986.スニーキングミッション
無事に事務所に侵入成功。
三人で警戒しつつ、目的の人物がいるらしい場所を目指す。
えーっと、とりあえず索敵使って……お、結構人がいるな。
一応この辺りには近づいてくる気配はないけど……
キマリスさん、変な音立てないでよ。
「ふぅ、だったらボクだけ一人で侵入させないでよね。ぷんすこっ」
小声でお怒りモードのキマリスさん。実際に怒ってるわけじゃないのでワロスワロス、と謝っておく。
よし、ここからは遊びは無しだ。
失敗イコール社会的な死だからな。
「だからさー、あそこの振り付けアレは無いと思うのよー」
「でもあんたのやりたい奴だと整合性なくない?」
ぬおおぉぉ!?
あっぶねぇ!
今の索敵に引っかからなかったぞ。一般人、いや、俺らを敵認識してないからか?
索敵じゃダメだ。えーっと、探査か!
おおー、こっちなら一般NPCも反応するや。
あっぶね。この近く一般人が多い。というか多分アイドルが多い。
って、このままだとあそこの三人がこっち来る!?
「ど、どうする少年君!?」
「え、えーっと、と、とにかくこの部屋だ。誰もいないから入るぞ!」
と、入った先は、まさかのロッカールーム。
あ、これ、やって来る三人組、目指してんのここじゃね?
「袋小路、ね」
「と、ともかくどこか隠れられる場所……あ、ヤバいもう来る! ええい、あそこだ!」
俺たちは慌てて隠れた。
ロッカーを開いて体を滑り込ませた俺たちがドアを勢いよく締めたその直後。
「おーっし、今日もがんばるよー」
「元気一杯ねぇ。お姉さんもう帰りたいなぁ」
「まだ始まってねぇだろ。そら、さっさと着替えて行くぞ。皆待たせてっからな」
それぞれ自分のロッカーへと向かい着替えを始める。
あ、あっぶね。誰か知らんが俺らの隣のロッカー使ってんじゃん。
「へへ、ぎりせーふ、だね」
「なぁキマリスさんよ、あんたなんで俺の隠れたロッカーに入ってきたん?」
「え、だってここに隠れるんだよね?」
「個人でな。アカズさんはすぐに逆隣りのロッカーに逃げ込んだぞ」
当然ながら小声である。
今の状況、どういえばいいのだろうか。キマリスさんの方が背が高いせいで俺がキマリスさんに持ち上げられた抱っこ状態というべきか、顔の位置にキマリスさんの胸が来て柔らかいのは嬉しい誤算。
というか、まさかキマリスさんとロッカーに二人きりイベントが起こってしまうとは。別の女の子だったら喜べたんだけど……キマリスさん、当たってます。
「ちょっと、具合の悪いの当たってますよ」
「少年君のだって当たってるじゃないかー。ふふ、当たってるんじゃない、当ててるのさ」
「殺すぞ?」
一瞬だが、俺は確かに殺意を覚えた。
「ん? 今なんか声が聞こえたような?」
ほぅっ!?
びくんっと驚く俺はぎりぎり動くのを堪え切った。
「んっ、少年君、動いちゃ」
おい、今乙女っぽい反応してんじゃねぇよ! そういうフリの状況じゃねぇって分かるだろ! ふざけてんじゃねぇっつの!
「おい、何してんだ! ただでさえ時間ヤベェんだぞ!」
「あ、ごめん! すぐ行くよ」
着替えを済ませたらしいアイドルたちが去っていく。
ドアを出たのを確認し、探査からこの部屋に来る気配が一切なくなったのを確認して、ようやく脱出。
ロッカーから出た俺たちは、ようやく一息ついた。
「あ、危なかったですね」
「ああ、アカズさんは完璧だったけど、こっちがヤバかった」
「はぅ、少年君の冷めた瞳でボクは何か新しい扉を開きそう……ドキドキが止まらないよぅ」
キマリスさん、それ恐怖によるドキドキですよ? 吊り橋効果だからやめておきな。
「やっぱ気になるっ」
二人ともこれを!
油断した瞬間、なぜか戻ってきたアイドル達。
ロッカーに戻ることすら無理だった俺たちはぎりぎりでそのアイテムを使用した。
「おい、ほんといい加減にしろよお前!」
「確認、隣のロッカー確認したら戻るからっ」
小走りで部屋に入ってきたアイドルは自分の隣のロッカーへと向かい、思い切り開く。
「なんかいたかー?」
「んー、居ると思ったんだけどなぁ。ごめん気のせいだったみたい」
「ったく、マジでいい加減にしろよ、お前毎回似たようなことして当たった試しねーだろ」
「お姉さんもそろそろ疲れたわぁ、帰っていいかしら?」
「まだ仕事してねぇだろ! さっさと行くぞ二人とも」
そしてアイドルたちは今度こそ本当に去っていく。
閉じられたドアをしばし警戒し、俺たちは段ボールから身を乗り出した。
「あ、焦ったぁ」
「いや、なんで気付かないかな!?」
「キマリスさんが持ってきたんでしょ。意外と何とかなるのね、段ボール箱」
慌てて被った段ボール。
アイドルたちが入ってきたロッカールームに不自然なミカン箱が三つもあった訳だが、なんで気付かないんだあいつら? 馬鹿なのか?




