カワユイな」


 アイちゃんは、小さな頭をペコリとさげてお礼をいう。声もとてもかわいいし、ルーはそればっかりだな。精霊を前にするとデレデレしちゃうんだよ。でも豆太よりも幼い口調がまた可愛らしさを増幅してるね。


「うふふ。おねーさんたらおもしろいの」

「えっ? そうかな、あははっ」


 驚いた。私とルーがそれぞれ話していることを、いまはじめて指摘されたわ。豆太は気づいているのかよくわからないが、まったく気にせず話してくれたからなぁ。

 いまのままだと、私のせいでルーが二重人格者のように思われてしまうんだね。これはなにか対策を考えないと。


「助けにと言うからには、お主らは困っておるのだな?」






「わたしどもの髪は街の貴族に珍重され、力無き者は人買いの奴らめに攫われ、連れ去られることがあるのです」


 珍しい人種をコレクションする変態がいるから、山の中に隠れ住んでいる。要約すると大体こんなことらしい。


 この里に住む人たちの左手首は、数本のブレスレットで彩られていた。自分のものとは違う色の髪の毛が織り込まれたブレスレットは、私の記憶にあるミサンガに似ている。実際、このブレスレットは子どものお守りや健康祈願、恋人同士が交換したり安産祈願だったりといろいろな目的で贈られ、そのたびに増えていくらしい。

 里人は男女問わず手先が器用で、複雑な模様が織れる人ほどモテるようだ。


「ここにはなん世帯くらい住んでいるの?」

「二十八です。動けない老人も含めると、里人は百十八名います」

「最近でも連れ去られた人はいるの?」

「五年ほど前に狩りに出た兄弟が戻りませんでした。彼らは弓と魔術に長けていたので、このあたりの獲物を仕損じることはありません。おそらくは捕らえられたのでしょう」

「魔術に長けるとな?」


 ルーから絶対に回収するという決意が伝わってきた。この熱意はどこから湧くんだろう。


「それにしたって、まさかの竪穴式住居とはね」


 豆太が言ったかわいいお家って、このことなのか。


「ぬ、ここでは地べたに寝ておるのか」

「さすがに土の上で直寝はないんじゃないかな」


 こわごわと入口の暖簾(のれん)みたいな布をめくり上げ、お宅訪問をさせてもらって確認すると、床材は無くて土がむき出しだった。寝具は藁のようなストロー状の植物の茎を乾燥させ、その上に毛皮を敷いて敷布団にしている。掛布団も動物の毛皮だな。大きさ的に熊や猪だろうか。

 生活用品はほとんどなくて、危険が迫るとすぐに逃げられるような暮らしを、長年続けているとのことだった。


「私どもを殺すのでしょうか」


 集めた里人を代表して聞いてきたお爺さんは、覚悟を決めたような表情でこちらに問いかける。失敗した。この人たちは常に狙われる恐怖を抱いて暮らしているんだ。

 下位精霊(マリェンモ)たちが喜びに舞い上がっていても(比喩じゃなくて物理ね)、上位精霊(マニェータ)たちが畏まっているのだから、不安だったのだろうな。


「そんなことは絶対にしないよ。こちらはあなた達にお願いがあってきたんだけど、返事はいいや。ルーはもう決めたみたいだから」


チカを寝かせてから、ルーは拘束されていた屋敷に赴き、元凶の男が既に死亡していることを知りました

資料は皇太子がすべて回収しましたが、龍の恐ろしさを知っているので、呪具師のつながりを調べたあとはすべて処分すると決めています。ルーも精霊に見張らせているので捜査後処分しなかったら燃やすように頼んでいます

その際、庭に生えていた樹木に精霊が宿っていたので、拠点へ植え替えましたが、それをチカが知ることはありません

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