993.お前はもう詰んでいる
「さて。この音声まで否定できるかしら?」
「ご、合成だろう?」
「苦しい言い訳ですね。弁護士さん、それ預かってくださる? 法廷での証拠としてあげましょう。警察の方に合成かどうかの判定お願いしておけばいいわよね」
「そうだな。それはこちらでやっておこう。この話を聞く限り、阿久井田社長がそこのマネージャー君に仕事を斡旋したのは事実。そしてその仕事でアイドルが襲われている映像も事実と見ていいだろう。では、阿久井田社長を告発、でいいのだね」
「くっ」
圧倒的不利な阿久井田社長に、散紅さんはにぃっと笑みを浮かべる。
「あら、私が告発するまでもなさそうよ?」
「何!?」
遠く、サイレンの音が聞こえる。
どうやらこの事務所に向かっているようで、複数のパトカーの音が重なって聞こえて来た。
「ば、馬鹿な!? 警察を呼んだのか!?」
「あら? 私は呼んでないわよ? 誰が呼んだのかしらねぇ」
「まさか!? 貴様、ここは囮か!」
何かを察した彼は慌てて席を立とうとする。
が、その肩を押さえつけるマイネさんと勇者ブレイド。
「な、何をする!?」
「まだ話は終わってないでしょう?」
「こちらの音声に関して、あんたの返答をまだ聞いてない」
「だ、だから合成音声だと……」
「弁護士さんが証拠になると言ってるんだ。つまり合成じゃない、だろう?」
「ええい、五月蠅い! 貴様等我が社から出ていけ! この事務所は私の事務所だぞ! 貴様等なんぞが「そこまでです!」何だとォ!?」
扉が開かれ、見知らぬオッサンが現れる。
かなりやつれた苦労性のオッサンは、何かの書類を持っていた。
その背後には、警察官と思しき方々、あ、刑事さんまでいらっしゃるようだ。
「福島ァ! まだ会議中だぞ貴様! 社長である私の仕事を邪魔するのか!」
「もはや貴方は社長ではありません。これほどの悪行を重ねていた以上、貴方はもうただの犯罪者です」
「っ!? 貴様、まさか……入ったのか? 社長室に! 俺の断りなく入ったのかァ!! 副社長風情が!! 福島ァァァァ!!」
「……連れて行ってください」
福島副社長の言葉で、部屋に押し入って来る警察の方々。
マイネさんたちが後ろに下がると、思い切り立ち上がった阿久井田社長が暴れ出す。
警官たちを薙ぎ散らし、部屋からの脱走を図る。
「残念ながら、それ以上の狼藉は許さん!」
が、逃げ出そうとした阿久井田社長の腹へと前蹴りが突き刺さり、阿久井田社長が吹っ飛んだ。
応接間のテーブルに体から落下して粉砕。
そして部屋に入って来るキカンダーさん。
「正義の味方として、貴様を秘密結社に協力した危険人物として確保する!」
「もはや逃げ場は無いわ!」
「観念しなさい!」
「お前はもう詰んでいる」
「ぐぬ……ふざけるな! 俺は、俺は社長だ! アイドルどもを何人も排出してやった阿久井田事務所の社長だぞ!!」
お? まさか変身か? 怪人に変身して正義の味方に倒されるのか?
「俺が社長だ! 俺がぁぁぁ」
あ、違う。ただただ駄々こねるように暴れるだけだった。
正義の味方たちに倒されることもなく、手錠を掛けられ、警察の方々に連行されて行った。
「うーん。ちょっと尻切れトンボよね。暴れたり……ん、んんっ。動き足りないわ」
マイネさん、清いマイネさんが引っ込んじゃってるよ。
普通のマイネさんよりちょい悪系マイネさんが顔出してない?
「み、皆様、ウチの阿久井田が、その、すいませんでした」
「福島さんでしたか。貴方はそこまで関係してないのでしょう?」
「いえ、こうなるまで放置した責任があるでしょう。運営方針などを変更し、現状のメンバーで回せるようになるまで社長職を行った後は辞するつもりです」
真面目だねぇ。
散紅さんもため息一つ。
「まずは被害者把握から遺族などへの補償かしら? それとテレビで公開謝罪?」
「今から胃が痛いですね……」
「とりあえず私から言えることは、貴方は何も知らなかった。たまたま社長に用があって社長室に入ったら機密情報を見てしまい、これは酷い、と警察に内部告発をしました。と告げた方が傷は少ないわよ」
「ええ、貴女方の知り合いから何度も言われましたのでそれはもう理解しております」
阿久井田の野望は潰えた。あとはこの副社長がなんとか切り盛りしていくしかないだろうな。
いろいろスキャンダルが発覚しそうな気がするけど、頑張って切り抜けてほしいと思う。
しかし、怪人や戦闘員の流通路潰した訳だし、ここから人身売買していた奴らが何かしら行動してくる可能性があるな。
この近くだと秘密結社クモリエル辺りかな?
「先手必勝、やられる前に潰しましょうヒロキ!」
「いやー、どうかなぁ。他の正義の味方たちの意見も聞こうぜマイネさん」
全く、この人ほんと好戦的だねぇ。




