992.裏で行われている盛大な起爆
SIDE:???
「失礼、社長はいらっしゃるかな?」
その日、危険人物たちが応接室に向かってしばらくした後のこと、再びアイドル事務所に無数の人がやってきた。
ほとんどのメンバーは同じ服装の男たちで、彼らを引き連れているのは、正義の味方、プリピュアとキカンダー、グレートマン、ジェイク、そしてマスコット枠なのだろうか、レムさんがいた。
「え、な、何の御用で……?」
受付嬢はそのメンバーを見て硬直する。
なぜならば、正義の味方に率いられてやってきたのは、無数の警察官だったのだから。
「失礼。ここの社長に殺人容疑があると善意の一般人から連絡があった」
「も、申し訳ございません、社長は今他社からのクレーム対応をしておりまして……」
「ならば副社長でも構わない。社長室に入らせて貰う、これが捜査令状だ」
「な、なんで今日に限って……」
「あ、あのープリピュアですよね、私ファンなんです」
「ちょ、今そんなことしてる場合じゃないでしょ!? 私も欲しいのにっ」
「あはは、いいですよ、副社長さんが来られるまでサインします」
「皆さんには容疑もないですし、いつも通り営業していてください」
「あ、は、はい!」
いきなり殺人容疑だけで捜査令状が取れる可能性がどれほどあるかすら分かってない受付嬢たちは正義の味方たちからサインを受け取りホクホク顔で副社長の到着を待つ。
副社長が慌てた顔でやってくると、対応を全てお任せして、自分たちは通常業務へと戻った。
警察官たちの相手は副社長に丸投げらしい。
副社長を引き連れ、彼らは社長室へと向かっていく。
自分も入れないのですが、と告げる副社長に令状を見せつけ、彼らは問答無用で侵入していく。
副社長も若干、おかしいとは思ったものの、普段ありえない光景の為に些細な疑問は流れて消え去った。
「証拠を探すぞ」
「くまなく探せ!」
「全く、正義の味方に何させるんだか」
「まぁまぁ、悪人なのは既に確定してるから、出来ることでしょ」
「きゅいきゅーい」
レムさんがパソコンを開いてカタカタと悪戯を始める。
すかさずジェイクがそのパソコンへとUSBを差し込む。
「仕事が早いなレム君」
「きゅいっきゅ」
良いもの貰う予定だからね。と鼻歌交じりに機械をいじるスペシャリスト。
グレムリンこと機械のいたずら妖精に掛かれば、この程度のパソコンに掛けられたロックなどないも同然。すぐに重要な機密情報がUSBへと流れ込んでいく。
「あった! 皆見つけたよ!」
「こっちもだ!」
「これ裏帳簿かな? 皆さんこれ見てください」
「これは……今まで自分が手に入れたアイドル図鑑か? ひでぇ趣味だ」
「きゅい?」
「どうしたレム君。ああ。それも重要そうだ。動画だから容量が多いが貰って行こう」
「予想以上に出てくるね。しかも隠してない」
「社長室に自分以外入って来るはずもない、と確信してるからだろうね。はい、これもヤバい資料」
「ちょっと!? これ見て皆! 逆らったマネージャーやアイドルを秘密結社に売り払ってる!」
「嘘でしょ!? ここ凄く有名なアイドル事務所なのよ!? それが、怪人作ってるような悪人たちと繋がってるっていうの!? なんてこと……」
「うっわー、ギルティだ。これは言い逃れできないね。ヒーロー連盟に連絡しちゃうね」
「よろしくレッド」
次々に見つかってしまうヤバい情報に、副社長は自分は関係ないのに土気色になっていた。
もはや目の前で行われている家探しがどう考えても警察の行うようなやり方ではないという事実すらどうでもよくなるほどに、彼は精神的に追い詰められていた。
自分が止める立場であったのに、社長のワンマン経営に口出しすらできなかった。
結果がこれだ。
もはやこの全てが明るみに出るだけでアイドル事務所自体が潰れかねない。それほどの悪行が次々に現れる。
いったいどれほどの悪事を働いていたのか。
「ああっと、失礼。自己紹介がまだでしたね。副社長殿」
「へ?」
「私どもは散紅さんの知り合い、コスプレ同好会のメンバーです。この令状、本物っぽいでしょう?」
「へ? え?」
「こちらに案内していただけたので、住居侵入罪にならなくて済みました。ああ、こちらの手に入れた社長のやらかし、警察に告げるかどうかは貴方にお任せしますね」
突然、目の前の警察官にしか見えない男たちがただのコスプレイヤーだと知らされパニックになる副社長。そんな彼の手元へと集う社長の悪行の数々。
「私たちが持っていくと窃盗罪になりかねませんが、貴方が持っていけば、内部告発です」
「っ!?」
「はい、こちらすでに警察への連絡しちゃってますよ、どうぞ」
受話状態の電話を渡され、彼はごくりと生唾を飲む。
【事件ですか、事故ですか?】
「あ……その……な、内部告発、します」
そして副社長は、その詐欺みたいな告発劇に、参加することになったのだった。




